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26.ドライアドの長は物理的にとても強いようです。

 それから俺達は話しかけられたドライアドに長の所まで案内してもらう事になった。

 そのドライアドについて行き、しばらく集落を歩いていくと大木が目に入る。

 その大木にくくりつけられた家は、他のドライアドの家よりも一際大きなものになっていた。

 ドライアドによれば、どうやらそこが長の住む家らしい。



 大木の近くまで来た所で、ドライアドは一旦立ち止まって俺達に声をかけてきた。



「あそこが長の住む家ですよ。長はあの中にいるはずです。滅多に家から出ませんから」

「滅多に家に出ない? それじゃ食料の調達とかどうしてるんだ?」

「仕えの者が運んできます。ですから特に問題はないのです。……暮らす上では」



 そう言うとドライアドはどこか遠い目をした。

 ……あっ、何か言いたそうな表情だな、このドライアドは。

 もしかして、ドライアドの長は何かしら問題を抱えているのではないだろうか。

 嫌な予感がする。



「それでは案内は終わりましたので、これにて私は失礼致しますわね」



 ドライアドは苦笑いを浮かべながら、そそくさと俺達の元を離れていった。


 ……うん、何か妙だな。

 よくよく見れば、今まで歩いて来た所にはあちこちにドライアドの姿が見えたのに、長の住む家の周囲には全くその姿を見かけない。

 それに案内役のドライアドがそそくさと逃げるように案内を止めようとしていったし。



 きっとあまりにドライアドの長が偉くて、みんな畏れ多くて近付けないんだろうなー。

 そうに違いない。

 会うのが楽しみだなー。


 俺は数々のフラグから目をそらして現実逃避をしながら、長の家の前に立つ。

 どうせ行かなければいけない場所なのだ。

 無理やりにでも意識をそらさなければやっていけないだろう。

 さっさと話だけすませて他の場所に行けば問題ないよな、うん。


 手早く終わらせる事を心に誓い、俺達は空を飛んで、ドライアドの長が住むという家の土台に降り立つ。

 そして、家の扉の前まで行き、扉を軽くノックをすると。



「もう、遅かったじゃないのよー!」



 その声が聞こえるや否や、勢い良く何かがこちらに突進してくる!


 あまりの勢いに命の危険を感じた俺は、反射的に飛行魔法で空へと退避する。

 そして俺はギリギリで相手の攻撃を回避する事に成功。


 相手の勢いがあまりに素早かったからか、フィレトとローガは反応しきれず、その巨体に為す術なく吹っ飛ばされ、地上まで突き落とされているのが見えた。



 ……な、何とか避けられて良かった。

 あれが直撃していたら、多分気を失うのは間違いないだろうな。

 実際、直撃したフィレトとローガは白目をむいて宙を舞っているのが横目で見えたし。

 って、おっと、このままじゃ二人とも地面に落ちて大怪我をしてしまうな、危ない危ない。


 俺はフィレトとローガが地面に触れる直前に、重力エネルギーを無効化し、そっと地面におろす。

 それからフィレトとローガを回収し、意識が回復するのを待ってから、再びドライアドの長の家まで飛んでいった。


 ドライアドの長の家の扉は開いており、そこにはとても大きくて重そうな体をした精霊(?)がいた。

 というのも、体の大きさの割に羽があまりに小さいので、一見すると肥えた人間にしか見えないのだ。

 それもちょっぴり太めどころではない、もはや高い壁だ。

 ここまでなのは人間でもそうはいないだろう。


 ちなみにゼーレバイトの記憶上では、ドライアドの長はこんなに肥えた体をしていなかったし、細身の美人と評されるような容姿をしていたはずだ。

 今の姿からは想像もつかないが。

 それは長が変わったからなのか、それともかつての長がやたらと太ったのか。

 理由はよく分からないが、ゼーレバイトが以前にドライアドに出会った時から何かが起こった事は間違いなさそうだな。



 ため息をつき、内心気が重くなりつつも、俺はフィレトとローガとともに長の家の土台に降り立つ。

 すると、家の入口付近に立つ長がその場から俺達を見て、声をかけてきた。



「あら、あなた達、誰?……って、ダーリンじゃない!? あらやだ、久しぶりー! 元気してたー?」



 そう言って再び俺に突進してこようとするドライアドの長。

 俺はすかさず飛んで距離を取る。


 彼女にとってはただの挨拶のつもりでも、こちらにとっては立派な攻撃なのだ。

 逃げなければ十中八九、命の保証はないと思われる。


 というか、ダーリンってなんだ?

 ゼーレバイトの記憶には今のドライアドの長のような大柄な女性がいた記憶がないんだが。



「あら、逃げるなんてつまらないわね? 昔はよくわたくしにぎゅーっと抱きついていたというのに。この照れ屋さん?」

「いや、そんな記憶は全くないし。というか、妖精の長、プェルテで良いんだよな? 全く合っている自信がないんだが」

「もちろんわたくしはプェルテよ。このナイスバディに変わっても分かるなんて、さすがはわたくしのダーリンよね」



 そう言ってポッと頬を染めてうっとりとするプェルテ。


 ……えーっと、確かにコイツはプェルテのようだな。

 なんか面倒そうな性格をしているし、すぐにでも逃げたくなる相手。

 そういう相手を連想すると、プェルテらしき人物を特定出来たのだ。


 というのも、ゼーレバイトの記憶からは、とある美女から逃げていた記憶がたくさん存在するのだ。

 体型が今と全く違うから、記憶と結びつかなかったが、その人と独特な雰囲気が似ている事からして、その美女がプェルテで間違いないと思う。

 きっと、ゼーレバイトにとっても、このプェルテはかなり面倒な相手という認識があったのだろう。

 何か美人に追いかけられて逃げている、よく分からない記憶があるなと適当に流していたが、確かに面倒そうだな、これは。



「それにしても、どうしてそんなに体が変わったんだ? 相当食べないと、ここまで体は大きくならないだろう?」

「それもどれもこれもダーリンのせいよ。だってダーリンが死んじゃったって知らせを受けたから……。もちろん嘘だと分かってはいたのよ? 最強のダーリンが死ぬはずなんてないものね。でも何か事情はあるんだろうし、しばらくは会えないと思うと寂しいじゃない? 何もやる気がなくなったわたくしは、ここに引きこもって、気を紛らわすためにずっと食べ物をたくさん食べ続けたの。そうしたら突然ダーリンが現れてくれたって訳。まさに、白馬に乗った王子様!」



 そう長々とした内容を早口で言いきると同時に、プェルテは飛んでいる俺をジャンプしてつかもうとするのだが、俺はすかさず距離をとって回避。



 本当、油断も隙もあったもんじゃねえな。

 多分つかまれたら一生離してくれないと思う。

 それだけの執念がこのプェルテからは感じられるのだ。


 というか、俺のどこが白馬に乗った王子様だよ?

 白馬に乗ってもいないし、王子でさえないんだけど?

 人間でもないから、イメージと合っていそうなのはせいぜい性別位か。

 それでさえ、今の俺にとっては危ういものらしいのだが。


 というのも、悪魔という精神生命体になった俺は、ゼーレバイトの記憶によれば、女の体に憑依する事だって可能らしい。

 もしそうしてしまうと、俺の性別が女になる訳で、そうなるとプェルテの発言の全てがかみ合わなくなる。

 一体プェルテの脳内では俺がどのように見えているのか?

 正直想像もしたくない。



 それから、俺をつかみ損ねたプェルテは、当然跳び上がった所へ落ちていく。

 そして地面に着地する事になる。

 すると、着地と同時に物凄い着地音が聞こえ、あちこちからピキッバキッミシッドコーン!と嫌な音が聞こえてきた。


 ……えっ、これってもしかして?



 俺は危機を感じたが、その悪い予感は当たってしまう。

 その音が聞こえて数秒後。

 何とプェルテの家は真っ二つに割れ、崩壊してしまったのだった!

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