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11.魔王城は薬草の宝庫になっていたようです。

 ベルニカは本当に俺の祖母なのか?

 その疑問を当然持った俺がベルニカに聞いた所、どうやらばあちゃんは俺と同様に、途中で悪魔になった感じらしい。

 俺の親を20代で産んだが、30代にて訳あって悪魔に変わる事になったとのこと。

 だから俺が産まれた頃のベルニカは、既に悪魔だったということになる。


 にわかには信じがたいが、俺はベルニカの言う事を信じることにした。

 何しろ、俺自身が人間から悪魔に変わっているのだ。

 そんな話は絶対にないなんて言える立場ではない。

 接している感じもいつものばあちゃんと変わらないし、途中でばあちゃんと入れ替わった偽者という感じには思えないしな。


 それにベルニカも悪魔ならば、今の俺と同様に長寿な訳だし、長年一緒に生きていくことができる。

 それは俺にとっては歓迎すべき事だった。


 その事を踏まえると、ベルニカが生きている間、この家に住むというのは現実的ではなくなった。

 この家に住もうとしても、多分俺達が生きている間にこの家の方が先に朽ちて壊れてしまうだろう。

 本格的に魔王城に住むことを考えないといけないかもしれないな。



 先の事を考えつつ、俺はベルニカとの会話を続ける。

 その中でベルニカから聞いたことによれば、”魔王様が恋しいです”という文章を書いていたのには理由があったそうだ。

 どうやら、かつての魔王ゼーレバイトと会えば、色々と貴重な薬草をくれたらしい。

 だから時々そういう手紙を送っては、薬草をもらっていたのだとか。


 ただ、今回送った”魔王様が恋しいです”という文章はゼーレバイトに宛てたものではなく、俺に宛てたものだったらしい。

 俺が依頼を受けて悪魔の国に立ち寄ることがあれば、こっそりネタばらしをしようと思っていたのだとか。

 今の状況が起きてしまって、気まずくなりそうだったので、早めにネタばらしをしちゃったというのが現状とのこと。


 ちなみに依頼書の話が出てきたので、それとなく依頼書の文章の意味が分からなかったから直してほしい事を伝えてみた。

 すると、「直接伝えないで行間を読んでもらうのが美徳なのよ」と笑って受け流される結果に。

 解せぬ。


 あと、ばあちゃんが俺の事を既に色々知っていそうだったので、言葉遣いは今の俺にとって自然な形に戻すことにした。

 戻しても全く驚く様子は見せなかったし、やはり知っていたんだと思われる。



 気を取り直して、俺は別の話題を振ることにした。



「まさかばあちゃんが悪魔だったなんてな。正直驚いた」

「ふふ、演技上手だったでしょう? でも、これからはその必要もないし、のびのびと過ごせそうで何よりだよ」

「それは俺も良かったと思う。まあ、俺はのびのびと過ごせなくなりそうなんだけどな」

「魔王のお仕事はたくさんあるからね。あたしにできる事なら協力するから、頑張るんだよ、アレン」

「ああ。その時は頼りにさせてもらうよ、ばあちゃん」



 何というか、ベルニカは頼りになりすぎて困っちゃう気がするんだけどな。

 この世界のバランスブレイカーというか何というか。

 まあ、ほどほどに頑張ってもらうとしよう。


 それからはベルニカと魔王城の現状とこれからについて話したり、ベルニカの昔話をして夕食を終えた俺。

 色々と衝撃的な情報が多すぎて疲れた俺は、早い所眠ることにした。





 そして翌朝。

 ベルニカがいつものように朝食を作ってくれたので、その朝食をとることに。


 見た目が俺よりも少し年上位の若い女性になったばあちゃんだったが、料理の腕は変わらないようだった。

 そりゃあ、同一人物なのだから当たり前の事なんだろうけど。

 でも、何だか不思議な気分だ。



「それにしても、魔王城のみんなにこの姿で会うのは久しぶりだから楽しみだよ」

「そうなのか? そういえば、フィレトの事は知っているみたいだったよな」

「ああ、知っているとも。この家にチラッと入った時があったけど、相変わらず生真面目そうだったね。あまり変わらないようで安心したよ」



 そう言って微笑むベルニカ。

 そういえば、俺を転移魔法で出迎える時、ちょいちょいフィレトはこの家に来ているもんな。

 フィレトの事だから、認識阻害魔法とか使っていそうなものなのだが、ベルニカにはそんな魔法は通用していなさそうだ。

 一体どんなカラクリがあるのやら。


 ちなみに先程の狼とオークの戦いの時も、俺の自宅周辺に軽く結界のようなものが貼られていて、外の様子を見えなくするようになっていた。

 きっとローガがその結界を張ったんだろうが、ベルニカにはその結界が効かず、外の様子が丸見えだったのかもしれないな。



 朝食を終えて、少し家の中でゆっくりしてから、俺はベルニカに声をかけることに。



「ばあちゃん、そろそろ城に行こうと思うんだが、準備は良いか?」

「うん、こっちはいつでも大丈夫よ。道中、よろしく頼むわね」



 俺はベルニカの声に黙ってうなずく。

 まあ、道中とはいっても、家から魔王城に直通な訳だし、道らしき道はないのだけれども。

 瞬間移動の魔法を使って運ぶことを頼まれたのだと俺は解釈することにした。


 瞬間移動の魔法に集中するため、人間に変化する魔法を解き、俺は魔王の姿に戻る。

 だがベルニカは全く驚いた様子を見せず、静かに微笑み、俺の服をそっとつかんだ。


 俺はそれから一呼吸置いて、テレポーテーションの魔法を発動させた。

 すると周りの景色は一転し、夜のような雰囲気の魔王の間に降り立つ。



「魔王様、ご無事の帰還で何よりです」



 俺の到着に気付いたフィレトは、執事用の椅子から立ち上がり、一礼して俺に挨拶をしてきた。

 俺が軽く手を挙げて返事をしていると、ベルニカが一歩前に歩み出て、フィレトに言葉をかけた。



「お久しぶりですね、フィレト様」

「あなたが魔王城に来るなんて珍しいですね、ソノカ。いや、その姿ならば、ベルニカと呼んだ方がよろしいでしょうか」

「そうですわね。そのようにして頂けると助かります」



 ベルニカはそう言ってから軽く一礼をして、俺の一歩後ろの所まで下がった。



「それにしても魔王様がベルニカを連れてくるなんて不思議ですね。ベルニカは長年不在だったはずなのに、こうして戻ってくるとは予想外でした」

「そうですわね。こうして会うのは三十年ぶりになるかしら」



 三十年ぶり、か。

 その間は魔物達とも会わないで過ごしていた事からして、人間として生活をしていたのかもしれないな。

 少なくとも、俺が今の家で過ごしている間は、ずっとただ一人の親族の祖母として生活してくれていたのだ。

 きっとだいぶ不自由させただろう。



「ばあちゃんはここに来たのは良いけど、どこで待っているつもりなんだ? 俺はしばらく魔王としての仕事をしないといけないんだが」

「そうね……。調合室は空いているかしら? 開いているのなら、そこで薬を開発しようと思うのだけど」



 そう言ったベルニカの声は若干弾んでいた。

 薬の研究は、ベルニカにとっては楽しいものだったのかもしれないな。



「調合室は空いていますが、数十年放置されていますから、使うなら掃除から始めて下さいね」

「あら、ということは、あたしが以前使ってから誰も使ってないという事なのね。全く、宝の持ち腐れだこと」



 ベルニカは呆れた様子を見せながらも、その口角は吊り上がっていた。

 まあ、この状況はベルニカにとってはとても良い状況なんだろうし、内心大喜びするのも無理はない。


 魔王城には、魔物の全領地から税として何かしらの物が納入されるようになっている。

 納入されるものは食料、鉱石など多岐に渡り、その中には当然薬草も含まれていた。

 食料など、消費されるものならば良いが、薬草などは調合者がいない限りはたまる一方なので、つまりは魔王城には薬草が三十年分貯め込まれている可能性が高い。

 魔物の領地に生える薬草は魔草が多く、空気中に魔力さえあれば生存が可能なので、魔王城にある薬草は三十年経っても使える状態にある。

 そんな素材の宝庫である魔王城は、ベルニカにとっては格好の実験場になりそうだ。



「それじゃ、あたしは調合室を掃除してくるよ。何か困った事があったら、いつでも言うんだよ、アレン」

「ああ、気遣ってくれてありがとな、ばあちゃん。ばあちゃんこそ、困ったことがあったら俺に声をかけてくれ」



 そう言葉を交わすと、ベルニカは魔王の間から軽快な身のこなしで出て行ってしまった。

 もはやその動きからは老人らしさは微塵もない。

 やっぱり俺のばあちゃんって感じはしないよな、今のベルニカはさ。

 まあ、頼りになる仲間が増えたと思えば良いのかもな。

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