24.食料調達に行く場所を決めました。
食料がないなら、何かしらの方法で調達するしかあるまい。
今は特に目先の食料に困っている訳だし、もらえるはずだった食料をもらいにいくのが手っ取り早いか。
大した何かをしている訳でもないのに、もらうものだけもらおうとするのはどうかと思うが、こればかりは仕方ないだろう。
「フィレト、本来はどこの領地からどれ位の食料を納めてもらう予定だったのか教えてもらっても良いか?」
「かしこまりました。大体の感覚にはなりますが、よろしいでしょうか?」
「ああ、構わない。食料を取り立てに行く候補を決めるだけだから、それで十分だ。それじゃ、地図に書き込みを頼む」
俺はそう言うと、地図作成、続いて地図描写の魔法を使用した。
すると、大きな紙が訓練室の床に敷かれ、そこに世界地図が一瞬にして自動的に墨で描かれる。
墨による記載が終わった所で、フィレトはその地図のある地点を指して話し始めた。
「食料の取り立てと言いましたら、ここが一番手っ取り早いでしょう。ドライアドの地。ここは食料が非常に豊富だというのに、例の勇者襲撃の時からぱったりと食料が来なくなりました」
「なるほどな。まあ、魔王がその力で領地を守る代わりに領民は税を納めているんだろうし、その魔王が死んでしまったら税を納めようとは思わないわな」
「それはそうですね。まあ、律儀に未だ税を納めて頂ける方々もいらっしゃるのですけど」
そう言ったフィレトはうーむと不思議そうな表情をする。
別に税を納めてくれているのならば問題はないだろうし、納めてくれなくなったのなら、話し合いをして、納めてもらうよう交渉すればよいと思う。
誤解が解ければ、また税を納めてくれるかもしれないしな。
税を納めるのが厳しいのであれば、何かしら考慮する所を見せるというのも良いかもしれない。
過剰な徴税は不満を招いて反乱が起きやすくなるのはゼーレバイトの記憶の中にいくつも事例があるし。
ゼーレバイトはその全ての反乱を力でねじ伏せていたようだけど。
それからフィレトが他の候補地とそこから得られそうな食料の量について話してくる。
その情報を踏まえ、俺は食料生産上位三領地を訪れる事に決めた。
というか、食料生産上位三領地から全く納税されてないって、そりゃ食料が不足する訳だわ。
それで不足しない方が不思議な位である。
という訳で、俺達が訪れる場所はその三つの領地に決まった。
そして、その三つの領地の中でも距離的に一番近いドライアドの地を最初に目指すとする。
まあ、別に近くまでは瞬間移動を使う予定だし、距離なんてあってないようなものなんだけど。
何となくの気分だ。
「とりあえず、ドライアドの地まで言って話をしてこようと思う。事情を分かってもらえれば、恵んでもらえるかもしれないしな」
「であれば、オレも同行しましょう、アレン様。数々の依頼を通じて、各地の状況は把握してますし、お役に立てるかと」
「私も同行します。徴税を魔王様がいかに行うのかはこの目で見届ける必要がありますからね」
どうやらローガだけでなくフィレトも同行するようだ。
別にそれは構わないのだが、フィレトの執務は大丈夫なのだろうか?
いくら先ほどの時点で白い紙がほとんど処理済みなのは確認しているが、他にも執事の仕事はありそうだし。
それをフィレトにたずねた所、「私の仕事はほぼ片付きましたから、一日やらなかった位では問題になりません。魔王様のやることが山積みなのがむしろ心配です」としれっと言われてしまう。
うっ、うぐっ。
確かに青い紙が積みあがっていたような積みあがっていないような気はしていたし、見ないようにしていたというのに。
他の色の紙が残り少なくなっているから、一層目立っていたけど、あえてスルーしようとしていたというのに……。
……まあ、この件が片付いたら、承認作業に取り掛かるとするか。
また変な依頼が紛れ込んでいなければ良いんだけど。
あまりにも変な依頼が多過ぎるようだったら、フィレトの承認基準についてもきちんと直してもらわないといけないだろうけどな。
俺の価値観を分かった上で執事承認をしてくれれば、極端な話、俺はそれこそ何も考えずにひたすら承認する流れ作業するだけで良くなるからさ。
いわゆるゼーレバイト方式である。
そのゼーレバイト方式をしても問題がなくなるのは当分先な気がするけどな、うん。
ちなみに、ガーレオン達三人も同行したいと言ってきたのだが、それはお断りしておいた。
コイツらが一緒に来たら余計にややこしくなる気しかしないもんな。
面倒事を増やすような真似をわざわざするなんて俺は断じて許す事はできまい。
また、魔王の間に行く事も禁止しておいた。
でないと、俺やフィレト、ローガの目がない所で書類をめちゃくちゃにされる可能性があるからな。
まあ、フィレトとローガの戦闘事件のような感じで、不慮の事故で書類紛失したから後は知らねぇ作戦が使えなくもないんだが。
コイツらは半端にいじくり回してくれそうで、かえってややこしくしてくれそうだしな。
それならば一切触らないでいてもらえる方がありがたいのだ。
とはいえ、何もかも禁止し過ぎると、コイツらの不満がたまりかねない。
という事で、俺はガーレオン達にそれぞれ自室を与え、その近くにあるミニ訓練室を貸し出す事にした。
俺のその言葉に、三人は目の色を輝かせ、三人は訓練室でいかに強くなるかを話していた。
俺との敗北が、三人の結束を固めたのだろうか?
あんなにいがみあっていたというのに、俺に勝つという共通の目的に向かって、三人とも頑張ろうとしているようだ。
……何でそんなに俺と戦いたいのか未だに理解に苦しむが、もう放っておこう。
多分、俺がどんなに言った所でコイツらは戦いをやめないだろうという変な自信がある。
戦わせてくれといったら、それを拒むか、何かもっと面倒な事を押し付ける交換条件で引き受ける事にしよう。
その方が面倒じゃない気がしてきたしな。
「それじゃ、俺達は行ってくる。三人ともおとなしくしているんだぞ」
「それは無理な相談だな。オレ達は打倒魔王様に向かって訓練室で特訓に励むのだからな」
「それならその訓練室で訓練を頑張ってくれれば良い。ああ、あと、ガーレオンは食料庫にある食料を食べてから訓練をしろよ? それに、これからは断食は一切禁止な。これは命令だ」
「うっ、うぐっ……命令とあらば仕方あるまい。強くなる為の制限を与えてくるとは、さすがは魔王様……」
えっ、いや、制限のつもりなんてないけど?
というか、そろそろ食べないと、ガーレオン、死んじゃうと思うんだが?
強いて言うならば、食料をとらないといけない生物だっていう制限がお前にはあると伝えれば良いのだろうか?
それって、制限でも何でもない気しかしないのだが。
どうして思いやって言った事なのに、強くなる妨害をしていると認識するんだろうか、このライオンは。
とりあえず、断食の禁止は受け入れたようだし、良しとするけどさ。
そんな感じで、ガーレオンの強さへの執着の強さに呆れ果てる俺なのであった。




