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Phase.6 お宝の行方は

「アーノルドの墓地を、掘り返すんですか?」

 クレイトンはさすがに仰天したようだ。

「そう、私の言う通りにしてほしい。野放しになっている連中を捕まえるためだ」


 クレイトンに無理を承知で頼み込むと、私はアーノルドの墓地へ行って許しを乞うた。これは彼の後継ぎのロスのためでもあるし、ひいては街のためでもある。かなり無茶な手だが、これしかないのだ。


 それから私はクレアとダドに電話をかけ、必要な情報を収集してもらった。その間にクレイトンが手配してくれた重機が墓地には運び込まれ、周囲は目隠しの鉄板が張られる。作業の名目上は、墓地に危険物があると通報があったため、とした。


 もちろん誰もが、この看板の内容を信じるわけじゃない。私たちの動向を注視している連中がいる。これはいわば、そんな連中を一網打尽にする罠なのである。


 深夜、サーチライトが煌々と照らされた。真昼のようになった辺りに、警官が群がっている。作業着を着た男たちはひとたまりもなく捕らえられた。言うまでもなく、バースとロス、そして彼らに率いられたブラックマムズとホワイトモフズのメンバーたちだった。


「クラブの抗争に見せかけて、実は埋蔵金探しとは。ご苦労なことだな」

 私たちの姿を見た途端、暴れ、連行されていく連中をみてクレイトンが吐き捨てる。


 男たちはいわば、食い詰め者たちである。正業に就いて、真面目に働いている元メンバーたちと距離を置き、はきだめのようになっていた連中にバースが声をかけた。あぶれ者が大好物のお宝捜しである。無職で暇を持て余していた連中は、血眼になったはずだ。こんな奴らが街をうろついていれば、治安の問題になるに決まっている。


「おれたちをハメやがったな!?財宝は、どこにある!?」


 元・バー経営者のバースは、私に向かってわめき散らした。この男もせっかくの山羊ひげを短く刈って金髪に染め、いかにもな風貌のちんぴらだ。


「財宝だって?馬鹿を言うな。そんなもの、どこにあるかなんて知らないね」

「嘘をつくな!あ、あんた知ってるぞ!爺さんたちから金を巻き上げたアーノルド爺さんの手先だろ!」

「人聞きの悪いことを言うな。私たちは、金を巻き上げてなんかいないさ。頼まれて、幹事を務めただけさ」

「幹事…?は?お前、何言ってんだ!?」

「スクワーロウさん、幹事って…どう言うことです?基金の行方は?」

 バースもクレイトンも目を丸くした。そうゆう反応が来ると思った。

「まあ、まずはこれをみたまえ」

 私は懐を探ると、一枚のコピーを取りだした。昨日、クレアに徹夜で資料庫を探し回ってきてもらい、ファックスしてもらったものだ。

「なんだこりゃ!?」

「ブラックマムズとホワイトモフズのメンバーたちの慰安旅行の請求書だよ。手打ちに両ギャングは、ベガスで豪遊したんだ。アーノルドは私を案内役兼幹事に任命してね、まー、三日三晩不眠不休で遊んだ」

 その場にいた全員の顔が、まっちろになった。

「あそ…んだ?ぜんぶ…?」

「そうだよ、一ドル残らず」

 私はけろっとしていった。

「いや…でもスクワーロウさん、あなた、今の今まで覚えてないと言ってたのに」

「忘れていたんだよ。手打ちのあと、この街で祝賀会をやってね。…酔っ払った勢いでバスを借り切って、ベガスへ出発したんだから」

 誰にでも若い時代はある。とんでもなくハメを外したので、そのときの記憶は封印されていたのである。クレイジー・マムもよく覚えていたものだ。にしても、そのあとアーノルドと経費のつじつまを合わせるのに、大わらわになったことは言うまでもない。

「ざいほー…ないなんて…一ドルも?そんな…はんな…」

 バースは魂が尻から抜けたみたいに、へたれこんだ。警官たちが引き立たせたが、こんな生まれたての小鹿みたいになった奴は、初めてである。十歳老けていた。ショックなのは分かる。だが、この爺さんたちにして、借金まみれの孫の自分があると言われれば身もふたもない。ご利用は計画的に、と言う他ない。

 さて、問題はアーノルドの後継ぎのロスだ。

「スクワーロウさん、その申し訳ありません。彼の破産管財を依頼されて、話を聞いているうちにこんなことに…」

「ロスくん、言い訳は聞かないぞ。どんな形であれ、君はアーノルドの遺志を忘れて行動していたことに変わりはないんだ」

 私はすっぱりと、言った。ここは亡きアーノルドの代わりに、厳しくいかないといけない。

「あとで、君には話がある。まずは、クレイトン署長の話を聞き給え」

 ロスは、何も言い訳をしなかった。バースが連れて来たちんぴらたちに押されていたのは分かる。その辺りの事情はクレイトンも、よく考えてくれるだろう。これにて一件落着である。と思っていたら。


「おおいッ、ちょっとお待ちなせえ!」


 バッジを振りかざしながら、スーツの猿が分け入ってくる。ジミー・ランスキーだ。奴は居丈高に叫んだ。


「あたしは、連邦捜査局のランスキーだ!バース・マムマムと、ロス・バーンスタインの身柄はこちらに引き渡してもらいやすぜ!」

「どうしてかな?二人は、ただの墓荒らしだよ」

 私はわざと空とぼけて、言った。

「何を言ってやすかねえ、ネタは上がってるんだよ。クレイジー・マムの孫のバースは、ブラックマムズの新リーダー、ホワイトモフズのメンバーを統合して新たな犯罪組織を作って活動していたはずだろうが」

 私とクレイトンは思わず、顔を見合わせた。

「へえ、ランスキー、それがあんたが書いた筋書きか。とっさに思いついたにしては、中々、悪くないじゃないか」

「スクワーロウさん、二人は連行しますよ」

 クレイトンは相手にせず、放心状態のバースとうなだれたロスを連れて行こうとする。

「待て待て!これは、あたしの事件だッ!勝手な真似は、一切させない。連邦捜査局の方針に逆らう気かよう!」

「連邦捜査局ねえ。…ところでそれについちゃ、面白いネタがあるんだ」

 私はため息をつくと、猿の耳元で吹いてやった。

「このしがない探偵にもコネがあってね。…ベガスの知り合いに問い合わせたら、ジミー・ランスキーと言う連邦捜査官は現在、『停職中』だそうだ。なんでも違法な捜査で、ベガスのギャングを怒らせたらしくてね」

「どっ、どうしてそれを…?」

 真っ赤な猿の顔が真っ青になった。

「あんたが本当に必要なのは、金だろう。そこで、借金まみれのバー経営者のバースに目をつけた。はっきり言おう、この騒ぎを煽動したのは、君だ。だが私の登場にとって目論見が外れたんで、手柄の方を採ることにした。違うかね?」

「なっ、なんの証拠があって…」

 猿は腰が浮いていた。そのとき、タイミングよく着信があった。

「お、ちょうど連絡があった。現地に着いたら、連絡すると言ってたんだ」

「げっ、現地い!誰なんだよそいつは…?」

「ヴェルデ・タッソだよ。緑の狸の親分とは、長くてね」

「ひっ、ひいいいお助けッ!」

 猿は文字通り、泡を喰って逃げ出した。ま、通報しておいたので明日には、同僚に身柄を拘束されることだろう。

『なんやのお前、こんな時間にワシに電話しろて』

 私はにこやかに答えた。

「着信ありがとう親分。実は今、旅行中なんだが土産は何がいいかと思ってね」

 たまには親分も役に立つものだ。





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