21.一人の有望な若者の未来を守ってみました。
「そういえば三人は、どうしてここにいるんだったか? 何か用件があるんだろう?」
「ああ、もちろんだ。魔王様、約束の日は明日の正午だ。忘れてはいないだろうな?」
そう言ってギロッとにらむガーレオン。
……あっ、ああ、そういえばそうだったな。
すっかり忘れてたわ。
何か色々と出来事が起きすぎていて、約束なんて頭の遠くどこかへ行ってしまっていたよ、正直。
まあ、別に問題はないだろう。
一応三人を相手する作戦は考えてあるし、とっくにそれに使う魔法の練習は済んでいる。
後は約束の事さえ忘れなければ何とかなる、はず。
忘れない自信はないけど。
「訓練室で三人と相手するという約束の事は覚えているぞ。しっかり鍛えてきたのか?」
「もちろん、あれだけなめた態度を取られては黙っていられないからな。飯抜きで三日三晩鍛えまくっている所だ」
そう言って胸を張るガーレオン。
ガーレオンがだいぶやつれて見えるのは気のせいじゃなかったようだ。
どうやら断食する事で精神的に追い込んで修行をしているらしい。
そういう修行はあるんだろうけど、そんな無理をしては体が持たないというのに、何をやっているんだか。
それに、三日三晩鍛えるって言葉には明らかに無理があるだろう。
まだ戦いの約束をしてから三日経ってない訳だしさ。
日付をうまく数えられないほど衰弱しているようだな、ガーレオンは。
かわいそうに。
「ガーレオン、悪い事は言わないから何か食えよ。ちょっと食べ物持ってくるから」
「……えっ!? ま、魔王様、何を言っているのだ? まさか、それでオレを弱体化させるつもりだな!? そんな作戦には乗らないからな!? 俺は断じて何も食わん!」
そう言ったガーレオンは腕を組み、怒りの表情で俺をにらんでくる。
心配しただけだというのに、どうやら彼はよほど断食修行をやり遂げたいらしい。
まあ、そこまでこだわるのなら止めはしないけど。
どうなっても俺は知らないからな。
――戦いの後に食べる用の食料を用意しておかないとダメだな、こりゃ。
俺はガーレオンを説得するのを早々に諦め、トガロに話を振って話題を変えることにした。
「トガロは順調なのか?」
「もちろんなのである。槍の動作も、魔法の調子もすこぶる順調なのである」
「うん、それは良かった。リソラは?」
「ちょっと問題ありだね。何というか、今アタイとっても気分悪いんだよねー。ねえ、魔王様、アタイだけ先に戦っちゃダメかな?」
ああ、うん。
リソラはじっとしていられないタイプだろうし、ここで動かずに待っているだけでストレスがたまっただろうな。
気分が悪くなってもおかしくはない。
とはいえ、戦いの回数が増えるのは面倒だ。
それに今日はもう遅い時間だし、ゆっくり帰って休みたいからな。
それとなく戦わずに済むように誘導するか。
「リソラの気持ちは分かった。なら、リソラ一人の戦いなら受けてやってもいい。その代わり、それを受けたらトガロとガーレオンの戦いは受けないものとする」
「あっ、それだけで良いの? それじゃ、早速――」
「ま、待て、リソラ! 勝手に決めるな!?」
「そ、そうなのである! 魔王様、なぜそのような事を言ったのであるか!?」
乗り気のリソラと、それを止めようとするガーレオンとトガロ。
うんうん、やっぱりそうなるよな。
フィレトやローガは仕事で忙しいし、俺がリソラを止めるのも骨が折れる。
なら、ガーレオンとトガロに止めてもらえば良い話だ。
三人が口論している間に俺はそそくさと魔王の間から立ち去る。
そうやってせいぜい言い争っていればいいのだ、三人は。
その間に俺はしれっと帰ってゆっくり休むだけだから。
まあ、別に明日の朝にでも勝負がずれ込む位ならば構わないし、今日をしのげれば良いもんな。
上手くいって良かった、うん。
口論でうるさくなって仕事の邪魔になっているだろうから、フィレトとローガには後で謝っておくか。
あそこで説得するのもそれなりに長くてうるさくなりそうだし、これが最善だとは思うけど、迷惑かける事に変わりないからな。
三人が配下につくことになっても、魔王の間には入れないようにした方が良さそうだ。
魔王の間を出た俺は、ベルニカとローロイを迎えに行くため調合室へと向かった。
すると、調合室近くの廊下からは昨日にも増して独特な薬草のにおいが漂ってくる。
どうやら本格的な調合が行われているようだな。
俺が調合室の扉を開けると、部屋からはボコーン! という爆発音が聞こえ、俺に爆風が襲い掛かってきた!
……何をやっているんだ、ベルニカ達は?
空気清浄の魔法を周囲に使うことで、部屋に充満していた煙を取り除いた俺。
すると、部屋には全身真っ黒焦げの姿をしているベルニカとローロイの姿があった。
「ローロイ、出来たわよ! 千里眼の薬!」
「ほ、本当ですか!? これで、おれの悲願は達成するのですか!?」
「ええ、もちろんよ! これであなたが見たいあの子のあんな所やこんな所は見放題!」
「ああ、本当に夢みたいです! ありがとうございます、ベルニカ様!」
そう言って抱き合って喜びあうベルニカとローロイ。
えっ、えっと、ツッコみ所が多すぎて追いつかないんだが……。
えっと、まずは、爆発して真っ黒こげになっているのに成功ってどういう事だよ?
千里眼の薬作る度にこんな爆発繰り返すとか危ないにも程があるだろ、本当!?
きっと常識を外れた危ない調合でできたものなんだろうな。
何となく想像がつく。
まあ、その事は一旦置いておこう。
問題なのはむしろこっちの方だ。
二人が犯罪臭がプンプンする話を嬉々としている件について。
千里眼の薬であの子のあんな所やこんな所を見る……。
うん、100%アウトだと思う。
これは明らかにこの二人の手に渡ってはいけない代物である。
という訳なので、俺は身体強化の魔法を使って、出来たであろう薬の瓶の近くまで一瞬のうちに移動し、薬を確保した。
「あっ、ああっ、薬がっ!? って、まっ、魔王様!? ど、ど、ど、どうしてここに!?」
「ど、ど、ど、どうしてここに!?じゃないだろ……。迎えの時間が来たからここに来ただけなんだが」
「えっ、あっ、そっ、そうですね。そうですよね。ははは……」
ローロイは明らかに挙動不審になって、上の空になって言葉を発する。
ベルニカも気まずそうな様子で、俺から視線をそらしているようだ。
「ばあちゃん、どういう事か、俺に説明してくれるよな?」
「あっ、ええ、いいわよ。聞かれてしまった以上、言い逃れできないものね」
「あー、ベルニカ様!? 裏切るんですか!? ひどいですよ、ひどすぎます!」
「仕方ないじゃない。思いっきりさっきの言葉を聞かれていたのよ? 勝ち目のない戦いであがくなんてみっともないマネはできないわ」
「うっ、ううっ…………」
ベルニカから裏切られ、ローロイはがっくりとうなだれる。
ベルニカは腹をくくったような様子で、事の経緯について話し始めた。
その内容を要約すると、ローロイの士気を上げるため、ローロイの望みを叶えようとしたのだという。
話を聞いていると、ベルニカがとても良い人に聞こえてしまうが、騙されてはいけない。
俺はしっかりとベルニカに釘をさしておくことにした。
「それと、出来た薬は俺がいただくことにする。二人に持たせていると危ない事に使いそうだからな。問題ないな、二人とも?」
「ええ。また作るから問題ないわよ」
「いや、作るのは一旦禁止だ。どうしても作るというのなら、利用用途を明確に示して俺の承認を得てから必要分だけ作るように」
「あらあら、お厳しいこと。ですってよ、ローロイ?」
「ううっ、おれの夢がぁ……」
まだ諦めていないのか、このコボルドは。
それなら、合法的にもっとどうにかすれば良いものを。
「そんなに残念なら、自分を磨いて相手に好きになってもらえば良いんじゃないか?」
「……えっ、そんな事ができるんですか?」
「ばあちゃんなら予想を超える薬を作ってしまうだろうし、外見は何とでもできる気がするけどな。どうなんだ、ばあちゃん?」
「頑張ればできるわよ。だから頑張って一緒に作りましょうね、ローロイ」
「……はい、頑張ります! おれ、ベルニカ様と一緒に、今度は魔王様にも認められる良い薬を作ってみせます!」
そう言って闘志を燃やすローロイ。
……ローロイって真面目そうな好青年だと思ってたのに、なんかとっても残念な奴だったようだな。
危うく犯罪者になりかける所だったし。
気持ちは分からないでもないが、超えてはいけないラインを考えられるようになってほしいものである。
中身が伴ってなければ、いかに外見が良くても、魅力的な人には思われないからな。
調合だけで全て何とかしようと思っていそうな所が不安だが、やる気に水を差すのもどうかと思うし、あえて言わないでおく。
まあ、とにかく危ない事をしでかす前に止められて良かった。
これからは真っ当な道を歩んでほしいものだな。
そう思った俺は、千里眼の薬にテレポーテーションの魔法をかけ、魔王城の自室にある小型の倉庫に移動させ、保管しておくことにした。
効果が強すぎるものは、それだけ悪用された時の損害は大きい、か。
そうなると、ベルニカ達が作った薬は一度俺の目を通した方が良さそうだな。
そういった悪意のせいで、その薬自体が許されなくなるのはつまらないし、あった方が夢はあるもんな。
面倒だけど、薬の可能性を残すために頑張るとしよう。




