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微妙な妙子  作者: 昇新太
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やらかし人生

妙子はうんざりしていた。

今日も仕事でミスをしてしまい、上司に注意された。お前はもっと落ち着いて見直し確認しろと。

就業時間を幾分か過ぎてオフィスの入る古びたビルから外に出ると、髪の毛が舞い上がるくらいの強い風が吹いた。そういえば朝BGMがわりに流しているラジオで今年の春一番と言っていたように思う。

干した衣類に洗濯バサミをちゃんとはさんできたっけ?と不安になる。いつだったか洗濯バサミを挟み忘れて、お気に入りのトップスを風で飛ばされ失ったことがあるからだ。

妙子はうっかりミスが多い。

頭の中にたくさんの情報がとっ散らかってまとまりがないので、洗濯物を干すなどの決まった行動は無意識に動いてしまい、その間に違うことを考えるせいで手元が疎かになりがちだ。

仕事でもそういった傾向がある為に、今日も重要な書類を添付し忘れてメールを送ってしまい先方に迷惑をかけた。毎日1回は何かしらやらかしている。

とはいえ、日常生活に支障がきたす程ご大層なことを考えているのかというとそうではない。大抵はつまらない戯言だ。単に物事に集中できない性分ともいえる。

たまに思う。人類がめっぽう減って食べものは自給自足、衣食住に必要なものは大抵自分で作り、足りないものは物々交換。お金に最大の価値を置かない(よって会社組織が存在しない)そんな過去の世界に戻れないものかと。しかし、現代社会の便利なインフラは享受したい。エアコンも電子レンジも車も便利だし医療は脅威的だ。それがなくなるまで退化するのは躊躇する。どうにか美味しいところ取りができないものか。組織に属さず、己の精神も肉体も支配できるのは己だけという本当の意味での自由な生き方で心満たされたい。

しかし妙子は第一次産業とは無縁のサラリーマン家庭で育ち、現在も小さな商社で勤めている。生まれた時からお金に支配された生き方で、今更自然と大地に根付いた生活へ転身する勇気も気力もない。

知らないというのことは恐怖がうまれる。初めての挑戦には情熱と思い込みと勇気がいるのだ。

小心者で臆病なくせにズボラだと自覚している妙子には飛び込んでやってみるという冒険心など芽生えにくい。

土の耕し方も知らない、野菜の種類の適切な季節に植えるタイミングも知らない、魚の漁り方も知らない。やったのは釣り堀でニジマス釣り体験くらいだ。ペットは飼えても畜産動物の飼い方も管理の仕方も知らない、服の作り方も知らない、ましてや糸から紡いで布を織る方法も知らない。料理だって調味料は既に出来上がったものを使うのみ。たまにパンを手作りする?そのドライイーストは市販で買ったものだ。酵母なんて元から作れない。何も知らない。

知っているのは与えられたPCに入っているアプリケーションを使って取引先に請求書を送るくらいだ。使い方を覚えれば誰でもできる。こんなことは一体、本当に生きる上で何が役立つというのだ。

古代人には敬意しかない。先人たちは無いものを生み出す知力と体力と行動力があったのだなと感心しきり。

そんなことを考えていた妙子は、帰りの電車の路線を反対方向に乗ってしまっており、気がついたら最寄駅からは遠く離れた終点駅に着いていた。


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