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Phase.7 恩師のくれた魂を

 これで、本当の一件落着である。大事にならずに済んだのが、何よりのアーノルドへの(はなむけ)だった。あの日に拘束された全員はいずれも『墓荒らし未遂』のいたずらで、三日間留置場に留め置かれ、たっぷり説教されたうえで返されたのである。


 釈放の日、ロスを引き受けたのは何を隠そう私だ。

「じっくり反省したかい」

 事務所に戻ったロスは無言でうなずいた。

「私が、馬鹿でした。…バースたちに流されて、父の名誉に傷をつけてしまった」

「反省の時間は終わりだ。檻の中で少しは考えたかな。君は、バースに何をしてあげるべきだったんだろう」

 ロスは、深く頷いて言った。

「バースを、正しい道へ戻してあげるべきでした」

「そうだ、それがアーノルドが親分たちとかわした四つの約束の大切な中身だった。アーノルドの遺志を継いだ君は、バースの更生を導き、まともな道へ帰るのにきちんと見届ける義務があるんだ」

 私は、一枚のメモを差し出した。あの晩出さなかったこれも、クレアが古いうちの記録から見つけてくれたものである。

「この財団に電話するといい。ここは、ギャングの更生を手助けする施設だ。アーノルドの基金をもとに運営されている。貸付になるが、少しは当面の資金も援助してくれる。申請には書類が必要だ。バースの破産管財は、君が引き続き担当してくれるね?」

「スクワーロウさん…」

 ロスは、はっとしたように顔を上げた。私は、肩をすくめて片目をつむってみせた。

「全部使ったと言うのは、もちろん嘘だ」

 二人のギャングの同意ももちろん得てある。基金とは言うが、元は犯罪資金だ。この金を表の世界で活きた金にするには、時間と手間が掛かる。これはアーノルドの堂々たる『遺作』である。ぜひその志を継いで、活用していってほしい。

「これが、君の親父さんから学んだ『やり方』だ。正しいやり方ばかりが、人を生かす道じゃない。アーノルドから私へ、私から君へ。君は誰かに伝えてくれ。…この街が、いつまでも平和であるように」


『なんだ、結局事件を解決しちゃったんですね、スクワーロウさん』

 ホテルの電話から事件の顛末を説明し終わると、クレアは呆れたように言った。

「いや、仕方ないことだ。探偵業は休暇でも、私はハードボイルドを休業することは出来ないからね」

『そう言えば今回は、頬袋ナッツ使わなかったんですね?』

「私は休暇中だよクレア」

 めったなことを言うもんじゃない。別にナッツを使わなくても、ハードボイルドであることは、出来るのである。

「まだ時間はある。釣りでもして、もう一日いたら引き上げるよ」

 私は電話を切った。

 すっかり静けさを取り戻したこの街にいられるのも、あとわずかである。

 リス・ベガスが私を待っている。

 私が愛する眠らない街で、再びハードボイルドの看板を上げようじゃないか。




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