エピローグ
夏休み明けの校舎は、どこかよそよそしい。ほんの少し成長した生徒たちと、しばらく空っぽだった校舎が馴染んでいないような、どこか浮き足だったような感じがする。
その廊下で、陸とハナは出番が来るのを待っていた。
「緊張してんのか?」
「あ、当たり前でしょ。こういうカッコ、まだ慣れないし」
制服のスカートから伸びた足をもじもじと動かす。
髪型やメイク、ハナのスカートの長さやソックスの色にいたるまで、初日だからと気合いの入った晴香によるトータルコーディネート。朝五時半に隼を連れて乗り込んできたことには、さすがの千代も開いた口が塞がらないようだったけれど。
「いいじゃん、似合ってるぞ。――これもな」
陸は、ハナの髪をまとめている髪留めに触れた。晴香は「こんなダサいの、よくプレゼントしたよね」とぐちぐち言いながら、それを付けてくれた。
「嫌がってたくせに、岡嶋もなかなかスパルタだったよな。俺までひでー目にあった」
「あたし、まだ先生が出した宿題全部終わってない」
思い出して、二人ともげんなりとした顔になる。
あの後、開き直った岡嶋による地獄の授業が連日続いた。なぜか陸、小野寺、隼、晴香までもが巻き込まれた。
「僕ひとりに全部押しつけようなんて甘いんだよ」
そう言った岡嶋の頭には、オニにもない角が生えていた気がする。
それでも、簡単な読み書きや計算しかできなかったハナを、どうにかこうにか中学卒業レベルまでの学力まで引き上げたのだから、岡嶋はきっと立派な教師になれるだろう、と全員が確信した。
扉の向こうから、わっと歓声が聞こえた。もうすぐ出番だ。見れば、ハナが目を閉じて深呼吸を繰り返していた。
陸は、それを見てふっと笑うと、掠め取るようなキスをした。驚いて目を開けたハナに、もう一度キスをする。
「大丈夫だ。みんなついてるから」
赤らめた顔でにらみつけるハナを今すぐ抱きしめたい衝動をなんとか抑え込んで、陸は一歩踏み出した。
「静かに! 今日からみんなの仲間になる二人の転校生を紹介します!」
ざわめきの合間に、どうぞ! と促す教師の声が聞こえた。
「行くぞ」
「うん」
ハナがきゅっと陸の指先を握る。触れ合う体温に、きらめく光が見えた気がした。
そう、きっと大丈夫。
新しい世界への扉が開いた。沸き上がる歓声が二人を包む。
【 完 】
こちらで終わりとなります。
つたない物語でしたが、読んでいただき感謝します。
ありがとうございました。
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