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2.平穏な村人生活を再開したかった。

 テレポーテーションの魔法を唱えた俺は、魔王の城から自宅の近くまで瞬間移動を試みた。

 そしてその魔法は幸い成功。

 魔王の記憶を頼りに感覚でやってみたけど、何とか成功させられて良かった。

 この感じなら、他の魔法も魔王の記憶をたどれば使う事ができそうで何よりだな。



 さて、自宅近くの道、つまり人間の領域まで来た訳だし、魔王の格好のままは良くないよな。

 という事で、俺はすぐさま、人間の頃の俺を想像しながら、変化の魔法を唱える。

 すると、灰色の肌をして豪華な衣装をまとっていた俺の姿は、いつもの見慣れた姿へと変化した。

 肌色の肌、村人の格好をした、いつも通りの人間の俺の姿である。


 まあ、自宅から村までの道は俺やばあちゃん以外に人なんて全く通らない細道だし、ばあちゃんにさえ見られなければ魔王の姿のままでも問題ないんだけども。

 一応念のためである。


 では、回復草も手に入れたことだし、早速ばあちゃんに届けないとな。

 手に入れたというより悪魔から徴収したといった方が正しいが、そこは物の言い様だろう。



 ちなみに余談だが、あの悪魔が押し付けてきた球によって、今の俺には魔王の記憶が入っている。

 そのせいで若干しっくりくる言葉遣いが変わっている自覚はあるが、それ以外にはあまり問題はなさそうだった。

 俺の価値観は人間の頃の俺とほぼ変わらなそうだし、魔王の知恵袋と魔力を得ただけという表現が正確だろうか。

 魔王の知恵袋とはいっても、俺の中にある魔王の記憶は断片的なもので、所々が抜け落ちている感じなんだけどな。

 使い勝手は悪そうだけど、ないよりはマシである。



 そうやって色々考えながら歩いていると、俺は自宅に着く。

 そのまま家の中に入っていき、ばあちゃんに帰った事を伝えようとしたのだが。



「ばあちゃん、ただいまー! 回復草買ってきたよー」

「おやおや、ご苦労様」



 ……ん?

 なんかばあちゃんの声がいつもより低いような?


 不審に思った俺は、声がした方に向かった。



 どうやらばあちゃんはベッドの中にいるようだ。

 だけどいつもよりもベッドの膨らみが大きいし、体の大きさが違う。

 何か獣臭いにおいもするし、違和感だらけである。

 おまけに俺の顔を見た瞬間、そのばあちゃん(?)の顔が青白くなり、ガタガタと震え始めた。

 なんで人間の姿の俺を見て恐れるのか意味がわからない。


 明らかに本物のばあちゃんとは思えないし、少しカマをかけてみるか。



「おい、お前。本物のばあちゃんじゃないだろ? 殺されたくなかったら早く正体を現せ。さもないと……」



 俺はそう言うと、相手を脅すために、身に着けていたナイフを取り出し、そこに魔力を少し注ぎ込んでみる。

 すると、ナイフには黒くて禍々しいモヤがまとわりついた。


 うわぁ……なんか邪悪で気味悪い魔力。

 体に良くなさそうな色合いをしているな。

 触れたいとも思わないな、俺だったら。


 まあ、俺の体から出ている訳だし、当然思いっきり触れちゃっているんだけども。



 自分から出た魔力の予想外の色合いにドン引きする俺だったが、対する相手はこの世の終わりというような表情をして、悲鳴のような声をあげる。



「そ、その魔力は……ま、魔王様!? も、申し訳ありませんでした!」



 顔色をさらに悪くした相手の姿は、ばあちゃんに似た姿から狼の姿へと変わる。

 それから急いでばあちゃんを口から出した。


 やはり、本物のばあちゃんとは違うという違和感は的中したな。

 しかし、まさかばあちゃんが丸呑みされていたとは驚いた。

 狼の口から、口以上の大きさであるばあちゃんの体が出てきたんだからな。

 魔物の体の構造って俺には想像がつかない不思議なものらしい。


 狼の口から出てきたばあちゃんはスヤスヤと眠っており、大きな外傷がなさそうなのは幸いか。

 特にかまれた形跡もなかったし、丸呑みにされたことでかえって助かったのかもしれない。

 とはいえ、もっと俺が来るのが遅かったら狼に消化されて命を取られてしまったかもしれないんだよな。

 不幸中の幸いといった所だよな、本当に。


 それから俺は家で常備している回復薬をばあちゃんに使用し、体を綺麗にしたり、着替え等をしてあげる事に。

 一通り問題ない状態になった所で、ベッドまで移動させて休ませてあげることにした。



「……えーっと、魔王様? なぜ魔王様がこんなへんぴな所にいらっしゃるのです? なんの御用で?」



 俺がばあちゃんを移動させ終えた所で、狼の魔物がそうたずねてくる。

 というか、ナイフに魔力をまとわせただけで魔王ってバレるものなんだな。

 今後はあまり使わない方が良いかもしれないな、この方法は。


 ばあちゃんはぐっすり眠っているし、相手の狼も俺の正体を知ってしまったようなので、人間の姿でいる必要はないか。

 そう思った俺は変化の魔法を説き、魔王の姿に戻る。



「ここで話すのは避けたい。外へ移動しても良いか?」

「……かしこまりました」



 ばあちゃんに魔王関連の話を聞かせる訳にはいかない。

 今まで通りの、平穏な生活を一緒に過ごしたいんだからな。


 ちなみに俺が外に出る前に、ばあちゃんにある狼関連の記憶は消させてもらうことにした。

 でないと、狼に食べられたはずなのに無事な理由がばあちゃんにはよく分からないからな。

 あまり変なことはしたくなかったが、ばあちゃんを混乱させない為には仕方ないだろう。



 家から外に出て、家の窓から見えない所まで移動してから、俺は狼に話しかける。



「で、どうして俺がここにいるかを知りたいんだったか?」

「はい……支障があれば答えていただかなくても結構なのですが……」



 そう言ってブルブルと体を震わせている狼。

 きっと狼にとって魔王は圧倒的な格上にあたる存在なんだろうし、恐怖の対象なんだろう。

 その割には、こうして俺に質問する事ができているのは、それだけ勇気があるのか、ただ無謀なだけなのか。

 そんな狼にちょっと意地悪な質問をしてみる。



「その前に聞きたい。先ほどの人間の俺と同じ格好をした人間を殺した狼がいると思うのだが、それはどいつだ?」

「あっ、それは……」



 狼はそうつぶやくなり、うつむいて何も言わなくなる。


 その反応からすると、この狼、もしかすると俺を殺した狼なんじゃないか?

 それなら、人間の俺を見て顔が青白くなったのも理解できるからな。

 だって自分が殺したばかりの人間が生きて再び現れたら、誰だって恐れるだろうし。

 呪ってでてきた幽霊が現れたんじゃないかと思って恐ろしくなるな、俺だったら。


 とにかく、ばあちゃんを殺しかけている罪がある時点で狼に対して遠慮する必要はないし、脅しをかけてみるか。



「正直に言ったら命だけは助けてやる」

「……も、申し訳ございません! 俺が殺しました! ここの所、飲まず食わずだったから魔がさしたのです!」



 そう言ってブルブルと震える狼。

 やはり、コイツが人間の俺を殺した上に、ばあちゃんまでも殺そうとしたのか。

 この辺りで魔物を見る事はずっとなかったし、食べるのに困ったはぐれ狼が食料を求め移動し、俺やばあちゃんの所に行きついたという事だろう。


 俺を殺したことはもう終わったこととして水に流したとしても、ばあちゃんを殺そうとしたことは断じて許してはおけないな。

 ということで、俺は冷たく狼に俺の意思を告げる。



「お前がした事は分かった。分かった上で、お前を見逃してやってもいいが、そのためには条件がある」

「じょ、条件、ですか?」



 狼は救いを求めるような目で俺を見つめてくる。

 俺はそんな狼から目をそらし、見逃す条件を伝えた。

 ――今後俺とばあちゃんには一切関わらないこと。それを狼の一族全体で守らないといけないことを他の狼に伝えること。その二つがその条件である。



「そ、そんなことで許してくださるのですか、魔王様?」

「ああ。その代わり、今後一切俺とばあちゃんには近づくな。それと、その事を必ず他の狼に伝え、守らせること。それらを守れない限り、お前を許すつもりはない」

「も、もちろん、伝えますとも! だ、大丈夫ですって! そ、それでは失礼させていただきますっ!」



 顔色が良くなり、そそくさと俺から遠ざかって、茂みへと入っていく狼。

 しばらくそのまま奥へと進んでいって、そして見えなくなった。



 ……これでしばらくは安心か。

 何だかんだで狼の最初の質問には結局答えずじまいだが、答えるなんて一言も言ってないし、問題あるまい。

 それに、ばあちゃんを殺しかけるなんて所業を犯しておきながら、俺に殺されずに済んだのだ、あの狼は。

 せいぜい感謝するが良い。


 まあ、あの狼の命はないだろうけどな。

 狼の王は魔王軍の幹部の一人で、魔王に対する忠誠が特に強かったと記憶している。

 そんな彼に、一族が突然魔王と絶縁させられたことを告げられ、その原因となった狼がいると知ればどう動くか――――

 想像はつくだろう。



 とりあえず、狼を追い払ったことでスッキリした俺は、ばあちゃんがいる部屋に戻ろうとして、家の方を振り向く。

 すると、目の前には――――悪魔フィレトの姿があった。



「魔王様、お待ちしておりました。それでは、城まで共にまいりましょう」

「えっ、ちょっとまっ――――」



 フィレトは俺の体に触れた瞬間にテレポーテーションの魔法を使ってきた。

 こうして一瞬のうちに、俺は魔王の城まで戻されることになったのであった。

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