44.三人に相談することにしました
奥の研究室に向かう通路は色々と酷かった。
様々な生物のあらゆる部分が無造作にごろんと転がっていて、足の踏み場に困るほどだったし。
見た目がグロテスクなだけじゃなく、歩くのにも困るレベルって、片付けられないっていうレベルじゃないよな。
まさか、先ほどの研究室でもだいぶ片付けられた方だとは、エル達、実に恐ろしい……。
そんなこんなで苦労しながら通路を進んでいくと、ようやく一つの扉の前にたどり着く。
「この中、です。中に入る、です」
そう言うとエルは扉を開けて中に入っていった。
エーニャと俺がその後に続く。
扉の向こうの部屋も、通路と同じく片付けられていない酷い状態だった。
まあ、通り道にしているらしい所は少しだけ歩きやすくなっていそうだけど。
そしてその部屋の中央付近を見ると、そこには今の俺とそっくりな者が目をつぶって腰掛けていた!
「あれが影武者なのか、エル?」
「そうなの、です。出来るまであとちょっと、です」
えっへんと胸を張るエル。
うん、部屋の片付けが出来ない事には呆れるばかりだが、研究の腕は本当にすごい。
近付いて確認してみても、見れば見るほど今の俺と見分けがつかなくなる。
こりゃ、外見から俺と影武者を見分けるのはほぼ不可能だろうな。
「外見は完璧。あとは目が覚めて動き出せば完成って感じだよな?」
「そうなの、です。精霊が適合しない、です。困ってる、です」
そう言うとしょぼんとするエル。
あとちょっとという所まできたのに、なかなか完成しないから、やきもきしているのかもな。
この完成度から考えても、完成させられないのは確かに惜しいと思える。
それから一応エルに事情をたずねてみたが、おおむねエーニャが説明してくれた通りの事を聞く事になった。
という訳なので、やはり本人を目覚めさせるのが手っ取り早い事になりそうな訳だが。
「事情は分かった。一応俺に考えはあるのだが、少し時間が欲しい。ちょっとここで待っていてもらえないか?」
「うん、分かった、です。待ってる、です」
考えがあるという俺の言葉に目をキラキラさせたエル。
やはり、影武者を完成させたい思いは人一倍強いのかもな、うん。
俺は少ししたらテレポーテーションでここに来る事をエルとエーニャに伝えてから、俺は魔王の城へと転移する事にした。
魔王の間に転移すると、フィレトが出迎えてくれたので、フィレトにローガ、ベルニカを呼んできてほしいことを告げる。
フィレトは二つ返事で引き受けてくれて、すぐさま瞬間移動で姿を消していた。
それから数分後、フィレトの頑張りもあって、魔王の間にはローガとベルニカが呼び出される。
「それで魔王様、なぜ二人を魔王の間に呼び寄せたのです?」
「ああ、理由を言ってなかったな。ローガ、盗聴防止の魔法を部屋にかけてもらっても良いか?」
「もちろんです、アレン様。お任せを」
ローガは手早く部屋の内側に結界を張り、外から中の声が聞こえないようにしてくれた。
まあ、ベルニカの手にかかれば、こんな結界ないに等しいんだろうが、そのベルニカは今回聞いてもらう立場なので問題あるまい。
「さて、これで準備は整ったな。では話を始めるぞ。実は折り入ってみんなに相談があるんだ」
俺がそう言うと、三人ともゴクリとつばを飲み込み、真剣な様子で話の続きを待っているようだった。
その様子を確認した後、俺は話を続ける。
「実は研究姫エルに俺の影武者作りを依頼していてな。ああ、影武者というのは、俺と瓜二つの見た目をしていて、俺の身代わりになる存在の事だ」
「……アレン、それってもしかして?」
「ああ、ばあちゃんは察するよな。その時が来たんだ」
ベルニカは俺の返事を聞いて、フフッと愉快そうな笑みを浮かべる。
久しぶりにゼーレバイトに会えそうだから、嬉しいのか、それとも単に面白い事になったと思っているのか。
事情を知っているベルニカはともかく、他の二人には説明をしないと理解してもらえないだろう。
という訳で、それからは家の中にゼーレバイト入りの楔があること、それと影武者の体は既に完成していて、後は魂を入れるだけになっていることを伝えた。
「……魔王様、それって、ゼーレバイト様の復活が間近という事ではないですか!?」
「ああ、その通りだ、フィレト。別に俺としては復活させる事にそれほどためらいはないのだが、それにはいくつか問題がある」
「……アレン様とゼーレバイト。どちらを魔王としてみなすか、ですね」
興奮気味に反応するフィレトと、難しい顔をするローガ。
フィレトはゼーレバイトに長年仕えてきたんだし、復活は純粋に嬉しいんだろう。
一方でローガはゼーレバイトをあまり良く思ってないみたいだし、復活は嬉しくないのかもしれない。
「アレン様はゼーレバイトが復活したらどうされるおつもりですか?」
「そうだな……。正直隠居してひっそり暮らせたら良いと思ってる。ゼーレバイトに魔王に戻ってもらってさ。それが本来の姿だろうし」
「アレン様ならばそう仰ると思いました。それならば、是非オレはアレン様の隠居生活の助けを陰ながら応援させて頂きます」
ローガはニコリと微笑んで、俺に一礼をしてそう言った。
ローガは俺の立場に関係なく従うと誓った事があったし、その誓い通りといったところか。
一方でフィレトはというと。
「私は……魔王となる方に仕えたいと思います。私の望みは魔王軍の繁栄。であれば、どなたが魔王であれ、決まった魔王にお仕えするのが私の役目ですから」
フィレトは俺の目を見てそう言った。
フィレト、だいぶ正直に言ってきたな。
フィレトが言っていることは、遠回しに俺に仕えないと言っているのと同じ意味になるだろうに。
まあ、だからといってフィレトをどうこうするつもりはないけど。
魔王軍に滅びられては困るのは俺も同じだしさ。
「とりあえず、ゼーレバイトを復活させるという事に反対する者はいないということで良いんだな?」
俺の言葉に、三人ともこくんとうなずく。
どうやら特に異論もなく方針は決まったようだ。
もう少し何かしらの反対意見が出るとは思ったんだが、ちょっと拍子抜けだな。
まあ、別に賛成してくれているのだから、とやかく言うつもりはないけれど。




