13.召喚した生贄はとても優秀だったようです。
俺が思念伝達の魔法でローガを呼び出すと、ローガはすぐさま瞬間移動で俺の前に現れた。
「お呼びでしょうか、アレン様?」
「ああ、ローガに頼みがあるんだ」
「アレン様の頼みなら何でもこなしてみせましょう」
そう言いながらニッコリと微笑むローガ。
俺が面倒事を押し付けようとしている事を察していそうにも関わらず、この笑顔。
素晴らしい生贄精神と言う他あるまい。
「あそこに黄色の紙束が積み上がっているだろう? あれは実は全部未対応の依頼らしくてな。あの依頼を俺の代わりに片付けてもらいたい」
「なるほど、左様ですか。お安い御用です」
ローガは笑みを崩さず、俺の頼みを快諾してきた。
……って、マジかよ!?
だってあの山だぞ?
あんな量の仕事、引き受けようとは思わないだろう普通!?
ま、まぁ、こちらとしては助かるんだけどさ。
「ですが、さすがにこの量ともなると、オレ一人で片付ける事は困難でしょう。アレン様、オレの配下にも手伝わせてよろしいでしょうか? つきましては、この魔王の間への出入りをご許可願いたいのですが」
「ああ、構わないだろう。ばあちゃんも家じゃなくて魔王城にいるし、守る必要もないしな。全力で事に当たってくれ」
「ハッ。必ずやそのご期待に沿って見せましょう。では少々失礼致します」
ローガは一礼すると、俺から少し距離を取り、呪文を唱え始める。
「異なる地を繋げる異形の門よ、今こそ開け! スペースコネクト!」
ローガがそう言葉を発すると同時に、突如空間に切れ目が生じた。
そして、その切れ目からは続々とコボルドがやって来る。
狼の姿は見当たらないけど、執務仕事には不向きとローガが判断して呼んでいないのかもしれないな。
4本足の狼では紙を持つ事は出来ないし。
口でくわえることは出来るだろうが、紙がぐしゃぐしゃになって業務に支障が出るだろうからな。
前のオークの時の奇襲とは違って、ただの移動目的で使われているからか、同じスペースコネクトの魔法なのに印象が随分と変わって見える。
魔法の使い方は本当に大事だな、うん。
コボルド達は、俺やフィレトの邪魔にならない位置まで移動して整列する。
空間の切れ目が閉じた頃になると、ローガはコボルド達に指示を出した。
すると、高く積み上がった黄色の紙束から紙の山を崩さないようにそっと紙を取る者。
取った紙を内容によって分別する者。
その二つの役割に分かれてコボルド達は動いているようだった。
集団で動く事に慣れているのか、コボルド達は一糸乱れぬ動きで黄色の紙の仕分けに取り組んでいるようだ。
「スムーズな動きで驚いたな。どうやってコボルド達は意思疎通しているんだ、ローガ?」
「お褒めに預かり光栄です。我々は常に一心同体のように行動してます故、このような役割分担する事は苦ではないのです」
そう言って得意げな表情を浮かべるローガ。
なるほどな。
ローガの思いで一族全体が俺に忠誠を誓う位だ。
それだけ狼全体がまるで一つの個体のように動く事が出来るのかもしれない。
しばらくその様子を見ていた俺とローガ。
この調子なら、今ある黄色の紙に関しては、今日中に仕分けが終わりそうだな。
だが、仕分けを行うだけでは終わった事にならない。
仕分けをした後、手分けしてその依頼を受けて達成しなくてはいけないのだから。
その事はローガも分かっているようで、少しコボルド達の働きぶりを見てから、仕分けが終わっている紙の数枚に目を通していた。
「……なるほど、これは酷いですな」
「ああ、分かってくれるか、ローガ? 俺も承認する時に散々苦労したんだ」
「それは大変でしたね……その心労、お察し致します。ですが、悪い事ばかりではないですね。もしかすると、思ったよりも早く終わるかもしれません」
ん?
思ったよりも早く終わるってどういう事だ?
疑問に思った俺はローガにどういう事か説明を求めると、ローガは自身の推論を述べてきた。
ローガが言うには、これらの依頼の中には重複しているものが数多くあるのではないかとの事。
長年ためこんできただけあって、全く同じ依頼が複数ある事もあれば、オークから話を聞けば終わる依頼が複数あったりなど、一気に片を付けられるものがありそうなのだとか。
「それは朗報だな。そういう分類をあらかじめやっておいてくれれば楽だったのにな」
「本当に仰る通りでございます。あの無能を追い出してオレを執事にして頂ければ、そのような分類は当然致しますし、よりアレン様のお役に立てるかと」
そう言うと笑みを深めて、ひざまずくローガ。
対してフィレトは不快そうにローガを睨みつける。
本当、この二人は仲が悪いよな。
もっと穏やかに生きてほしいと俺は思っているんだけど……。
とりあえず、黄色の紙束の処理はローガ達に任せれば大丈夫そうだ。
という訳で、今日の夕暮れに成果を教えてほしい事をローガに伝えてから、魔法の訓練をする事にした。
ちなみに、今までの数時間の訓練により、ゼーレバイトが使っていた魔法は一通り試し終わっている。
それで分かったのだが、どうやらゼーレバイトは小細工というものが苦手なようだった。
というのも、妨害系の魔法を使っていた記憶が一切なかったのだ。
まあ、圧倒的な魔力量を持っていたから、力押しで戦っても勝てたんだろうし、覚える必要がなかったのかもしれないけどな。
それに彼の戦闘好きな様子から察するに、全力の力と力のぶつかり合いこそが戦いだと思っていそうだったし。
力を削ぐような妨害系の魔法を覚えようとする要素はカケラもなさそうだった。
だが、俺は違う。
戦いが嫌いな俺は、力と力のぶつかり合いなんて熱い戦いは全く望んでいない。
むしろ面倒な戦いなんてものをいかにラクして早く終わらせるかが重要なのだ。
その為には卑怯と言われようと、姑息だと言われようと、あらゆる手を使いたいと思っている。
俺が姑息な手を使うことで、相手が俺との戦いをつまらないものだと感じ取ってもらえれば、戦う可能性がなくなって、俺にとっては嬉しい状況になりうる。
手に汗握る熱い戦いだったからいつかもう一度勝負しようみたいな展開は俺にはご遠慮願いたいからな。
その展開を避けるためには積極的に姑息な手を使うべきだろう。
ただ、そういう類の魔法をゼーレバイトが使った記憶はない。
そのため、その魔法を使うには俺が自力で覚えなければならない。
という訳で、今日の俺は訓練室ではなく、図書室にいる。
図書室で知らない魔法の本を借りて、訓練室でその魔法の練習をする予定なのだ。
魔王城の図書室は、俺の自室と同じ程度の小規模なもので、本の数もあまり多くはなさそうだ。
そんな狭い図書室には人が全然おらず、部屋にいるのは俺と司書と変な少女位なものである。
ちなみにその少女は白衣を着たエルフのようで、本棚に向かってぴょんぴょんととびはねている姿が印象的だ。
どうやら彼女の背丈ではギリギリ届きそうで届かない高さにある本を彼女は取ろうとしているらしい。
そんな面倒な事をしないで人に頼めば良いのにな。
大人の司書もいる訳だしさ。
そう思いつつも、気の毒に思った俺は、少女が取ろうとしていた本をひょいと手に取り、少女に渡そうとしたのだが。
「これが欲しかったんだろ?」
「あっ……それ、ボクが取ろうとしていたのに、です」
「えっ、いや、だから俺は君に渡そうとしているんだけど……」
「自力で取りたかった、です」
あっ、そうなの?
なんか妙なこだわりのある少女だなと思いつつ、俺は手に取った本を本棚に戻した。
すると少女は満面の笑みを浮かべてから、再びぴょんぴょんとその本を手に取ろうととびはね始める。
あの子は一体何をしたいのか……。
考えても無駄だと思った俺は、少女を視界から外し、自分の本を探す事に注力する事にした。




