第14話 いえ違います。
「おい!すばるいるか?」
バーンと効果音がつきそうなくらいの勢いで入ってきたのはエルフの少年である松岡 秀三である。某元テニスプレイヤーに名前がそっくりだが、漢字が微妙に違う。
まー暑苦しいのには変わりはないが。
「いるけど・・・。なんか用?」
「ゲームしようぜ!」
「ゲーム?」
「そうだ!」
「そりゃまた唐突な。」
「よし!早速始めようぜ!」
いや人の話聞けし。
まぁこいつの場合いつもそうだからもうなれたけど。
「何のゲームだ?」
「聞いて驚け!なんとVRMMOだ!!」
な、なんだと・・・。
「ま、まて!そんなものが発売されたなんて聞いてねぇよ!?」
「ふふん!実は俺のおじさんはゲーム会社に勤めてるんだけど、その新商品の試作品だ!」
「ほう、興味がわくな。」
「だろ!さっそくやろーぜ!」
「おう。」
秀三の持ってきたゲームは結構大きい機械で、リアカーでガラガラ運んできた。
「ここのヘルメットを頭にはめるんだ!」
「ふーん。」
さっそく装着して、ベッドに寝転がる。
ヘルメットを装着したせいか、頭が重く、寝心地も悪い。
「よし!俺もつけるか!」
秀三も装着し、俺の隣に寝転がる。
ちょっと距離が近い。
うん、ホモホモしいからやめようか。
俺は気持ち秀三から離れた。
「ヘルメットの横についてるボタンを押すと、ゲームスタートだ!」
「オーケー。んじゃさっそく。」
ソード○ート・オン○インみたいに、リンクスタート!って言わなくていいのだろうか。
そんなしょうもないことを考えながら、ボタンを押す。
押した瞬間、視界がぶれて、一瞬で意識が落ちた。
ここはどこだ?
目が覚めると、真っ白な空間にいた。
周りにはなにもない。
『名前を決めてください』
そう思ってると、無機質な声が聞こえた。
そして俺の目の前にキーボードが現れた。
なるほど。これに名前を入力するのか。
俺はキーボードに“スバル”と入力した。
『プレイヤー名“スバル”で登録しました。これより始まりの町クルルへ転送されます。』
そう聞こえた瞬間、景色が入れ替わり、とある町の中に転送されていた。
うん、ここまではテンプレ通りだ。俺にしては珍しくテンプレにしたっがっている。
これでいいんだこれで。
そう俺がほくほく顔で喜んでいると、俺の隣に秀三が転送されてきた。
「おうすばる!お前早かったな!」
「お前が遅いんだよ。」
「いやー、名前に悩んじまって!」
「なんて名前にしたんだ?」
「ん?これだ!」
俺の前に、秀三のステータスが表示された。
ーーーーーーーーーーーーーーー
名前:もっと暑くなれよ!
レベル:1
HP:10
MP:10
攻撃力:10
防御力:10
素早さ:10
体
力:10
称号:暑苦しい男
スキルポイント:0
スキル:なし
ーーーーーーーーーーーーーーー
・・・名前なめてんだろ。
んだよもっと暑くなれよって。
こいつ頭わいてんじゃねぇの。
「お前頭わいてんな。」
おっと、言ってしまった。
「いやー、それほどでも!」
「ほめてねーよ。」
あと文末にビックリマークつける場面ではないからな。
お前はビックリマークをつけて会話しなきゃいけない病気なのか?
「だっておもしろいだろ!」
「いや全然面白くない。むしろシラケた。」
「な、なんだと!」
こいつこうしたウケねらいさえ治せばモテるのに。
だから女子に告っても「ごめん、松岡君のことは面白い友達にしか見えなくて・・・。」とか言われるんだよ。実際は全く面白くねぇんだがな。
「それよりすばるは名前なににしたんだ?」
「俺は普通だよ。」
そういって少し念じると、ステータスが秀三の目の前に出てくる。
ーーーーーーーーーーーーーーー
名前:スバル
レベル:1
HP:10
MP:10
攻撃力:10
防御力:10
素早さ:10
体力:10
称号:テンプレブレイカー
スキルポイント:0
スキル:なし
ーーーーーーーーーーーーーーー
テンプレブレイカーだと?
・・・・やかましいわ!!
誰がテンプレブレイカーだ!こっちとて好きでテンプレを破ってる訳じゃねーんだぞ!
「なんだよ普通だな!つまんねぇな!」
「つまらせたきゃ鼻でもつまんどけ。鼻はつまるぞ。」
「おう!つまんでやるぞ!」
「よし。いくか。」
「お、おい!置いてくなよ!」
鼻をつんでいる馬鹿は放置して、俺は歩き出す。
街を見渡してみると、中世ヨーロッパのような町並みが広がり、リアルと見間違えるほど精巧に作られたNPCたちが街を闊歩している。
「いやー、にしても完成度たけーな!」
「確かにな。」
俺は単純に
感心する。
まさかこれほどとは。
これこそ異世界っていう感じが素晴らしい。俺が転生した世界は全く異世界!って感じがないしな。
「いいじゃねぇか嬢ちゃん。ちょっと俺たちとやろうぜ。げへへ。」
しばらく歩いていると、がたいのいい男三人組に、目を見張るほどの美少女が言い寄られてるのが目に入った。
「やめてください!だ、だれか助けてください!」
そう言ってもNPCは見向きもしてくれない。
そんな中、俺は・・・感動していた。
夢にまで見たテンプレがここにある。
素晴らしい!まさに俺が人生にほしかったテンプレはこれだ。
いざ助けにゆかん!
そう思ってふと考えた。
これ勝てるのか?
NPCとはいえ弱いとは限らない。
いったん立ち止まり、男の一人を見ながら念じてみると、ステータスが見えた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
名前:チンピラA
レベル:26
HP:500
MP:100
攻撃力:80
防御力:50
素早さ:40
体力:60
称号:チンピラの典型
ーーーーーーーーーーーーーーー
おっふ・・・強すぎやんけ。
レベル1の俺が勝てる訳ねぇやん。
男の頭上にあるマークからNPCだってことはわかるけど。
いや勝てるわけ。マジ無理ゲーすぎん。
よし立ち去ろう。今の俺では勝てん。
ただ俺はこのとき忘れていた。
・・・暑苦しい男の存在を。
「待てい!嫌がってるんだ!はなしてあげなさい!」
あいつ、馬鹿だろ。
あいつが声をかけた瞬間、脳内にアナウンスが流れた。
『これより特別クエストを開始します。』
Oh・・・あいつのせいだ。
なにしてくれてやがる。
そして俺の視界の下の方にある表示が見え始めた。
『野生のチンピラが現れた。戦う←』
・・・チンピラに野生もくそもあるか!
つーか戦うのは確定なんだな。
逃げるのコマンドねーし。
「んだてめー!ぶっとばすぞ!」
うん、セリフがベタだぞ、チンピラ君。
「さぁ!早く放せ!放さないと俺が成敗してやる!」
「おい、秀三やめとけ。お前じゃ勝てないから。」
「正義の力を思い知れ!」
だから人の話聞けっての。
「来いよへなちょこ。」
「いざ!」
いざとか言ってるけど相手に完全なめられてるからね。
秀三に相手してるのチンピラAだけで、他の二人はにやにやしてるだけで、相手にもしてないし。
馬鹿な秀三はそんなことはつゆ知らず、チンピラAにつっこんていく。
「おらぁ!」
「ごふっ!」
どっちが誰の声かは頭の良い人ならわかるだろう。
言わずもがな最初の声がチンピラAで、殴られて情けない声を出しながら吹っ飛んでいったのがアホ野郎である。
そしてそのアホの屍の上には“DEAD”の文字が・・・。
馬鹿かてめえはああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
「おう、お前もこいつの仲間だな。」
「いえ違います。」
あああああああがこだます脳内を放置して、とんでもないことをぬかすチンピラAに食い気味に返事をする。
「今から殴るから、歯くいしばれや!」
「どいつもこいつも話を聞かねえなああああああああああああああああああ!!」
あああああああああと叫びながら全速力で逃げ出す。
今はこのチンピラには勝てない。とにかく離脱して・・・
「待てやコラァ。」
自分の顔面に拳が突き刺さる感覚を感じながら、俺はあることを考えていた。
現実に戻ったらこんなクソゲー二度とやるもんか。あと絶対あの馬鹿をぶん殴る。
“DEAD”
皆さんはちゃんと人の話を聞きましょう。