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第四話「僕がここにいる理由」2

8月はバッタバタで全然投稿できなくて本当申し訳なかったっす

10月から国家資格取得のためまた投稿頻度下がるので、9月頑張ろうと思います!

またよろしくお願いします。

「旦那、例の城下町はそろそろです。この林道を抜ければすぐですぜ」


 若い商人が声を張り上げたのは翌日の午後だった。馬車は路上の小石を蹴り飛ばし、小刻みに揺らしながら勢いよく木々の合間を駆け抜けていく。


「おい亮哉、もうそろそろ起きろよ。街が近いってよ」


 商人の声を受けたレナードは荷台の中でうたた寝を続けていた亮哉の肩を叩く。


 大きく欠伸をした後にゆっくりと亮哉は半身を起こしてぼんやりとした表情を見せた。


「亮哉くん、もう大丈夫なんですか?」


 美咲が心配そうに覗き込むので、それに合わせて笑顔を浮かべた。


「これだけ寝れば僕はもう何も問題ないよ。おはよう美咲」


「ふーん、『美咲』に『亮哉くん』ねぇ……」


 二人のやりとりにレナードは訝しげな表情を浮かべ、まだ目蓋が下がりがちな亮哉の肩に手を置く。


「なんだよ」


「いや、一晩で随分と仲良くなったものだねぇと思ってね」


 レナードの口角が吊り上がるが、それはどことなく不敵な笑みであった。


「何もなかったんだろうな?」


「お義父さんの立場としてはどうなって欲しかったの」


「だから、お義父さんて言うなって……」


「お父様、そういうの娘の立場としては非常にデリカシーのない会話ですよ」


 そういうとレナードは少しばかり肩を落として黙り込んでしまう。自分が実際に子を成した立場でないにせよ、異性からの一言にしてはいやにきつい一言だったのだろうか。ややあって口を開いた時にはすっかりこの話題を辞めてしまった。


「それにしても、俺達がいくら親子の関係であっても、お互い同年齢にしか見えない以上は少し関係を偽装しておく必要があるな」


「まぁ、確かにな。僕は経緯を知っているからさておき、傍から見れば中々異常な関係だよな」


「だからこそ、俺と美咲はあくまで兄妹という関係として扱っておきたい」


「お父様がお兄様、ですか。確かにその方が色々と説明しやすいと思います。でも……」


 美咲はその提案には何処か不安を抱いているような様子が見て取れる。そこで助け舟を出したのは亮哉だった。


「実際にアーセナル卿とやらがこの旅の目的を知って協力してくれることになったとして、そうしたら一つ嘘を吐いていたことになるから信用を失いかねないってことだろ?」


「はい、出来る限り信頼関係を築く上での不安要素は取り除いておきたいんです」


「でも、その都度君たちの関係と美咲の経歴を話すわけにはいかないんじゃないかな。僕みたいに鵜呑みにして信じる人間ばかりじゃないと思う。普通に誇大妄想癖のある人間かと疑われて捨て置かれる方が勿体ないよ」


「亮哉の言う通りだ。でも一方で美咲の言うことにも一理ある。しっかり信頼関係を作り上げてから相談するという形はどうだろう」


「そうですね。しっかり話が合う仲になれば信じてもらいやすいでしょうし」


 決まりだな、と亮哉は頷く。


 話も決まって安心しきったのか、荷台に寄りかかって力を抜くレナードに対して今度は亮哉が話を持ちかけた。


「さて、いいところで今度はお義父さんに色々問いただしてみることにしますかね」


「お前実は結構根に持つタイプだろ……。俺に何を聞く気なんだ」


「結構大切なことだよ。戦い方や特技を聞いておきたいんだ」


 問いかける亮哉の目には問いかけるというよりはどこか尋問をするかのような真剣さがあった。その眼光に怯むことなくじっと視線を合わせるレナードだったが、しばらく見つめ合った後に深くため息を吐いて肩を竦めて見せる。


「そうだな。これから一緒に戦う仲だし、いつまでも隠し通すことは出来ないだろうな」


「私もおとう……お兄様のその手の情報を何も知らないので、すごく気になっていました」


 美咲はレナードをじっと見つめながら顔を近づけた。その額を手の平で押し返すと、義理の妹の声に応えた。


「まずきちんと知っていて欲しいのは俺の武器の話だ。実は俺は聖武具の持ち手なんだ」


「えぇ! せ、聖武具? そんな物、現実に存在するんですか!」


 荷台の外から御者代わりをしている商人二人組からの素っ頓狂な声が上がった。


 聖武具とは世界各地に点在するマジックアイテムの中でもより強大な力を秘めた物で、神々の力を直接受け継いでいると語り継がれている他、神話の時代に扱われた代物であるとも囁かれている。


 その上、歴史上では創世の時代とされる頃にごく僅かの英雄のみが扱っていたと伝えられている。それ故に、聖武具はかつての英雄や建国の父とされる偉人の伝説をより大々的に伝えるための、言わばプロパガンダとして尾ひれを付けるための辻褄合わせではないかと近年の歴史学者達は考えていた。


 現に、エルト界ではここ数百年で聖武具を扱っていたと噂される者は存在していない。


「あぁ、だから秘密にしておいてくれよ?」


「なるほど、あのでかい音を出す目にも見えない速さで敵を切り裂く武器は聖武具だったのか」


 感心して頷く亮哉を嗜めたのは美咲だった。


「あれは地球の……、いえ、アエリア界で作られている銃という武器ですよ。細長い形をした鉛の弾を打ち出すものです。でも確かに、あれでは聖武具ではないのでは」


「実は俺があの時使っていた銃が聖武具なんだよ」


 レナードの返しに思わず美咲は首を傾げた。元々銃など存在しないエルト界の住民である商人達はそもそもその説明自体がピンと来ていないのだろう。怪訝な表情を浮かべてレナード達の話に食い入っていた。それにしても、より不思議なのは人種としては同じアエリア界の出身であるはずの亮哉も商人達と同じような表情を浮かべていたことだ。


「俺の聖武具は大きな穹なんだが、その力の一つに『飛び道具を生成する』というものがあってな。その力を使って俺は銃を生成出来るって訳。生憎残弾はマガジン一丁分だが、撃ち終われば新しく生成すればいつまでも弾薬は尽きないんだよ」


「そんな力が……」


 そのような力があるのか。そう言いかけた美咲に対して食い気味に話を続けた。


「もちろん俺もこの力を手に入れた時には驚いたよ。しかし、この聖武具の本領はこんなものではない。だけどこれ以上はいくら美咲でも企業秘密だ」


「これから僕達仲間になるって言うのに、そこは隠すのか」


「悪いな。別にお前達のことを信じていない訳ではないんだけど。どうしてもこればかりは秘密にしておきたいんだ。この力を知っている人間は俺達アルテミス・コーポレーションの中でもほんの一部しかいない。それだけ俺にとっては秘策そのものなんだ」


「その秘策ってのは気になるが……。他にも何かあるんじゃない?」


 亮哉の問いにレナードは思わず眉を顰めた。その表情は根掘り葉掘り聞こうとする態度を訝しんだわけでもなく、単純にどこまで話せばいいかと考え込んでいるようであった。


「ついでにもう一つ、俺も実はお前の妙な光のように能力を一つ持っている」


 そう言ってレナードは自身の左目を指差す。


「確か目にそう言った力があるんですよね。確かに私のことを育ててくれた賢斗さんはお兄様、のことを目が良すぎると仰っていました」


 お兄様という言葉を辿々しく呟きながらのフォローが上がる。


「そうだ。これも全てを話すことは出来ないが、俺の左目は物理的に視野を広く見ることが出来るんだ。ここいらの地形がどうなっていて、何処に何がいるのか、そんなところまで分かる。まぁ、それが誰かとまではわからないけどな」


「飛び道具使いがそんな力があったらインチキそのものじゃないか」


 呆れ返ったような声が上がった。弓兵にとっては地形や敵兵の位置を把握しておくことは必須である。地図を読む力や風を読む力だけではなく、周辺にわずかな違和感や鎧や金属の装備から反射する光を察知して敵を察する力がなくてはならない。


 そういった知識や力は長年の経験や努力によって培われるが、風を感じて判断する部分以外は全てその能力ひとつで対応できるというのはそれだけで有利になる。ましてや、その上で敵の位置を全て認識することが出来たなら。


 亮哉は何かずるいことをしていると言わんばかりの視線を向けた。


「そうだな。だいぶインチキしていると思うぜ。でも、この力があるからこそ今までずっとどんな危険な作戦も乗り越えられてきた」


「だったらいつかは教えてもらいたいものだな」


「その時まで俺たちがいい関係を築けてたらの話だけどな」


 あっけらかんと言い捨て、レナードは荷馬車から微かに覗く空を見上げる。その表情はどこか亮哉や美咲を信頼していないというよりは、どこか期待しているような楽しげに見えた。


「ところで亮哉の能力も詳しく聞いていないが……」


「俺の能力は魔力そのものを光にして、その光を使って描いた模様をそのまま具現化することが出来るんだ」


「……どういうことだ?」


説明が腑に落ちなかったのか、レナードは怪訝な表情を浮かべる。その表情に亮哉も察したところがあったのだろうか、同じ顔つきになりしばらく考え込む。

 

 能力者の言うところの能力とは結局のところ異能と呼ばれる特別な力である。故に普遍的な技術や能力と違い、本人にしか分からない個性のようなものだ。何が出来るかという点ひとつを見ても、能力次第では言葉に詰まってしまう。


 その上、人に説明を逐一する必要はなく、寧ろ知られたくないという思いを普段から抱いている人間にとっては言語化する必要性がないことから、伝え方など端から認識にないのだ。


 ややあって、亮哉は何を思いついたのか、指先に魔力の蛍火を迸らせた。指先が空を切ると、その残光がひとつの線となり、やがてひとつの絵となった。風が吹く様子を示す簡単な絵だった。

 亮哉が合図するまでもなく、絵が唐突に震えだすとレナードの顔に向かって爽やかな風を吹き始める。風を受けて銀に近いアッシュブロンドの髪がふわりと揺れると、日の光に触れて微かに煌めいた。


 涼しげな表情を見せ、風を一頻り楽しんだ後にレナードは納得したように笑って見せる。


「さっき街で剣を作ってたあの力ってこういうことにも使えるんだな。結構多才な能力なんだね」


「中々便利でな。この力があれば野宿する時も火種には困らないもの」


「水も困らなそうだよな。飲めるかどうかはわからないけどな」


 その言葉で二人は快活な笑い声を上げた。その様子を静かに見守っていた美咲は小さく首を傾げる。


「二人とも何かはぐらかしてますね……。一体何を隠しているんでしょうかね」


 疑い深いなぁと言わんばかりの視線を向け、その後の二人の様子をしげしげと眺める。


 互いの懐を探るような会話がしばらく続く中、不意に荷馬車の外から商人から声をかけられた。


「そろそろ目的地が近いですよ!よかったら外を見てみませんか?」


 商人の声に反応したレナードは声を張り上げる。


「ようやく来たか。ありがとう! 一体何かいいものが見れるのか?」


「ええ、多分驚きの光景ですよ! 他の国では見られない……、龍がそこら辺で生息している動物と同等に闊歩しているんです!」


 林道を抜けると辺り一面には平原が広がっている。その中には大きな動物の姿もあった。それは放牧されている牛などではなく、大きな蜥蜴のような姿であった。その背中には折り畳まれているとはいえ、その姿に似合うほどの翼が生えている。間違いなく龍そのものである。


「おお、すげぇ。まさか龍があんなにのんびり座っているところはじめて見た! なぁ、二人も見てみろよ!」


 レナードは目を輝かせながら外から荷馬車の中に目を向ける。しかし、そこには楽しげな姿とは裏腹に亮哉の横では美咲が顔を青ざめて塞ぎ込んでいた。


「美咲……?」


 平原に吹く爽やかな風が通り抜ける中、それを心地よく受け止められないでただひたすらに脂汗を流す美咲の姿はひたすらに龍という言葉に怯えているようだった。


 神龍王ローグ・イスクード。その姿を模した兵器。


 それが与えた痛みは単純な破壊だけではなく、人の心にも大きな傷跡を残していた。


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