表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「オレ」と「キミ」のボーダーライン  作者: 清谷ロジィ
打ち上げ花火と蛍の光 ~ハナside~
43/65

 自転車のところに戻ると、陸は地面に座り込んだ。私もその隣に腰を下ろす。ここにある小さなお社は、祭りの喧騒とは無関係だと言わんばかりに暗闇の中にいる。


「よし、じゃあたこ焼き食おーぜ」

「結局たこ焼きって何なの?」

「タコっていう足が八本ある生き物がいて、この中にそれが入ってるんだよ」

「八本……?」


 蜘蛛みたいなものなのかな……。思わず背筋がぞくりとする。


「なんか気持ち悪い」

「まあ、見た目は気持ちのいいもんじゃねーかな。ぐにゃぐにゃしてるし」

「ぐにゃぐにゃ……?」


 陸の言葉どおりに想像すると、どんどん食べ物から遠ざかっていく。ヒトはそんな得体の知れないものを食べるのか。


「いいからとりあえず食ってみろって」


 陸が鼻先にたこ焼きを突きつけてくる。この中には足が八本あるぐにゃぐにゃした生き物が……。口を開けることすらためらっていると、陸が「ほら」と見本を見せるように、たこ焼きを口に運ぶ。


「んー、うまい! 俺、小さいときからたこ焼き好きなんだ。ハナにも食ってほしくてさ」


 もぐもぐと口を動かす陸は、いつもより子どもっぽく見えた。そんなに美味しいのかな。私は意を決して、陸が差し出すたこ焼きをぱくりと食べた。ぎゅっと目を閉じて、タコの姿は想像しないようにして――。


「……ん!」


 美味しい。ぐにぐにした食感のこれがタコだろうか。その姿さえ無視すれば、これほどのものはない、と思うくらい美味しい。


「どうだ? うまいだろ」

「うん」


 陸が差し出してくれるのを、今度はためらわずに口にする。それを見て陸が笑った。


 ――あの坊主と仲良くするんだぞ。確かに俺のたこ焼きは絶品だけど、ケンカして食ったら美味くないからな。


 不意に、おっちゃんの言葉を思い出した。本当だね。食べ物って、仲良く食べたらこんなに美味しいんだ。そういえば、アマネと一緒に食べたカボチャの煮物も美味しかったな。あのカボチャのことも、ずっと陸に言えないままだ。


「あれー? そのチャリってもしかして陸?」


 遠くから声がして、陸がハッとしたように振り返る。小さく呟いた(しゅん)、というのは、そのヒトの名前だろうか。


「なんだ。来てたんじゃん。あっちにみんなもいるから一緒に回ろーよ。俺も結局親父の手伝いサボっちゃった」


 陸が近付いてくるそのヒトの目から私を隠すように立ち上がった。知り合い? きっとバレたらまずいんだ。その背中からは確かな緊張が伝わってくる。


「いや、さっき見て回ったし、もう帰るとこだから」

「えー、メインの花火はこれからだよ。せっかくだから一緒に……あれ?」


 私に気付いた隼というヒトの声が、からかうようなものに変わった。なんだか嫌な予感がして立ち上がる。身体が、逃げろって言っているみたいな気がした。


「もしかして、その子が例の「LOVE」の子? へー、こんな暗いところで二人っきりなんて、陸もなかなかやるじゃん。この辺の子じゃないよね?」


 陸の肩越しからのぞく隼はにこにこと笑っているのに、全然そう見えなかった。その視線から逃れるように頭のお面を少し下げて顔を隠した。


「こいつ、人見知りだからさ。また今度な」

「えー、いいじゃん自己紹介くらい。俺、隼って言いまーす。陸とは大親友で――」


 隼が強引に陸を押しのけて私の前に立つ。値踏みするように、私の全身を眺めていた隼の表情が固まった。


「おい!」


 陸が隼の肩をつかんで私から引き離した。けれど、隼の視線は一点に向けられていた。私の足下。なんだろう。怖くなって一歩後ずさる。


「ちょっと隼、何やってるのー? さっきからみんな待ってるのに」


 また別の声が割り込んできた。五人――いや、もっといるかも。この世界は陸のもので、私はそこに紛れ込んだ異物なんだって、ここでも思い知らされる。


「もうすぐ花火始まるんだから場所取り行こうぜ」

「あれ? もしかして陸くん? なんだ来てたんだー。よかったら一緒に行こうよ」

「いや、もう帰るところだから」


 陸がどんどんと近付いてくる集団を押しとどめようと、そちらへ声を掛ける。みんながそちらに気を取られている間に、私だけでも走って逃げてしまおうか。そんなことを思っていると、隼が私の耳元にささやいた。


「君は、オニだよね」


 私の世界が思い出したようにぐらりと揺れる。どうしてバレたんだろう。そんな疑問を読み取ったのか、隼は小さく笑った。


「そのスニーカー、俺のなんだ。もうサイズ合わなくなったから捨てられたんだと思ってたけど。まさかそっちにやってるとはね」


 隼は、私の足下を――ぶかぶかのスニーカーを指して言った。


「どうして陸とここ(・・)にいるの?」


 顔を隠すために下げたお面を、強引に上げられた。剥き出しにされた目は、隼の目に捉えられてしまう。それは、あの夜に見たジンとよく似ていた。怒りに満ちた、それでいて寂しそうな目。


「ここはあんたたちの来るところじゃない。オニは山の中に閉じ込められているのがお似合いだよ。あんたがどうなるか見物だね」


 もう一度私の耳元でそうささやくと、みんなの足止めをしていた陸に近付いて、その肩をポンと叩いた。振り返った陸に、隼は片目をつぶってみせる。


「ダメだよ、みんな。陸はね、この子と今いい感じだから邪魔してほしくないんだって」


 たちまちヒューッと歓声が上がる。


「マジでー!」

「陸くん、やるじゃーん」

「だーかーらー。お邪魔虫は退散退散」


 隼がみんなを引き連れて去っていく。その後ろ姿を見送って、陸がホッと息をついた。


「悪い、ハナ。大丈夫だったか」

「――うん」

「もう帰るか」


 残っていたたこ焼きを二人で食べた。すっかり冷たくなって、さっきまでの美味しさはもうどこにもなかった。気付けば、海上の人影もまばらだった。

 それは、終わりが近付いている証拠。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ