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17/49

17.竜王リヴェルガ対策を始めることにしました。

 俺はベルニカとローロイと共に自宅に戻ってくる。

 そこで夕食をとり、ゆっくりとした時間を過ごしてから、眠りについた。


 そして翌日。

 朝食をとり、俺は二人を連れて魔王の間に転移した。

 すると、そこにはあくせくと働くコボルド達、彼らに指示を出すローガ、執事机で書類に目を通すフィレトの姿があった。



 うん、どうやら昨日の伝言が効いたみたいだな。

 ケンカせずに仕事に励んでいるように何よりだ。


 俺が今の状況に満足していると、フィレトとローガが俺を見るや否や駆け寄って来た。



「ま、魔王様。今日もいらっしゃって頂き、ありがとうございます。気が向いたらで良いので、青色の紙の承認をお願いしますね」

「アレン様、お変わりない様子で安心致しました。ご依頼された事に関しては万事順調に進んでいますので、ご安心下さい」



 二人とも、何だか俺に気を使っているようだ。

 って、伝言効きすぎだろ。

 ローガはともかく、フィレトの態度の変化が凄まじい。

 "やって下さい"ではなく、"やらなくても良いけどやってくれたら嬉しい"になっているのだ。

 そう言われると逆にサボろうとこちらから言い出しにくいんだけど。


 そんな大した事は言ってないはずなんだけどな。

 本心からではないとはいえ、ここまで二人を傷つける事になったのは予想以上だし、これからはそういう類の言葉を使うのは避ける事にしよう。


 さて、そんな二人の事は置いておいて、今日はどうしたものか。

 ローガは万事順調だと言っていたが、あの少し離れた所に積まれている黄色の紙が気になるんだよな。

 わざわざ別管理している位だから、片付かなかった依頼だと俺は予想しているが。

 とりあえず一旦目を通してみるか。



 俺がその黄色の紙が積まれている所まで近付こうとすると、ローガが慌ててその紙を回収し、苦笑いを浮かべていた。



「ローガ、その紙が気になる。見せてもらってもいいか?」

「えっ、だ、大丈夫ですよ? 何の問題もありませんから、アレン様は心配なさらずに――」

「いや、別に誰も問題があるかなんて聞いてないだろう? 俺はその紙の内容に目を通しておきたいと言っただけだ」

「……分かりました。ですが、必ずアレン様の手を煩わせる事なく終わらせますから、心配は決してなさらないで下さいね?」



 恐る恐るそう言いながら、黄色の紙束を渡してくるローガ。

 俺はその紙束を受け取り、最初の紙に目を通してみると――――



~~~~~~~~~~~~~~


依頼内容

最近体がなまっているから、我の訓練に付き合え、ゼーレバイト


執事承認:フィレト

魔王承認:ゼーレバイト


~~~~~~~~~~~~~~



 あっ……(察し)。


 恐らくこの依頼は、俺が否認した依頼とは別の、もっと前に来ていた依頼なのだろう。

 ゼーレバイトのサインがある位だしな。


 せっかく俺がいくつものワナを見破って否認したというのに、それは全く意味はなかったようだな。

 どうやら俺が否認したのは遅いから早く来いと催促するだけの依頼だったらしい。

 その割には文が全く同じだから、初見では絶対にその意図に気付けないけども。


 戦いをゼーレバイトが承認しておきながら、全然来ないので、待ちきれなくなったリヴェルガがもう一度依頼を書いたのだろう。

 一体どんだけ暇人なんだ、リヴェルガは。

 まったく。


 というか、これはどうにもできない類のものだと思うんだが。

 これを一体どうしようというんだ、ローガは?

 見て見ぬふり一択だよな?



「ローガ、これをどうやって終わらせるつもりだったんだ?」

「……そうですね。ゼーレバイト様がお亡くなりになった事を伝えて、逃げ帰れたら御の字だと思っておりました」

「逃げ帰れたら御の字って……そうはならない可能性が高いとローガは思っているのか? 俺も薄々そうだとは思っていたけどさ」

「はい。何しろお相手は竜王リヴェルガ様ですから。何かと理由をつけて、戦いに付き合わせようとするでしょう。飽きるまでひたすら戦いに付き合わされ続けるのです」



 そう言うと、ため息をつくローガ。

 ……その言っている感じからすると、本当にとことん戦いに付き合わされるみたいだな。

 一度でも巻き込まれたら最後、地獄からは早々には出られないという訳か。


 リヴェルガと長時間戦闘するゼーレバイトの記憶を知っていた俺は、その事に薄々勘付いてはいた。

 だけど、そう具体的に言われてしまうと一層憂鬱になるよな……。



「相手が相手だけに、部下に任せる訳にはいきませんから、オレ自身が行くしかないと思っておりました」

「ローガ、勇気あるんだな」

「勇気というよりも、覚悟ですね。オレはアレン様に心身ともに捧げた身。この依頼によって命尽きようとも大丈夫なように、最も信用のできる配下に引継ぎをしてから出向こうと思っておりました」



 ローガは死地に向かう覚悟を決めたような、全てをあきらめた表情をしていた。


 ……いや、なんだろうな。

 そうなる気持ちも分からなくもないんだが、頑張りすぎるんだよな、ローガは。

 こんなに愚直に頑張り続けていたら、身が持たないだろうに。


 ローガはこの上なくよくやってくれてるし、俺は信頼している。

 だが、ローガの悪い所は無茶な事も引き取ろうとする所だ。

 人にはやれる事とやれない事があるのだ。

 やれない事をやれと強制するほど、俺は鬼ではない。

 悪魔ではあるけどな。



「ローガ、その依頼は受けなくていいぞ」

「えっ、でも、それではアレン様が!?」

「別に俺が受けるとは言ってないって。ローガ、その依頼がいつ送られてきたのか考えてみろ? 紙の古さから考えて、数年は昔のものだろ?」



 俺の指摘にうなずくローガ。

 やはりローガも気付いてはいたようだな。

 この魔王の間にある依頼は様々な時期のものが紛れ込んでいる。

 ベルニカが送った魔王様が恋しい依頼は比較的新しい紙だったが、俺が否認した新しい方のリヴェルガの依頼でさえ、少しホコリがかって見えたのだ。


 ……まあ、リヴェルガが放置し続けていた依頼紙を使っている線はなくはなかったんだが。

 でも念のため、二つの紙に調査魔法を使ってみたら、片方は1年前、もう片方は5年前に受領したものだと分かったので、その線は消えた。


 それで何が分かるのか?

 それはリヴェルガを少し位待たせても全く問題にならないという事だ。


 だってそうだろう?

 5年前に送った依頼が遂行されなくても、まだ待ってくれているのだ。

 早くするように催促した二回目の依頼ですら、既に1年経っているというのに、魔王城は平穏そのものなのである。

 その事から考えるに、1日、1週間、1月と伸ばした所で大した事にはならないはずだろう。


 悪魔と同じく何千年と生きる長寿のドラゴンであるリヴェルガにとっては、もう1年待つ位どうってことないはずだ。

 多分。



「確かにリヴェルガ様は我々が思うよりも気の長いお方なのかもしれないですね。ですが、いつかは我慢の限界が来るのでは?」

「それは否定できないな。そうなると、誰かが犠牲にならざるを得なくなる」

「そうですね。それにリヴェルガ様の厄介な所は、戦闘を満足するまで続けたがる所です。誰かが一人犠牲になったとしても、それよりも強い相手を求める事は目に見えています」



 ……なるほどな。

 確かに一人犠牲になってもらえれば、リヴェルガがその人に構っている間の時間は稼ぐ事ができるだろう。

 だけど肝心のリヴェルガがそれでは訓練にならないし、満足しない様子が目に浮かぶ。


 俺以外の誰かを送りこんだ所で、結局は俺が出向くことになりそうな気がしてならない。

 一回出向いてしまうと、負けてさっさと帰してもらえるとは思えないし、ギリギリ勝ったとしても、もう一度とせがまれつづけて、俺の精神が持たない事は分かり切っている。

 リヴェルガの所に行ってしまった時点で地獄確定なのだ。


 だから俺は決して行きたくはないし、俺以外でリヴェルガとまともに戦える人員が必要になる訳なのだが。

 魔王軍四天王で最強であるリヴェルガに敵う魔物なんて今は存在しない。

 リヴェルガに唯一勝てたゼーレバイトだって今はいない訳だし、実質最強といっても過言ではないのだろうか。


 まさに八方塞がりというものである。



「このままじゃまずいし、ちょっと行動してみるとするか」

「アレン様? 何かお考えがあるので?」

「いや、考えって程のものじゃないけどな。もし俺がもう一人、魔王の魔力を持つ者がいたらさ。そいつに向かわせれば良いんじゃないかって」



 そう言った俺の頭の中にあるのは、影武者の存在である。

 もし俺と同じ魔力を影武者が誕生すれば、戦闘方法次第ではゼーレバイトの力を持つといえるだろう。

 そこまで強い存在ならば、リヴェルガに勝てる可能性もあるのではないかと思うのだ。



「確かにそうかもしれませんが……でもそんなお方は存在しないでしょう?」

「今はな。でも現れる可能性はなくはないんだ。現れるというよりかは、作ると言った方が正しいか」

「作る? それってどういう事なんでしょうか、アレン様?」

「俺もよく分からないんだけどな。研究姫エルが俺の為に影武者を作ってくれるらしいから、もしかしてと思ってな」



 俺がそう言うと、ローガはごくりと息をのむ。



「研究姫エルって、かなり変わり者だと聞いていますが、そんな約束をアレン様にされたのですか?」

「ああ、確かに言っていた。正直今でも半信半疑だけどな。それに影武者といっても姿が似るだけで、力を伴わない事はあり得るし、あまり期待しちゃいけないとは思うんだけど」



 俺の言葉を聞くと、ローガは興味深そうな表情でうなずいていた。

 というか、エルって変わり者って言われているのか。

 いや、実際相当な変わり者だったけど。


 本を読みたいのに、人にとってもらうのは嫌がるし。

 本を手に入れるために二時間もぴょんぴょんとびはね続けるし。

 おんぶしてもらっただけで影武者作るとか言っちゃうし。


 ……うん、思い返しただけでも十分な変わり者だよな。



 ローガはその話はあまり信じられないとは言いつつも、やってみる価値はありそうだと言ってくれた。

 俺とローガのやり取りを見ていたフィレトも、「留守は私にお任せください」と言って、後押しをしてくれている。

 という訳で、思い立ったら早速行動だ。

 俺はすぐさまエルに会いに研究所へ向かう事にした。

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