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陸が部屋に入ると、暗闇の中に小さな光の点滅が見えた。その正体は、ここに来てからめっきり持ち歩くことが少なくなったスマホ。
俺に連絡取ろうとするやつなんてそうそういないのに、珍しいこともあるもんだ。
画面に指を滑らせると岡嶋からメッセージが入っていた。
そうか、こいつがいたか。
『鬼沢くん、久し振り。夏休み、ご両親と一緒にそっちに行くことになったよ』
陸がいなくなってから、その穴を埋めるように岡嶋が鬼沢家を訪れるようになり、孝男、と由梨子は真面目で素直な岡嶋をすっかり気に入ってしまった。そして、その境遇にも大いに同情したらしい。
不動産屋のツテとコネを最大限に使い、格安物件のアパートを探して半ば強引に引っ越させると、岡嶋を雑用係のバイトとして雇ったのだ。
どうもワケアリ物件だったようだが、岡嶋の母親は看護師という仕事柄か、そういったことには頓着しないタイプで、岡嶋本人も「ときどき物音がするくらいだよ」と、のほほんとしている。
あいつ、意外と図太いんだな、と陸は感心していた。
『了解。俺とばあちゃんが作った野菜食わせてやるよ』
『鬼沢くんと野菜ってなんか似合わないね』
そんな返信とともに、こちらを指差して笑っている猫のスタンプが送られてきた。
「あいつ、目の前にいないからって好き勝手言いやがって」
言葉とは裏腹に、くすりと笑いが漏れる。こんな馴れ馴れしいやり取りを、心のどこかで覚えていた。オニと呼ばれるようになったあの日までは、陸にも友達がいた……ような気がする。
しかし、あの日以来、みんなが陸を避けるようになった。いたはずだった友達さえもいなくなった。
手の中にあるスマホで「友達」と検索して現れる結果と、あの日いなくなった友達や岡嶋はうまく結びつかない。自分はかつてどうやって友達を作っていたんだろう。
『ぶっ飛ばされてーのか』
激怒している犬のスタンプも一緒に送りつけてやる。
俺は、ハナと友達になれるんだろうか。そんなことを思ってしまう。けれど、やっぱり「友達」の検索結果とハナは繋がりそうにない。
まあ、出会い頭にトマト投げつけてくるようなやつだもんな。陸の口からまた笑い声が漏れた。
――友達だと思っていいかな。
かつて岡嶋が放ったストレートな問い掛け。ハナに向かってそんな台詞を口にしている自分を想像して、二の腕にぞわりと鳥肌が立った。
スマホの画面には、岡嶋から返ってきたガタガタと震えている猫のスタンプが表示されている。
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そして「ともだち」というものの正体を掴めないまま、陸は今日も山道を上っていた。ただ、以前より出発の時間はずっと遅い。
「まあ、俺もそんなに暇じゃねーし」
誰に言うとでもなしに、そんな言い訳を口にする。けれど、その言葉とはうらはらに、足を運ぶスピードはゆったりとしていた。
それは、カゴがいつもより重いせいでもある。陸が千代に見つからないようにこっそりとカゴに忍ばせたものが原因だ。ちょっとしたサプライズ。
ハナはどんな顔をするだろう。想像すると、笑いが込み上げてくる。
休憩することも忘れて、陸はまっすぐにあの小屋を目指した。




