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5.忠誠心が高い配下が増えました。

 なぜ獣王ガーレオン達は故郷に帰れなかったのか。

 それはガーレオン達が相手に傷一つつけられず、逃げ帰ったという行動をしたことにより、配下や民からの信頼を失ったからだそうだ。


 確かに敵から逃げ帰るような弱い者を長としたままでいるのは、種族としてあり得ないのだろう。

 ただでさえ、魔物の住民には力こそ正義と思っている血の気の多い奴らが多いのだ。

 弱い者を長とすることはまずないと言っていい。



「事情は分かった。つまり、あの三人の故郷では既に別の長がたてられていて、彼らに帰る場所がない。そういう訳なんだな?」

「ご理解が早くて助かります。そのご理解の早さで魔王様が人間の家に行くべきではない事も理解して欲しいものですが」

「それは一生理解出来ないだろうな。残念だったな、フィレト」



 俺の返答に対し、笑みがひきつるフィレト。

 フィレトは未だに俺をばあちゃんの所に行かせたくないらしい。

 いい加減諦めてくれれば良いのにな。



「とりあえず三人に会って話をするか。気は進まないけど」

「では三人に伝えてまいります。魔王様はそのまま魔王の間までお越し下さい」



 そう言ってフィレトはその場から姿を消した。

 一人になったので家に帰りたい所だが、すぐに引き戻される事は目に見えている。

 仕方ないので、俺は素直に魔王の間まで行くことにした。



 俺が魔王の間まで行くと、魔王用の椅子の前あたりでひざまずいて待っている四人の姿が見えた。

 気持ち的に俺の方がひざまずいてさっさと帰らせてもらいたい所だが、ここは空気を読んで魔王の椅子に座る事にした。

 


「魔王様、お待ちしておりました」

「フィレト、どうしてお前もそこにいる? いつもの場所にいないのは何故だ?」



 ガーレオン達、魔王に謁見する立場の三人が俺の前にいるのは分かる。

 だけど、執事としてサポートする立場のフィレトは、いつもは魔王の席の右隣にある椅子に座っていたはず。

 なのに今のフィレトはガーレオン達と同じ所にいるのだ。


 俺が不思議に思っていると、フィレトは若干気まずそうな表情を浮かべながら、俺の言葉に答えた。



「当然の事です。今の私は執事ではなく下僕の身。魔王様と肩を並べる資格がないのですから」

「下僕の身って、俺はそんな事を指示した記憶はないんだが?」

「確かに魔王様の仰る通りです。下僕の立場に私がなっているのは私自身の判断。私のせいで魔王様に成果を出せなかった者に罰を与えられない軟弱者というイメージを周囲に持たせるのは耐えられないため、このような形を取らさせて頂きました」



 フィレトはそう言って苦笑いをした。

 どうやら、俺の魔王としての立場を守る為に、フィレトは自身を犠牲にしたらしい。

 別にそんな立場なんてどうでも良いと思うのにな。


 俺はフィレトから視線を外し、ガーレオン、トガロ、リソラの三人を見渡しつつ、話し出す。



「それでガーレオン、トガロ、リソラ。俺の下僕をやりたいとフィレトから聞いたが、その話は本当か?」

「魔王様の仰る通りだ。オレは未熟さ故に、無様な敗北を喫した。故に帰る場所がない。厚かましい事は承知だが、魔王様の手足となって働かせて頂きたい」



 俺の問いかけに対し、ガーレオンが俺の顔をガン見する感じでそう答えてきた。

 ……気迫がありすぎて、ちょっと怖い感じだけど、やる気は十分って所だな。


 そんなガーレオンにトガロとリソラも続く。



「われもこの獅子と同じくである。われの魔法は魔王様の役に立てたい。魔王様の為ならば汚れ仕事もいとわないのである」

「アタイもだよ、魔王様! 魔王様のためなら、二十四時間、一日中見張りもやっちゃうからね!」



 トガロとリソラは俺の顔をまっすぐに見て、そう言った。

 どうやら三人とも、本当に俺の下僕になりたいようだな。

 全く面倒な事だ。


 ……いや、待てよ?

 コイツらを味方につけられれば、フィレトを抑えられるんじゃないか?

 俺が帰りたい時に邪魔をしてくるフィレトを妨害する忠実な配下がいれば、ずいぶん気軽に帰る事ができる気がしてきた。

 ならば善は急げだな。


 俺は魔王の記憶をたどって、密談魔法の使い方を学ぶ。

 そしてまずはガーレオンとだけ密談ができるように魔法を使用してみた。



『ガーレオン、聞こえるか?』

『聞こえている。わざわざ密談魔法とは何用か、魔王様?』

『ガーレオンは俺の手足になるって言ったよな? それは本当なのか?』

『当然だ。オレにはもう居場所がない。どんな無茶な要望でもこの身を賭して成し遂げる所存だ』

『無茶な要望でも、か。なら、もし俺が魔物の為にならない行動をとろうとしたらどうする? 例えば、お前の故郷を滅ぼそうとするとか』



 別に本当にガーレオンの故郷を滅ぼそうと思っている訳ではない。

 俺は戦いが嫌いだし、そんな意味のない事はよほどの事がない限りはしないだろう。

 だけど、何でもするというからには、それくらいの忠誠を持っているヤツでないと、俺は配下を増やしたいとは思えない。


 俺はかつての魔王ではない元人間だし、価値観は魔物とは大きく異なるだろう。

 だから、俺に合わせられないヤツを配下にするのは、俺にとっても不幸だろうし、そいつも不幸になる。


 魔物としての価値観から俺を注意するのはフィレト一人で十分だ。

 フィレトは二人も三人もいらない。



『……それが魔王様の望みなら、オレは魔王様の代わりに滅ぼすと約束しよう。なに、オレを捨てた貧弱なヤツらの集まりだ。そう大して苦労もしまい』



 そう言ってガーレオンは俺を相変わらずガン見して答えてくる。

 そうジッと見られると全然落ち着かないんだけど。

 ただ、ガーレオンの心に偽りはなさそうな事は分かったし、本当にコイツなら同族を全滅させてきそうな気がする。


 というか実際、ガーレオンは野暮用が出来たので失礼すると言ってこの場を立ち去ろうとしていた。

 明らかにガーレオンが故郷を滅ぼしに行く感じの流れだったし、俺は必死に止めた。


 見境なさすぎる所が不安要素ではあるが、ガーレオンの忠誠心は本物と思われる。

 俺はそれから迷う事なくガーレオンを配下にする事を密談魔法で伝えた。



 ちなみに明らかにガーレオンの突然の行動、それに慌てる俺を見て、フィレトは俺が密談魔法を使っている事を看破してきた。



「魔王様、密談魔法を使うタイミングを間違えてますよ。使うならば、使っている事を悟らせないようにしませんと」



 まあ、確かに密談魔法を使っている時は黙り込んでしまったしな。

 誰が見ても、明らかに何かしている事は察せられただろう。

 今後使う時は要注意だな。


 ガーレオンがニヤリと嬉しそうな表情をしている事を見て、ガーレオン以外の三人は密談魔法の内容を察したようだ。



「魔王様、ガーレオンを下僕にすることを認めたんだろう? アタイも早く認めてくれないかい?」

「……そうだな。密談魔法を使う意味もないし、トガロとリソラは一人ずつ俺の部屋に来てくれ。そこで話をする」



 俺はそう言うと、魔王城の自室へと向かった。

 トガロとリソラは互いをじっと見てから、トガロだけが俺の後を追ってきた。

 まずはトガロの思いを聞くことになりそうだな。



 トガロは俺の自室に入ったことを確認すると、俺は部屋全体に盗聴防止の魔法をかける。

 それから、俺はガーレオンにした質問をトガロにぶつけてみた。


 すると、トガロは理由を聞いて納得したら従うという条件付きでの命令遂行を俺に伝えてきた。



「われには手塩にかけて育てたヤツらがいるのである。われの事は良く思われていなくても、理由なく殺すのは難しいのである」

「まあ、普通はそうだろうな。なに、単なるたとえ話だ。俺個人としてはむしろ戦いを避けたいと思っている位だから、そんな事はほぼしないと言っていい」

「お気遣い感謝するのである。魔王様が正当な理由をお持ちでしたら、われは存分に力を振るうのである」



 正当な理由、か。

 なんか理屈っぽいトガロらしいというか、何というか。


 だけど全ての行動に理由が求められるのはさすがに困るな。

 俺だって考えなしでやりたい事はあるし。

 魔王なのに魔王の仕事を放棄したいのが俺だ。

 むしろ理由なく野望に向かって突き進むタイプだと言ってもいい位である。



「逆に言えば、正当な理由がなければ動けないという認識で良いんだな?」

「……そ、そういう意味ではないのである! わ、われの大事な人に悪影響がないのであれば、理由がなくても何でもするのである」

「そうか。なら、いいだろう。配下になる事を認める。俺の野望は譲れないが、トガロの大事な人に悪影響が出ない配慮はできる限りしよう」

「もったいないお言葉。感謝するのである」



 こうしてトガロも配下にすると決めた俺。

 そしてトガロの退出後、リソラが部屋に入ってくる。

 さて、リソラは返事をどう返してくるのやら。


 ガーレオンにした質問をぶつけてみた所、リソラが返してきた言葉は。



「うん、構わないよ! なんかそれも面白そうだし。それに魔王に魅入られた反逆者って感じがなんかカッコ良さそうじゃない?」



 うっ、なんか予想の斜め上な返答が来たんだが。

 俺を盲信するガーレオンも大概だが、同胞殺しを面白そうと言うリソラもだいぶヤバい奴だろ、うん。

 それからいくつか普通はためらうような命令の例を出してみても、リソラは問題なく従うと回答。

 一応俺の命令に対しては忠実に実行してくれそうなので、リソラを配下に置いても問題ないと俺は判断した。



 さて、これで俺は四人を配下に置く事が決まったな。

 フィレトからは誓いの言葉を受けてはいないが、元々フィレトは俺の執事だし、その執事を解任した訳でもないので、俺との関係はそのままである。


 フィレトもガーレオン達と同様に誓いの言葉を述べようと部屋に入って来ようとしたのだが、それはお断りしておいた。

 フィレトがいないと多分魔王城は維持できないだろうし、俺にはなくてはならない存在だからな。

 ……まあ、俺に仕事させようとする所は鬱陶しいんだけれども。


 一人は必ず必要だが、二人は決していらない存在。

 それがフィレトなのだ。



 俺はそれから魔王の間に戻り、再び魔王の席につく。

 そして前でひざまずく四人に対し、配下としての最初の指示を出す。



「お前らに最初の指示を出す。四人力を合わせて魔王城の維持に尽力しろ」



 俺抜きでな、と内心付け加えながら、俺はそう言葉を発した。


 仲が悪い四人の事だから、やはりその指示を受けた後も不満そうな表情をしていた。

 やはりコイツらの中で協力という行動は非常に難易度が高いらしい。


 協力してくれないと困る俺は、「何でもやると誓ったばかりだよな?」という意味をこめて笑顔で威圧した。

 すると四人とも諦めたような様子になってうなだれるのだった。

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