プロローグ 3
姫子さんと出会ったあの日から1週間が経った。俺は研究室にいる間も未だにあの日のことばかり考えていて、複雑な心境であった。姫子さんとのやり取りで感じたえもいわれぬ感覚を忘れずにいられなかった。不思議な人だった。自分の過去に泣いて同情してくれる人がこの世にいるとは思わなかった。思えば自分に抱擁してくれる人なんて姫子さんが初めてだった。あの時の姫子さん、いい匂いしたな…何故初対面の俺にあそこまで親切にしてくれたのだろうか?疑問である。
因みにあの店にはあの日以来まだ足を運んでない。ここで男子諸君に聞くが、性的な本やサイトに出会ってしまった時、それを再度見ようとすると妙に緊張して見づらくなるという経験はないだろうか?それに近い感覚である。店に行こうとすると、姫子さんにされたことを思い出して気持ちが疼くのだ。
す
長岡(研究室のメンバー)「おいロン毛!!聞いてんのか!!」
何だってんだ!人が滅多にないいい思い出に浸ってる時に!
寺西「何だようるせえな!」
長岡「先生が呼んでんだよ!分かったら行けや!」
先生が…?先生というのはうちの研究室の矢野教授のことを指す。教えるのが下手な癖に無茶な課題は押し付けるわやり直しは何回もさせるわで嫌な奴極まりない。宇宙に関する研究ができるというから入ったのだが、間違いだった。その先生が俺に何の用だ…?俺は先生の部屋へ向かった。
寺西「失礼します…」
矢野「来たか。まあ座れ。」
俺は椅子に座り、話を聞き始めた。
寺西「それで、話というのは…」
矢野「ずっと前にお前の大学院の進学決定の話があっただろ。」
俺は以前大学院の進学が決定していた。こんな最悪な研究室だが、宇宙の研究をしたい夢のある俺にはそれしか道がなかった。
矢野「実はこの研究室に来年度から新しく入ってくる学生ができてな…定員を確保しなければならないがうちにはもう余裕がなかった。」
矢野「そこで…お前の院の話を取り止めることにした。」
寺西「………はぁ!?な、何で!?」
矢野「…今までお前のことを見てきたが、お前がいても周りの奴らと言い争ってばかりでとても我が研究室に有意義だとは思えん。対して例の彼は誠実な心の持ち主だ。お前なんかよりよっぽど取るに値する。」
寺西「ちょっと待ってくださいよ!院進学には成績が優先されるはずですよね!?俺は問題ないはず…」
矢野「お前何か勘違いしてないか?大学院は人間性を見るところでもある。お前は成績は十分だが人間関係が致命的に悪い。成績だけで世の中評価されると思ったら大間違いだ。」
矢野「ま、これも社会勉強ってことで、元気でやれよ。」
寺西「…….......ざけるな…」
矢野「あ?何だ?」
寺西「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺は怒りのあまり、矢野の胸ぐら掴んで彼を床に押し倒していた。
矢野「…寺西。そっから先のことをやったらどうなるか分かってるよな…?」
寺西「……………ッ!!」
俺は冷静さを取り戻し、手を離した後、何も言わずに糞野郎の部屋を後にした。研究室に戻った後、俺は自分の荷物だけ持って出て行った。
梅田(研究室のメンバー)「あいつもう出ていったぞ!自殺でもすんじゃね!」
もう悪口を気にする余裕すらなかった。今すぐにでもこんな地獄みたいなとこから去ることで一杯だった。