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Phase.4 平和を脅かす種

 私とクレアが話し込んでいる時だ。木製のドアがドンドンと、ノックされた音がした。確固たる意志を持った男の力だ。私は通話を打ち切り、ドアを開けた。

 そこに、短く白髪を刈り上げたニホンザルが立っている。赤い顔のその男は、仕立てのいいスーツの内ポケットから、バッジをチラつかせた。地元警察のものではない、これは連邦捜査局のものだ。

 猿は自分でドアを開けさせた癖に、どこかうるさそうな顔で首筋を掻きながら、話し始めた。

「あー、ちょっといいですかい。あんたの名前はえーと」

「スクワーロウです。ここは、クレイトン署長から聞いてお越しですかな?」

 私はさあらぬ体で尋ねた。男の態度は、ぶしつけにもほどがあるが、ま、無礼は捜査官の代名詞のようなものである。

「あたしはジミー・ランスキー、あたしのような身分の人間がここにいる理由ってのは、お察しがつくでしょう」

「さあね」

 私はあえて、素っ気ない態度を取ることにした。無礼者にまともに答える義務はない。

「全く見当もつかないね。何しろ、私はここではよそ者だからね」

「冗談言っちゃあいけやせんぜ、旦那。それを言うなら、あたしだってよそ者だ」

 猿は黄色い歯を剥き出しにすると、嫌味な笑いを見せた。

「あんた、クレイトン署長とは、旧知の仲だ。聞いてるはずだよ。今この街は、抗争(ギャングウォー)の真っただ中だとね。十年は長い。ビッグ・モフモフがくたばっちまった今、ブラックマムズは街を牛耳る大チャンスだ」

「よそ者の割には、随分と詳しいじゃないか。連邦捜査官がそこまで肩入れするのは、何が目的かね?こんな田舎のギャングたちを組織犯罪法で引っくくって、あんたの手柄にすることか?」

「田舎のギャングだって?…あんたも、随分と連中に思い入れがあるみたいじゃないか。連中は危険だ。だって州境のこの街からは、人目につかず何でも持ち込むことが出来るんだよ。十年前と同じく、連中は海外の非合法組織から銃を仕入れているかも知れない」

「連邦捜査局は、今、暇なのかね?…根拠のかけらもない、あんたの見込みだけで、出張の許可が取れるとは、到底思えないがね」

 歯の黄色い猿は、くっくと笑った。この乾いた笑い、どうも気に食わない。

「あんた、よく知ってるはずだ。連中は十年前、四つの約束をかわした。争う理由はあれにあるんだよ」

「馬鹿なこと言うな。あれは、純粋な平和協定だった。戦争の火種なんて、アーノルドはどこにも残していない」

 私はドアを開けた。嫌らしい客には、とっとと帰ってもらうに限る。

「帰ってくれ。あんたと違って、こっちは休暇中でね」

「ああ、そう。休暇ねえ。わざわざ休暇を取ったんだ、ここへ来る理由があるんだとあたしは踏んだんだがね。例えば」

「帰ってくれ」

 私は問答無用で猿を追い出すと、今度は部屋を閉め切った。小さいグラスに注いだストレートのウイスキーを飲み干す。危なかった。あの猿の捜査官に見抜かれないように、顔色をごまかすのは、骨だった。

(四つの約束か)

 もしかしたらあれを、勘違いしている連中がいるんじゃないか。場合によってはそれが、抗争の火種になりうる。


 翌日、私はクレイトンに連絡をし、ランスキーと話した内容の裏を取った。すると確かに、両雄の一人であったビッグ・モフモフは昨年、他界していたことが分かった。高血圧による心不全だと言う。ふたつ名通り、カロリーの高いものばっか食べていた人だったからな。冥福を祈った。


「問題は四つの約束だよ。…クレイトン、君は平和協定の後半の内容を憶えているかい?」


 クレイトンの返答はあいまいだった。そう、私もさっき思い出したのだ。連中の四つの約束事のうち、三つ目は『チャーミーウッドに武器を持ち込まないこと』だったが、四つ目の『共通の問題は共同の基金(ファンド)で解決する』と言うものがあったのだ。


「基金ですって?」

 初耳らしく、クレイトンは、声を上げた。

「実はあまり聞かせたくない話だったんだが、連中は抗争に際して州外から武器を持ち込んでいたんだ。手打ちのあと、その売却益が丸々浮いた。そこでアーノルドと相談して、非合法の金は更生資金にすることにしたんだ。たぶんアーノルドの事務所には、それに関する書類やら、権利書やらがあるはずだ。ブラックマムズの連中が監視していた理由は、それだったんだよ」

 連中の目には、事務所に出入りする人間は金目の匂いがしていたのだ。街で見慣れない人間が、うろうろしていれば勘繰りたくもなるだろう。あの猿の捜査官も私にかまをかけに来たってわけだ。これはいよいよ、きな臭くなってきた。

「クレイトン、すまないがアーノルドの事務所の関係者の行方を至急探してくれ。ことによってはもうすでに、事件に巻き込まれている可能性がある」

 私は言った。亡き恩師の名誉のためだ。ここは私が一肌脱がねば。


 クレイトンはすぐに、関係者を捕まえてきた。バーンスタイン事務所の若い秘書だ。半月近く前に事務所が閉鎖になり、彼女は突然、給与のあてがなくなって戸惑っていた。


「所長のロスくんは、そんな男じゃなかったんだがね…」


 これにはさすがにクレイトンも、眉をひそめる。私も同意見だ。が、ぴんと来るものがあった。


「ロス氏は、堅実な法律家だ。もしかして半月前、誰か来たんじゃないかね?」


 秘書はおずおずと頷いた。どうもベガスから、同級生が帰ってきたらしく、一緒にバーへ繰り出した晩から事務所を閉めて行方不明だと言う。


「その男に心当たりはない?」


 秘書は口ごもっていたが、よどみなく答えた。名前まで知っていた。バースと言う、なんと、クレイジー・マムの孫だ。秘書が漏れ聞いた話だとベガスで傷害事件を起こし、街にいられなくなって帰ってきたのだそうな。


 私はすぐに、ベガスに問い合わせた。ダド・フレンジーはすぐに資料を送ってくれた。バース・マムマムはバーの経営に失敗し、多額の借金を背負っていた。どうも夜逃げ同然で故郷のこの街へは、戻ってきたようだ。


「どうやら金目当ての人間が見つかったようだね」


 私はクレイトンと、顔を見合わせた。あまり考えたくはないが基金の行方を知っているはずのクレイトンは、バースに拉致(らち)された可能性があるじゃないか。


 閉鎖された事務所はなるほど、強盗に荒らされたかのようにちらかり放題だった。借金で尻に火のついたバースが、血眼で金を探している。それが手に取るようだった。クレイトンはすぐに非常線を張った。こうなったら下っ端でも何でもしょっ引いて、連中の行方を追うしかない。


「『基金』は、どこにあるんでしょうか?」

 クレイトンは心配そうに尋ねた。

「それは私も分からない。だが、かなりの金額があったはずだ」


 アーノルド二人のボスは、それが再び誰かの欲望に火を点けることを畏れていた。金の取り扱いにはだから、慎重になったはずだ。元は非合法資金でもあるし、下手にどこかに口座を作ったり、事務所を設けたらそこが狙われるだろうと考えた。


「場所は私にも見当がつかないな。最終的には、故人になったあの三人が決めたんだ。アーノルドも、ビッグ・モフモフも…真相を知る人間は全員あの世だ」

 私が言うと、そのときクレイトンは驚くべきことを言った。

「クレイジー・マムは生きてますよ」

「えっ!どこにだ?!」

 と言うことは、今回の件は、奴の仕業か!

「いや、そんなことはないと思います。…ちょっと前かなあ、確かかみさんが寄り合いで聞いたらしいんですよ。電話してみます」

 クレイトンは電話をとって五分ほど、奥方とのどかな会話をした。するとなんと、衝撃の事実が判明した。


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