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46.魔王はやはり油断ならない相手のようです

「ゼーレバイト様、やはりお目覚めでしたか! このフィレト、いかにあなた様を待ち望んでいた事か……」



 そう言うと膝をついてゼーレバイトに敬意を示すフィレト。

 その態度はジッと険しい顔でにらむローガとは対照的だ。



「ローガ、その態度はどうした? まるで俺に今にも刃向かうような様子に見えるが?」



 ゼーレバイトはローガの態度に対し、不愉快そうな表情を浮かべる。

 だが、ローガはその態度を全く変えようとはしない。


 ……頼むから、くれぐれも事を荒立てないでくれよ、な?



「ゼーレバイト、今のオレはお前の部下ではない。オレはここにいらっしゃるアレン様の忠実な僕だ。アレン様に危害を加えるようなら、容赦はしない」



 そう言ってゼーレバイトをにらむローガ。

 ……って、おいおい、ローガ、正直過ぎるだろ。

 俺に忠誠を誓ってくれるのは良いんだが、それをこの場で言っちゃマズいだろ……。

 ほら、ゼーレバイトの体から魔法の前兆が見られるし……。



「ほう、そうか。ならば……」



 ゼーレバイトは一転して愉快そうな笑みを浮かべると、俺に向かってインビシブルブレードの魔法を放ってくる!


 ローガが俺の前に立ち塞がろうとするのだが、俺はローガに対して「来るな」と念話の魔法で叫び、ローガの動きを止めさせた。

 それから俺は、自分の前に何重もの水属性の上級魔法、スプラッシュシールドを張る。


 すると、張ったシールドが半分ほどが破壊された状態で、ゼーレバイトの魔法を何とか受け止める事に成功するのだった。


 ……何とか受けきれて良かったが、やはりゼーレバイト、強すぎるだろ。

 最上級魔法とはいえ、しれっと撃った程度の魔法でこんなにシールドが削られるとなると、全力の攻撃をされたらどうなるか……。

 魔法の質が俺より高すぎるな。

 薄々分かってはいたことだけれども。



「ほう? 俺の魔法を受けきるとはな。偽物、なかなかやるな。面白くなってきたぞ?」



 ニィと笑みをこぼすゼーレバイト。


 ――不味いな。

 どう考えてもこのまま戦おうとする流れだよな、これ?

 ここ、思いっきり室内だし、さっきの攻撃で様々な研究道具が灰になったんだけど……。

 周りが見えてないんだろうか、ゼーレバイトは?



「ゼーレバイトさん、俺に敵意はありません。それにここは室内です。戦うのはやめにしませんか?」

「うむ、確かにそうだな。ならば、外に出て決闘でもしようではないか。フフ、腕がなるな」



 ゼーレバイトはそう言いつつ、魔法の発動を止める。

 どうやら、ここで戦うべきではない事は分かってくれて何よりだ。

 とはいえ、やはりゼーレバイトは俺と戦う気マンマンらしい。

 どうにかして戦いをやめてくれないものだろうか……。



「決闘なんて俺は望みません。俺は偽物であなたが本物。それで良いではありませんか?」

「そんな事はどうでも良いのだ。だが、戦う理由というのは必要だろう? だから俺とお前がどちらが本物かをめぐって争うという設定にしたのだ。まさに、戦う理由って感じがするだろう?」



 ニマッと俺に笑いかけるゼーレバイト。


 ……ダメだな、こりゃ。

 というのも、なんかゼーレバイトからリヴェルガ臭がプンプンするのだ。

 とりあえず戦えれば何でも良いって、そんな感じの考え方。

 めっちゃ厄介なんだよな、そういう奴は……。



「別に俺はそんな事はどうでも良いですし、あなたと戦いたくなんてありません。そんなに戦いたいならリヴェルガと戦ってくれば良いではありませんか」

「ああ、それも良いが、それよりはお前と戦いたいのだ。俺の攻撃を攻撃ではなく防御魔法で受けきる奴はお前が初めてだからな。この機会を逃すわけにはいかないのだ」



 ……やはりゼーレバイトは何が何でも俺と戦いたいらしい。

 本当、魔物の強者はどうしてこうも戦いを好むのだろうか?

 全く理解ができないな。


 こりゃ、戦いをやめさせる方向に持っていくのは難しいだろうな。

 なら、戦いを今後減らす方向に持っていくまで。



「……どうしても俺と戦いたいというのですか?」

「ああ、さっきからそう言っているつもりだが?」

「なら、こうしましょう。もし俺がその戦いに勝ったら、あなたは俺の言う事に何でも従ってもらう。逆に負けたら、俺は表舞台から去り、あなたの目に触れることなく隠居する。そういう条件ならば戦いを受けても構いません」

「ああ、その条件で構わぬ。俺は負けるつもりはないからな」



 ゼーレバイトはニヤッと笑みを浮かべて、そう答える。


 ……よし、勝った!

 これで勝っても負けても俺にとっては嬉しい展開になるな。

 というか、適当に相手したら、負けたフリして帰れば良いし、そうしよう。

 だってこんな無意味な戦いを全力でやる必要はないしな。



「ああ、だが、それだけだと足らぬな。えーっと、アレンと言ったか? お前がもし負けるような事があったら、そこのベルニカがどうなっても知らぬからな?」

「……なっ!? それは話が違うんですけど、ゼーレバイトさん!?」

「お前はどうやら戦いを望まぬ者のようだ。それにそんなお前が戦いをしようと思うその条件。何か裏があるに違いないだろう?」



 ニヤリと笑みを浮かべるゼーレバイト。

 ……さすがは魔王。

 そう易々と上手くはいかないか。

 つまりは何が何でもゼーレバイトに勝ちにいく気持ちで戦えと、そう言いたいんだろうな。

 俺が適当に戦いを切り上げようとしているのもお見通しって訳か。


 ……参ったな。

 だけどこちらから言い出した以上、後には退けないし、やるしかないか。

 それに多分だけど、ゼーレバイトが納得するだけのそれなりの戦いになれば、俺が負けたところでベルニカを殺したりはしないと思うしな。

 ベルニカとゼーレバイトはそこそこ仲が良さそうだったし。


 あまりに腑抜けた戦いをすれば、怒って本当にベルニカに危害を加えかねないから、油断はできないけども。



「分かりました。その条件を追加して構いません」

「ふむ、なかなか潔いな。大変よろしい。……で、戦いの場はどうするのだ?」

「そうですね。人間の目に触れない広い場所があれば良いのですが……」

「ならば、北の大地が最適そうだな。あそこならば人間は近寄る事さえできないし、多少周囲を荒らした所で問題あるまい」



 北の大地、か。

 聞いた事がないな。

 だけど、俺の頭の中にあるゼーレバイトの記憶の断片には、氷の世界らしき場所が映っているから、多分そこの事だろう。


 寒すぎて人がいるような所ではないし、確かに暴れても問題ないように思える。



「分かりました。そこで戦いましょう。場所が分からないので、転移はお願いしてもよろしいでしょうか?」

「ああ、任せておけ。早速転移するぞ。俺の体に早く触れ」



 そう言うと仁王立ちして待つゼーレバイト。

 そんなゼーレバイトに俺、フィレト、ローガ、ベルニカが触れる。



「……って、三人とも一緒に来るのかよっ!?」

「ゼーレバイト様の勇姿をこの目で見たいですから当然です。それに、アレン様は奇妙な戦いをしますからね。見逃せませんよ」

「この身は我が主、アレン様の為にありますので。命の危険がある場とあれば、オレが同行しない訳には参りません」

「だって楽しそうじゃない? 魔王との戦いなんて、なかなか目にする事がないもの。行かないと損でしょ?」



 どうやら三人とも興味本位でついてきたいようだ。

 ……まあ、三人とも戦闘能力は高そうだから、問題はないか。

 ベルニカに至っては、死んでも生き返る薬使ってるくらいだしさ。

 少なくとも自分の身は自分で守れるだろう。



「話は済んだか? なら、行くぞ」



 ゼーレバイトはそれから間もなくテレポーテーションの魔法を使用する。

 すると辺りの景色は一変し、一面の銀世界が広がるのだった。

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