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君と私のアスノケシキ  作者: 床店 志帆
3/8

獣之涙

 幼い頃の記憶なんて鮮明に覚えているものなんてない。セリフも改竄してそうなものばかりだし、人の顔や風景ですらも頭の中で丁寧にモザイク処理が施されてある。そもそも、どれが一番古い思い出なんかって、並び替えすらできない。私は歴史が苦手だ。過去を振り返るだけの作業になんの興味も抱かない。在るものは、現在だ。そんなわけでアルバムなんて見返したことがないから、今を今をと焦り、テストの点が悪くても開き直り、そうして血を分けた親族の亀裂に気づくことができなかった。要因を模索しても、やはり思い出せずにいる。

 いや、ひとつだけ、たったひとつだけひと昔前の淀川とまではいかないが、ぼかしたフィルムが焼き付いていた。


 東さんが遥を知っている───事実は最初は驚いたが、よくよく納得もいった。私を知っているなら、遥も覚えられてても不思議ではない。双子の姉弟であり、ふたりで一つの枠組みとして見られることが多かった私達なので少し照れくさくなった。

 喜怒哀楽の喜と哀をスライドショーで見せた私に、怒とまではいかない、怪訝な表示な様子をして巨乳を揺らした。「何か…あったんだね」

 落ちた檜桶がカポーンと鹿威しのように間の長さを伝える。湯が一気に冷めていく。言葉を紡ぎかけた口に、静止の左手が上がった。そして動作主は間髪入れずに私の顔を豊満な胸に押し当てる。「何も言わなくていいのよ。…辛かったんでしょう?貴方の身に何が起こったのか、私は知らない。でもこれだけは言えるわ。よく我慢したね


───耐えるだけでは何も始まらないよ。


泣いたっていい。へこたれても構わない。それこそ、貴方の成長であり、未来を変えていくことなのだから。」

いつしか、私は哭いていた。獣のように我を忘れてただ鳴いた。しかし、今まで流したことのない暖かい涙だった。私がこの人を知らなかろうが、この人が私を知っていようが、どうだっていい。ただただ甘えたかった。それは動物の持つ愛情として当たり前のことなのだ。そういえば、母が私をこんな風に抱いてくれたのはいつぐらいだっただろうか。そんなことすら、忘れてしまっていた。

0の中の0。しかしこれが私の、始まりの0だ。

湯気は、溢れ出る涙が枯れるまで、浴場を覆い隠していた。

投稿主より立派に成長する主人公の鑑。

この前あれほどネタにネタに走った結果、短くなりましたけどシリアスになってしまいました。

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