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43.カゲムシャは重かったようです

「あっ、魔王様ですね!? エル様と面会されるのでしょうか?」

「ああ、そのつもりだが」

「では、案内の者を呼びますので、あちらにお掛けになってお待ちください!」



 研究所の門まで歩いていくと、門番とそのようなやりとりがあったので、俺は門近くにある兵士の休憩所のような所で休んで待っている事に。

 そして待つ事数分。

 エルの助手、エーニャが慌てた様子でこちらに駆けてくる様子が見える。



「魔王、様……大変……お待たせして……」



 ぜえぜえと息を荒げながら話しかけてくるエーニャ。

 別にそんな急いでいる訳でもないし、慌てなくても良いんだけどな。



「とりあえず落ち着け。少しそこにでも座って休んでからエルの所に向かわないか?」

「……た、大変恐縮です。申し訳ないのですが、そのようにさせて頂きたいと思います」



 エーニャはそう言うや否や、近くの椅子にぐったりともたれかかって休み始める。

 それから10分ほどゆっくりすると、エーニャが立ち上がり、俺をエルの所まで連れて行く事になった。



「なあ、エーニャ。大体できたと書いてあるのを依頼書で見たが、その大体ってどういう意味なんだ?」

「ああ、その事ですか。言葉通りの意味ですよ。大体は完成しているんですが、まだ完成には至らないんです」



 そう言うと、エーニャがため息をつきながら、詳しい内容を語り始めた。


 エーニャが言うことをまとめると、どうやら影武者の姿形は完成しているのだが、肝心の魂が上手く宿らないとのこと。

 魂に似た、体を持たない存在である精霊を宿す事で、影武者を動かそうとするのだが、精霊が上手く影武者に適合してくれないとのこと。

 どうやら影武者の体はあまりに邪悪過ぎて、精霊が体に宿る前に逃げ出してしまうのだとか。



「……なるほどな。それで、その魂の代わりになりそうな精霊にアテはあるのか?」

「正直ないですね。いや、現状は、の話ですが」

「現状は、か。そうなると、アテ自体はあるのか」

「はい。魔王様の魂の一部をお借りして擬似精霊を作り上げれば、恐らく可能かと。多分そのために魔王様を呼び出したのでしょうね、エル様は」



 そう言うと遠い目をするエーニャ。

 ……って、おいおい、冗談じゃないぞ!?

 俺の魂の一部を借りるって、結局本当の意味で俺の分身を作るようなものじゃねえか!?


 全くの別人に面倒な仕事をさせるから影武者の意味があるのであって、俺の分身に仕事をさせても意味ないじゃねえか……。

 第一、俺の分身なら、リヴェルガの相手をするなんて絶対嫌がるだろうしな。

 それで影武者が役に立たないとなれば、結局俺自身が行く事になるし、影武者の意味が全くない。


 ……あー、思った以上に状況が悪いな、これは。

 そうなると、やはりああするしかないか。


 本人の魂を影武者に宿す。

 これしかない。

 本人の魂なら十分邪悪だろうし、適合しないなんて考えられないからな。


 まあ、他に方法がないかは考えてみるけど。

 復活を選んだとしても、一応復活させても良いか相談してからにするつもりだし。

 何はともあれ、まずは今の影武者の状態を確認しないとな。





「魔王様、中の様子を見てきますので少々お待ちくださいね」



 色々と考え込んでいるうちに、どうやらエルの研究室前までたどり着いたようだ。

 エーニャが一人研究室の中に入っていって、様子を見に行く。


 すると、また奇妙な音がいくつか聞こえてきた後、エーニャが扉から出てきた。



「魔王様……また全然片付いていないのですが……」

「ああ、構わない。もう慣れているからさ。中に入れてくれ」



 エーニャの引きつった笑みから察するに、研究室の中はまたごちゃついているのだろう。

 まあ、そんなことは些細な問題だし、エルと話さえ出来れば良いから俺は気にしないけど。


 それから俺はエーニャの後に続いて研究室の中へ入っていく事にした。





「アレン、やっと来た、です」



 研究室に入ると、紙の山の上で仁王立ちしているエルの姿が目に入った。

 エルは偉そうにそんな感じの言葉を言うや否や、バランスを崩し、ズボッと紙の山の中に埋もれてしまう。


 それから少しすると、もぞもぞと紙にまみれてエルが紙の山から出てきた。



「エルは相変わらずだな」

「……いつもじゃない、です。ちょっと張り切りすぎただけ、です」



 しょぼんとするエル。

 それに対してクスクスと笑うエーニャ。


 相変わらず、少し変わった感じのエル。

 癒される感じなのは良いんだが、ここに来た目的は果たさないといけないからな。

 早速本題に入らせてもらおうか。



「エル。依頼書の件なんだが……」

「分かってる、です。用意するから座って待ってる、です。奥の研究室にある、です」



 エルは椅子を指差した後、トコトコとどこかへと歩いていく。

 どうやら研究室のさらに奥の部屋へと向かったらしく、奥の扉を開けるとしばらく戻って来なかった。


 そして待つこと30分……



「……なあ、エーニャ。これ、エルが迷子になってるパターンじゃないよな?」

「えっ、まさかそんなはずはないですよ。エル様は研究室の隅々まで把握されているはずですから」

「それなら良いんだが……ほら、あまりに帰りが遅くないか? こんなにかかるほど奥の研究室って広いのか?」

「いや、そんな事はないはずです。ちょっと様子を見てきますね」



 エーニャはそう言うと奥へと向かっていった。

 それから数分すると、奥の扉が再び開く。



「……すいません、魔王様。影武者の体が重くてここまで運んで来れません。……申し訳ないのですが、奥まで来て頂けますか?」



 エーニャがゼェハァと息を切らせながら、そう言った。

 ……って、そう言う事かよ!?


 多分エルは影武者を一人で運ぼうとしたけど全く運べずに時間だけが過ぎていったんだろうな。

 そしてエーニャと二人掛かりでも無理だったと。


 自分の力だけでは無理でも助けを求めようとはしないのは、エルらしいというか何というか……。


 とりあえず、事情は分かったので、俺はエーニャと共に奥の研究室へと向かう事にした。

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