緊急事態なのに師匠が帰って来ないんだけどー!?~見習い錬金術師の奮闘~
『回復術師の私は追放される…え?期間限定ですか?』のちょっと後の話です。
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※11/12…終盤の文章が雑だったので見直しました。
オレはダラカ。世界的に有名なギルドの見習い錬金術師兼見習い回復術師。師匠は霊族のフィアと魔族のメグリ。
フィアは元怨霊だけど、何でか今では実体を持つ霊族となった冒険者。詳しい事は分からないけど、賢者の石がどうとか言ってた。
メグリはオレと同じく勇者アレクの拾われっ子でオレのアネキ。あと、弓使いリックの嫁。
「ダラカ、アタシちょっと薬草を採りに行ってくるから!」
「りょー。今回は何日?」
「うーん。一週間くらいかな?メグりんの事はよろしくね!何か有ればおばばを呼びなさいよ!」
「へーい。いってらー」
オレは後悔してる。何故アイツを送り出してしまったんだと。薬草の採集は自分で行かなくても他の仲間に頼めば良かったよな?
◇ ◇ ◇
今、アネキが産気づいている。定期的に痛みがやって来るのかその度に唸ってる。いや、もうこれは悲鳴だ。出産って凄絶。
部屋にはもうすぐだからとギルドに詰めてた百戦錬磨の産婆であるおばばとアネキの旦那のリック。それから助手扱いのオレ。
女の人は居ないのかって?ウチのギルド、女っ気が全く無くてさ。おばばの助手を呼んで貰ってるけど、来るまで時間が掛かるんだよ。
おばばに見習いだろうと錬金術師で回復術師なら手伝えって言われたからオレはここにいる。男なのに居ても良いのかな。
そんなこんなでおばばの指示の元、オレはモルス花から麻酔になる花水の抽出をしてる。これは十数分で効力を失うから前もって用意出来ない物。だから直前で抽出をするのは仕方がないけど。
「うん、そろそろだね。ダラカ、花水はまだかい?」
「ちょっと待って!もう少し!!」
あー!なんだってこんな時に限ってフィアのバカは居ないんだよ!アイツの方が絶対に早いって!全然一週間で戻って来ないし!もう一月経つし!何時もの事だけどさ!
「良いから早くしろっ!」
「リックは少し黙ってろ!」
さっきからピーピーうっさいんだよ!アネキが苦しんでるから文句を言いたいのはわかるけど、お願いだから集中させてくれ!
「お前さんは居ても何も出来ないんだから、文句しか無いなら出て行くかい?」
「嫌だッ!」
「じゃあ、黙ってメグリの手を握ってやんなさい」
「おばば、出来た!」
オレが花水を渡すと、おばばがアネキの腰元で何かを用意し始めた。オレは振り返らない様に注意しながら赤子を迎える準備を進める。
「いいかいメグリ。今から出口を切るよ。花水を使ったけど痛いだろう。この前言った通り、回復魔法を掛けるのは赤子が完全に外に出てからだからね」
「わっ、かりましたっ!!」
アネキが叫びながら返事をした。
これは世界有数の回復術師がいるここだからこその荒業だそうだ。…妊婦ご本人だけど。普通この方法を取ろうとすると、聖女や神官のいる神殿に付いてる産院で処置を受けるのでかなりの額が必要になるらしい。
ブチッという鈍い音と共にアネキの叫び声が響く。おばばがアネキにいきんで、止めてと指示を出す。部屋に血の臭いが充満する。横目にリックの顔を見たら真っ青になりつつもアネキの両手を確りと握っていた。オレはただただ手が震えている。
今ここに居るのはあの時何も出来なかった子供じゃない。大丈夫だ。落ち着け。
「メグリ、良いよ!ダラカ!!」
オレは血に塗れた赤黒い赤子を携えたおばばの元に近寄る。この子はまだ産声を上げていない。でも、まだちゃんと心臓は鼓動を刻んでいる。
オレは直ぐ様回復魔法を赤子に掛けた。集中して、真剣に。震える手を無理矢理止めて。この子の命を繋ぐ為に。
「オギャア」
弱々しい。でも、確実に生きている。
「間に合って良かった…」
それは誰が言ったのか。オレはふっと意識を手放した。
── side フィア ──
いつも通り錬金術用に割り当てられた部屋で調合をしていると、ギルド長のアレクが訪ねてきた。
「フィア、ちょっと行ってきてくれないか?」
「何よ。このタイミングでアタシをギルドから出すって事はよっぽどの事情?」
メグりんの出産までもうすぐじゃん?まぁ、アタシが居なくてもダラカが居ればどうにかなると思うけど。
錬金術と回復術の二刀流なんて後衛職としてはあまりにもチートだよ。本人は器用貧乏だと思い込んでるけど、あの若さでその二つを一級まで修められる人間なんて他に居ないんだから。いつまで見習いを装ってるんだろ。まぁ、特級のアタシや究極級のメグりんには言われたくないだろうけどさ。
「メグリの出産間近なのは分かってるが、だからこそ妖精族の住む森からエターナルフラワーを採ってきてくれないか?鉢植えの状態で」
「…なんであの花が必要なの」
「エルフのジジイ共から聞き出したんだ。エルフの魔力は桁違いだろ?赤子の内は自力で制御ができないから魔力暴走を抑える為に妖精族からエターナルフラワーを分けてもらうらしい。あの花は魔力を吸って育つんだってな」
エルフにあの花を分けてた?マジで?アイツらが?
「…行きたくないけど、メグりんの為ならしょうがないっか」
「頼んだ。くれぐれも飲み込まれるなよ?」
「だいじょーぶ。アタシにはとっておきのお守りがあるからね!」
アタシは首から提げているギルド証をチャリンと鳴らした。
アレクは心配そうな顔でアタシを送り出した。大丈夫だって。アタシは大人なんだから!
そりゃアタシだって一人で妖精の森に行きたくないよ?でも、一人で行かないといけない事情があるから。それにしても、妖精の森に行くのはひっさしぶりだなぁ。あそこには嫌な記憶しか無いや。
『穢レガ来タ!』
『許可シタ覚エハ無イ』
『立チ去レ』
はぁ。こいつらは相変わらずだね。昔のアタシもこうだったか。
「ちょっと花摘んだら帰るから通るよ。でもね…邪魔したら消す」
『ヒィィ穢レル』
『逃ゲロ!!』
アタシが少し凄んだだけで、奴らは逃げた。
さてと。親玉が出てこない内にさっさと採集して帰ろっ。アイツが来たら平静を保てる自信が無いし。
エターナルフラワーはどこだっけなー。あ、あの樹がここなら・・・うん、だんだん思い出してきた。よしっ。その沢を上って、あの岩を右にっと・・・あったあった。
「一株いただきますよっと」
背後に気を配ってなかったアタシが悪いね。気配に振り返ったらヤツがいたよ。
─────
こ、これで賢者の石の材料が揃った!
ネェ タスケテ ネェ!!
こ、これが賢者の石・・・。
ヤダ キエタクナイ
ソフィア。どうしても君に会いたかった。
コロシテヤル
中身が違っても君に殺されるなら本望だ。
─────
チャリンとした音に刺激され、意識の主導権を取り戻した。
アタシはあの時、アイツの前で人間に捕まった。何と引き換えだったのかは知らないけど、要するにアタシはアイツに売られた訳だ。
なんであの時助けてくれなかったのって思うけど、そう考えるあたりがもう妖精の精神とかけ離れてるんだよね。だって、アイツらは他人がどうなっていようと興味ないもん。人が殺されてる横でご飯が食べれるくらい無神経。…ご飯食べないけど。
それにしても、めっちゃ暴れたんだね。辺り一面荒れ野原になってるし。はぁ。またエターナルフラワーを探さないと。
てか出発してから何日経った?やばいっ!もう一月近くなるじゃん!!思いの外長い時間怨念に乗っ取られてたみたいっ!
アタシは必死になってエターナルフラワーを見つけると、一昼夜休みなしの猛ダッシュでギルドに戻った。
ギルドの玄関を開けるなり、近くにいた奴がメグリが今!とアタシに伝える。
急いでメグりんの部屋に向かった。廊下には心配しすぎて真っ白な顔をしたアレク。
「さっきから悲鳴が…」
「ちょっと、どいて!!」
アタシがドアを開けると、ちょうど同じタイミングで赤ちゃんの弱々しい泣き声が聞こえた。
「間に合って良かった。リック、これ赤ちゃんのそばに。ダラカはアタシが連れてくよ」
「ありがとう。任せた」
え?リックにありがとうって初めて言われた気が…。いや、今はダラカを運ばないと。
「てめぇ、帰ってくるのが遅いんだよっ」
寝かせたダラカを覗き込んでいたら、小一時間で目が覚めた。目が合った途端に弱々しくも殴りかかってくる。力が上手く入らないのかふらふらで全然脅威に感じないけど。
「あはは。ごめんって。でも良くやったじゃん。メグりんも赤ちゃんも元気だよ!」
ふらつくダラカのおデコをちょんと突く。それだけの衝撃でボスンとベッドに戻った。まだ回復しきってないみたい。
「ダラカさ、まだ血がだめ?」
「…うん」
「そっか。まぁ、ゆっくり休んで!あ、赤ちゃんが助かったのはダラカのお陰だからね。それは誇りなさいよ!」
「ありがと、、、」
ダラカはすうっと目を閉じた。
「──おばばから聞いたけど、大活躍だったみたいじゃん」
アタシはそっとダラカの頭を撫でて褒めた。起きてたら絶対叩かれてるね。
── side アレク ──
エルフのジジイ共め。生まれてくる子供も受け入れないってか!?半分はエルフだぞ!!
魔力暴走の事は聞いてたから長老を締め上げて無理矢理対処法を吐かせた。が、まさか妖精にエターナルフラワー分けて貰ってただって!?暴走の犠牲になればいいって考えが見え見えじゃねぇか!!
妖精の森に簡単に入れるのは妖精だけか。この時期にフィアを外に出すのは…いや、アイツ以外には頼めない。他の奴じゃ出産に間に合う保証が無いからな。
フィアに事の次第を伝え、ギルドから送り出した。
◇ ◇ ◇
1週間くらいで戻ると言っていたが、2週間経っても戻る気配が無い。フィアの部屋に行くとダラカが調合をしていた。
「ダラカ、フィアが戻らない」
「いつもの事じゃん。アイツの事だからひょいっと帰ってくるよ」
「そうか…」
「あーもう!大の大人がウジウジしてんなよ!アレクはドンと構えて待ってりゃいんだ。これからアネキの出産もあるんだしさ」
「そうは言っても心配なものは心配だろ」
「…はぁ。ったく、暇ならダンジョンにでも行ってこいよ。オヤジがやれる事なんてたかが知れてんだから」
「今俺の事、オヤジって言ったか?言ったよな。ははっ、ダラカー。今の不意討ちはダメだろー」
「に、にやけてんじゃねーよ!気持ち悪いっ」
「あっはっは!そんな真っ赤な顔で悪態ついても全然効かんな!」
◇ ◇ ◇
とうとう今日までフィアは戻らなかった。
朝から忙しなくおばばとダラカが働いてる。
「今受け持ってる中で一番の難産だからね。しばらくここに世話になるよ」
おばばはメグリの為にここに居てくれた。女手の無いギルドにはとても心強い。
メグリの部屋の扉が閉ざされた。俺はその前で行ったり来たり。たまにメグリの呻き声が聞こえる。
次第にバタバタとした気配がしてきた。その中聞こえるメグリの悲鳴。
俺は気が付いたら膝をついて神に祈っていた。
と、そこにフィアが現れた。
退けと突き飛ばされフィアはメグリの部屋に駆け込んだ。
ほぼ同時にドアの隙間から赤子の弱々しい泣き声が聞こえた。
良かった。間に合った。
俺はフィアに手を貸してダラカを部屋まで運んだ。
ダラカの顔を覗き込むフィアを見ていると何かが込み上げてきた。堪らず二人を抱きしめる。
「ありがとう、お疲れ様」
「うん。アレクもお疲れ」
◇ 7年後 ◇
メグリの産んだ子供はリックとメグリのいいとこ取りをした様な可愛らしい女の子だった。この可愛さは、はっきり言って世界最強だろう。
「お父さん、あまり甘やかしちゃ駄目よ」
「わかってるって。気をつけて行ってこいよ」
「アレク、ジェシィの事を頼む」
「ああ任せろ」
押し寄せる年波には勝てず、最近は長期遠征を自粛している。冒険は若い者に任せればいいんだ。俺はもうおじいちゃんだからな。
「じーじ早く行こうよ!日が暮れちゃうでしょ!!」
ちょっとおしゃまな所も可愛いもんだ。
服の裾を掴む小さな手に目を綻ばせながらダラカの住む街へ出掛ける用意を始めた。
── 人物紹介 ──
ダラカ(Age14、人間)《錬金術師 兼 回復術師》
幼い頃、目の前で両親が盗賊の凶刃に倒れた。以来血が苦手。
たまたま通りかかったアレクに拾われた。
直ぐさま治療ができれば両親は死ななかったとメグリに弟子入り。
ギルドでは錬金術師のフィアに懐き本格的に錬金術を学ぶ。
結局血が苦手な事は克服できず、成人後は冒険者を辞め街の薬師兼道具屋たまに医師として生活をすることにした。
フィア(Age?、霊族)《錬金術師》
元々は妖精族。
賢者の石の原料として錬金術師に捕獲される。
賢者の石にはなってしまったが、魂までは変質せずに霊族(怨霊)として近くに漂っていた。
錬金術師が行った人体錬成時に自我としてその肉体に宿る。
錬金術師を殺し復讐を果たすとやることが無くなり暇つぶしに錬金術を覚え始めた。
途方もない年月が過ぎた頃、クエストによって館に訪れたアレクについて行く事にした。
アレク(Age40、人間)《勇者》
トップギルド『荒野は晴れる』のマスター
魔王討伐の功労者の一人。「赤の勇者」
よく人を拾ってくる。
ダラカが6歳の時から親代わり。
46歳の時大怪我を負ったが、メグリの回復魔法によって完治した。
しかしそれ以降、年齢を理由に長期遠征など身体に堪える冒険を自粛している。
メグリ(Age22、魔族)《回復術師》
ダラカの姉で拝みたくなるほどの美女。
リック(Age?、エルフ)《弓使い》
メグリの夫で跪きたくなるほどの美男。
◇ 7年後 ◇
ジェシィ(Age6、ミックス)
メグリとリックの娘。エルフと魔族のミックス。
アレク曰く世界最強の可愛さ。
『荒野は晴れる』の由来
荒れた野にも晴れる時は必ず来る
魔王討伐隊の合い言葉でもあった
最後までお読みいただきありがとうございます。
2019.10.26