25.脅威に対する考え方が二人と違うようです。
ガーレオンの言葉を聞いたフィレトが突然姿を消したと思うと、数秒後に肉を抱えた状態で現れた。
どうやら食料庫からガーレオン用の食料を取ってきたようである。
ガーレオンに任せておくと食べそうにないから、フィレトは食料を取りに行ってくれたのだろう。
実にありがたいことだな。
フィレトはガーレオンに肉を手渡すと、洗浄魔法で肉を持っていた手を清めた。
これでやるべき事は一旦終わったようだ。
ガーレオンは拳に炎の力を宿し、早速受け取った肉を焼いている。
よだれをすすりながらその肉を眺め続け、しっかり焼けた所で肉にかぶりつき、表情を緩ませていた。
……あれだけ言っておいて、この表情かよ。
全く、素直じゃないな、コイツは。
さて、ガーレオンがしっかり食べ始めたのを確認した事だし、そろそろ行くとしようか。
フィレトとローガが俺の服をつかんだ事を確認し、俺はテレポーテーションの魔法を使う。
すると周囲の景色は切り替わり、辺りは森林に包まれた、穏やかで静かな景色へと切り替わった。
「フィレト、移動に問題はなさそうか?」
「はい、問題ございません。ドライアドの集落までは歩いて数分といった所でしょう」
フィレトはそう言ってにこりと微笑む。
どうやら転移は成功したようで何よりだ。
いきなり集落に転移したら、そこの住民の心臓に悪いだろう。
だからその集落の周辺の転移をしようと思ったのだが、俺自身はその集落を当然訪れた事がない。
となると、おぼろげなゼーレバイトの記憶を頼りに周囲の道のイメージをする必要があるので、果たしてそこが本当に目的の集落周辺の道なのかどうかも自信がなかったのだ。
「ならば、ゆっくり話しながら向かいませんか、アレン様?先程の戦いの事で色々とお聞きしたい事があるのです」
集落まで数分歩くというフィレトの言葉に反応したローガ。
まあ、そうくると思ったよ。
フィレトも満更でもなさそうな顔付きをしているし、きっとフィレトも同じ事を聞きたかったのだろう。
この二人もガーレオン達ほどではないとはいえ、同じ血の気の多い魔物なのだ。
戦いに興味を持つのは当然の事と言える。
戦いが好きではない俺だったが、それで二人の苦労をねぎらえるのであればと思い、質問を受ける事にした。
「分かった、その質問を受けよう。何が聞きたい?」
「ありがたきお言葉。それでは早速質問させて頂きます」
ドライアドの集落に向かって歩みを進めながら、俺はローガからの質問を受ける。
ローガの最初の質問は、ガーレオン達を脅威に思ったのか?
そういう類の質問だった。
これには俺は当然YESと答えた。
何故なら、余程倒し方を工夫しないと、すぐに再戦を申し込んできかねないからな。
戦いを呼び込む存在。
それを脅威と呼ばず、何と呼ぶのか。
俺にとってはガーレオン達は身に抱えた爆弾のようなもので、いつ戦いを申し込んでくるか分からない存在である。
脅威に思わないはずがないだろう。
色々とこれでも考えたのだ、俺は。
彼らが俺と一度戦えば戦いたくなくなるような嫌がらせ攻撃をな。
そこそこ嫌らしい感じで終わったと思ったのだが、それでも彼らは再戦を望むというとても残念な結果に終わってしまったのだ。
本当、とてつもない強敵である。
俺には到底敵いそうもない。
「さ、左様ですか。アレン様にとって、ガーレオン達は眼中にない、と。では次の質問に――――」
「ちょっ、待てっ!? なぜそういう解釈になる!?」
俺は不満を述べたが、ローガもフィレトも揃って苦笑いを浮かべた。
この二人が何か意思疎通できて俺にだけ理解出来てないのが何か気に食わないな。
解釈の理由を聞こうとするも、「アレン様らしくて良いと思いますよ、オレは」とあたたかい目で見られただけに終わってしまう。
……これ以上聞いても答えてくれそうにないので、諦めて次の質問を受ける事にしたけど。
ローガがしてきた次の質問は、なぜ中級魔法で上級魔法をはね返せたのかというものだった。
これは回答につまる内容だな。
簡単に言えば、鏡を補助する魔法を裏でいくつも使っていたというのがその理由だが。
それを正直に言ってしまえば、俺が複数の魔法を同時使用している事がバレてしまう。
俺を戦わせようとする流れを起こさない為にも、そういう力は出来るだけ見せない方が良いのだ。
面倒ごとはもう懲り懲りだからな。
だから、そうではない、でもあり得そうな回答をしないといけないという事になる。
あまり俺らしくないかもしれないけど、あの回答でいくか。
「気合だ」
「…………はい?」
「気合で、ミラーシールドの魔法を発動した。ただそれだけだ。きっと俺の強い思いがリソラの魔法に勝ったのだろう。思いの強さが力になったんだ」
「なるほど……思いの強さ、ですか。確かに同じ魔法でも、威力に多少のぶれが生じますし、その最大の威力が出たらあり得ない話ではない、のか……?」
ローガはそう言うと、少し考えこむような仕草を見せる。
どうやら俺の回答はそれなりに受け入れられるものだったらしい。
上手くいって良かった。
ちなみに俺は別に嘘は言っていない。
俺は”気合で(心の中でミラーシールドを強化する魔法をいくつも同時に詠唱して)、ミラーシールドの魔法を発動した”のだからな。
そのカッコの部分を単純に省略しただけだ。
そのカッコの部分は察してほしい。
察せるものならな。
フィレトは俺の事を胡散臭そうな目で見ていたが、特に何か言ってくる事はなかった。
とりあえずこの質問を乗り切れたようで何よりだ。
「では、フリーズの魔法でトガロの水流が一瞬にして凍ったのも気合という事でしょうか?」
「ああ、その通りだ。察しが良いな、ローガは」
「恐れ入ります。ですが、そうなると、オレは今まで相当気合が足らなかったという事なのですね……。オレがフリーズの魔法を使っても、あの水流を凍らせる事すら出来ない気がします。要精進ですね」
そう言ってグッと気を引き締めるローガ。
フィレトもうんうんとうなづいて、何やらブツブツとつぶやいている。
……いや、別にそんな意図で言ったんじゃないけどな。
ローガもフィレトも、もう十分強いと思うし、これ以上強くなる必要はないと思うぞ。
何しろ魔王の間の書類を残らず全て木っ端微塵にしてしまう程の力を既に持っているのだ。
これ以上強くなって何をする?
そう疑問を持ちつつ、二人の会話に耳を傾けていると、遠目に集落らしきものが見えてくる。
見えてきたのは全て木造の住宅で、地上に建てられている家もあれば、木にくくりつけるような形で建てられている家もあった。
木にくくりつけられている家は、住む場所となる木造の家と、その家を支える平らな大きな土台から成っている。
土台の大きさは家によって様々で、家自体の大きさよりもどれ位スペースにゆとりを持っているのかも変わってくるようだ。
ドライアドが着地する程度のギリギリのスペースしかない所もあれば、色とりどりの植物を栽培するほどの広々とした庭のようなスペースがある所もある。
高い場所にある家にたどり着く為のハシゴのようなものは見当たらないが、住民であるドライアドは空を飛べるから、直接土台の上まで飛んでいけば問題はなさそうだ。
陸路から目指そうとすると、木を登っていくしかなさそうだから、空を飛べない者にはだいぶ厳しい住居なんだろうが。
集落の入口に門番を置いておらず、入口周囲を飛んでいるドライアドは他の者と同様の軽装で、とても門を守る格好とは思えない。
多分集落の周辺に結界を張っているから、外敵はそう簡単には侵入できないだろうが、それにしては無防備極まりないというのが俺の感想である。
ちなみにドライアドは森の精霊で、外見は妖精、つまりはピクシーと似ている。
背中から羽を生やしている小柄な少女のような外見をしている所がな。
俺達がドライアドの集落の入口らしき場所にたどり着くと、近くにいたドライアドが寄ってきた。
「あっ、魔王様!? 生きてらしたのですね!?」
ドライアドは驚きの表情をもって、俺を出迎えてきた。
うん。
その反応から察するに、ドライアド達は、「魔王死んだから税を納めなくても良くない?」と思っていたに違いない。
俺が直接ここにやってくる意味はあったようだな。




