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不可能を可能にする少女、街に行く

 量は倍以上になりました。

 ……はい、申し訳ありません。本当は1万とか書くつもりだったんですが、ちょっと長過ぎたのでキリのいいところで分けました。

 今は加筆修正をしているので、分けた方はもうしばらくお待ちください。

「自分で言うのもなんだが、ろくな食料がないな」

 アリウスは目の前に並べた食料を見下ろし、ため息をつくと粉を固めたようなものを手に取って口に放り込む。

 元々弱りきった自分の体に合わせて作ったものなので、物自体はとても柔らかく、噛み砕いて嚥下したアリウスは口に合わなかったのか眉をひそめる。

「無味も過ぎれば不味か。効率重視で味を捨てたのは失敗だったな……今の体は味のある物を大量に欲しているが、どうしたものか」

 ドライフルーツを数個まとめて口の中に放り込むと、アリウスは口を動かしながら曖昧な周辺の情報を引っ張り出すとその中から食材に最適なものを羅列していく。

 多くの選択肢からアリウスが選んだのは、肉。

「久々に肉を食うとしようか」

 それを調達するべく、アリウスは研究所の外へと出て行った。

 そして数分後には巨大な豚のような生物を引きずりながら戻ってくると魔法で一気に豚を解体すると一部を焼き、残りを乾燥させて保存食に仕上げる。

 焼いた肉に香辛料を掛けて食べながら、これまた魔法で保存食を手提げ袋へと入れていく。

 保存食は文字通り山のようにあり、どう見ても手提げ袋には入りきらない量であったが、何の問題もなく全ての食料が手提げ袋へと収まる。

 この手提げ袋には収納と拡張の魔法を封じ込められており、作成する術者の力量次第だが見た目以上の量と大きさの物を入れることが出来る。

 重量はそのままとなってしまうのが玉に瑕だが、アリウスが使っているのは更に軽量化の魔法も封じ込めたことで見た目通りの重さになっている特別製だ。

 ちなみに軽量化は収納と拡張の魔術式に干渉して全て無効化になってしまうので共存は不可能というのが定説であり、アリウスがその説を覆そうと研究した成果でもある。

 手を軽く振り、服や必要な物も袋に詰め込んでいく。

「ふぅ……これ以上食べては動けなくなるな」

 旅の支度を終えるのと同時にアリウスは食事の手を止めた。

 残った肉に乾燥の魔法を掛け、干し肉にするとそれも袋の中へと入れる。

「残るは研究所の封印か」

 様々なやるべきことを並行してやっていたので、残りの事項は研究所の封印のみだ。

 かなり厳重に封印をするつもりのアリウスは、自分の長い人生のほとんどをここで過ごしたことを思い感慨深げに目を閉じる。

「いや、思い出とは特にないな」

 そしてすぐに目を開けた。

 別段、思い入れもない研究所を出るとそのまま腕を軽く振った。

 すると虚空に何十……いや、下手すれば百にも及ぶ数の魔法陣を浮かび上がり研究所全体にその効果を行き渡ると一斉に発動させた。

 アリウスが発動させた魔法は大きく分けて入口を塞ぐ魔法、認識を阻害する魔法、幻影で包み込む魔法の3種類だ。

 発動した魔法に同じ魔法は何一つなく、欠点を補い合い綻びは一切ない完璧な封印となっている。

 これを解除できるのはかけた本人かその筋の天才くらいなものだろう。

 久々の封印の出来に満足すると目印として、魔法で作り出した大きな岩を置いてこの地を離れる準備は終了だ。

「さて、行くとしようか」

 手提げ袋を腰から下げると、アリウスは記憶の隅にある最寄りの人口密集地へと向かう為に飛行魔法で浮かび上がる。

「確かあっちだったな」

 方向を確かめると、その方向に向かって凄まじい速度で飛んでいった。

 アリウスが突っ込んだ雲が丸い輪になり、近くを飛んでいた巨大な鳥は弾き飛ばされ、眼下に生える木々はその先端を大きく揺らす。

 それをアリウスは気にしていないが、第三者目線で見ると白い線が全てを薙ぎ飛ばしていった。この一言に尽きることだろう。

 とにかく、僅か数分で近くの都市である「アンデモン」へと着いたアリウスは高い壁の頂上に着地すると顎に手を当てて首を傾げた。

「こんな街だったか?」

 眼科では地上3階建ての建築物が軒を連ねているが、アリウスの記憶ではこの街は地上30階建てが乱立するような街だったはずだ。

 ちなみに思い入れのない街の様に言っているが、この街がある場所はアリウスの生まれた街があった場所だ。

 でもなければ、数百年も辺境で引きこもって研究三昧の日々を過ごしてもまだ記憶に残っているはずもないだろう。

「んんー……なんだ、何か思い出しそうだ。そう、この街がどうのこうのと誰かが言っていた気がする」

 なんとか思い出そうとするアリウスだが、思い出されるのは研究のことばかりであり、それ以外のことはほとんど思い出せない。

 さて、ここでもう一度言っておこう。

 ここは要塞都市「アンデモン」という人類が作り上げた対魔族の防衛拠点である。

 周辺に山などの障害物は皆無。

 常に魔族を警戒しており、警備はとても厳重。

 防壁でもある都市を囲む壁はおよそ30メートルにも及ぶ高さがあり、防衛だけでなくアンデモンへ侵攻してくる敵を早期発見するための物見櫓の意味合いも持つ。

 警備体制は、都市内はもちろん都市外も魔界だけでなく魔族と結託した国からの侵攻も想定しているので四方八方を警戒しており。

「おい、お前!」

「ん?」

 アリウスが見つかるのは当然であった。

 鉄の帽子に鉄の鎧……鉄製の戦士装備一式を纏った男がアリウスに向かって鉄の刃が付いた槍を向け、警戒をしながらも職務を全うしようと虚勢にも取れる程大きな声で怒鳴る。

「どこから入った! お前は何者だ! 人間か、魔族か!」

「空を飛んできた。私はアリウス。種族は人間だ」

 正確には人間を元に作り上げたレプリカントではあるが、大した違いはないのでアリウスは伏せる。

「空を飛んでだと? この都市は飛行する者に対して自動で迎撃する魔法がある! 飛んでくることなど出来ん!」

「あぁ、あの魔法か」

 飛行してきたアリウスは、街の周囲に張ってある飛行して近づく者を認識する決壊には気づいていた。

 そしてそれと連動して発動する対空魔法も。

 それに対してアリウスが取った行動は簡単だった。

「感知されるのよりも早く通り抜けた。感知範囲に入ってから発動では対空魔法が発動するより早く侵入が出来てしまうので、飛行して近づいてくる者を感知してから発動にした方が良いぞ」

 それでも私は感知するより早く通り抜けることができるが、という言葉を飲み込み助言をすると、アリウスを見る兵士の目が化物を見るような目になった。

「なんだ、この程度なら誰にでも出来ることだろう」

「出来るわけないだろう! 世界中の精鋭が集められてるここでも出来る人間は居ない!」

「……なるほど、少し外に出てない間に人間は退化したようだな」

 こうなっては新しい魔法の知識は期待出来そうもないが……。

 アリウスは期待が外れて思わずため息をついた。

 しかし、すぐに新しい魔法体系が確立されたが故に、育成が間に合わずまだ技術が追いついていないだけなのかもしれないと仮説を思いつき再度期待を持つことにした。

「何を言って……るっ!?」

「さて、行くとするか」

 兵士が突然棒立ちとなると、アリウスはそのまま壁から飛び降りて都市へと侵入を果たした。

 棒立ちとなっていた兵士はふと我に返ると小首をかしげ、そのまま元の業務へと戻っていった。

 その兵士の記憶には、常識外れな方法で侵入してきた少女が居た事など欠片も存在していなかった。


 アンデモンを行き交うのはそのほとんどが兵士か傭兵たちで、例外もアンデモンへ物資を届ける商隊くらいだ。

 その中で見た目が少女であるアリウスは場違いなほどに浮いていた。

 傭兵の中にも少女が居ないわけではないが、それでも全員が傭兵の雰囲気というものを纏っているので、不思議とアンデモンにマッチしている。

 そんな空気など読まないアリウスは、浮いていることにも気づかずに近くを通る傭兵に話しかけた。

「すまない、少し聞きたいんだが」

「あ?」

 気が立っているのか、そういう性格なのか、話しかけられた傭兵はアリウスを睨みつけるがアリウスは気にせずに話を続ける。

「この都市に魔道書がある図書館などはないだろうか。少し調べ物をしたい」

「ここに図書館なんていう軟弱野郎が使うもんはねぇよ!」

 威圧するように前かがみになってわざと大きな声で怒鳴るが、もちろんアリウスは気後れなどするはずもなく「そうなのか」と言うと顎に手を当てて考え込み始めた。

「……この辺の地理に疎くてな。どこに行けばある?」

「知るかっ魔道書は魔術協会が管理してるから、そこら辺を歩いてる魔導師にでも聞け!」

「なるほど、道理だな」

 邪魔したな、と言い話しかけた傭兵から離れようとしたアリウスだが、傭兵に肩を掴まれてそれは適わなかった。

「……離してくれないか?」

「うるせぇっ俺は今むしゃくしゃしてんだ。そんな時に話しかけてきたお前が悪「もう一度だけ言う」

《離せ》

 何の変哲もないただの少女の声。

 だが、それに込められた圧は凄まじいもの。

 周りを歩いていた兵士や傭兵たちも反応して武器へと手をかけ、真正面で受けた傭兵は腰を抜かしてその場に尻餅を付いた。

 腰を抜かした傭兵を見下ろしながらアリウスは静かに、囁くように、言い聞かせた。

「……そしてこれは一度だけしか言わないからよく聞いておけ」

 次に私の邪魔をしたら殺す。

 静まり返る街の一角にその言葉が響き、それを聞いた全員はこの少女はそれを出来るだけの実力があり、そして本気でやるつもりだと一瞬で理解していた。

 歴戦の戦士たちにそう思わせた張本人は、不愉快そうに鼻を鳴らすと歩き出す。

 その先に居た戦士たちが道を空けていき、そのままアリウスはアンデモンを行き交う傭兵たちの雑踏の中へと姿を消していった。

 その場に居た全員は、去って行くその小さな背が見えなくなるのと同時に無意識に止めていた息を大きく吐いた。

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