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ポラリス~導きの天使~  作者: ラグーン黒波
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第二章・四人の【天使】~【第六節・友】~

皆が各々の答えを見つけ、進みだす最終節です。

三つ編み視点で綴られる物語では、ポラリスはかなり不気味な存在として映っているのかもしれません。


 時刻は二十二時十六分。僕らはあの街からスピカの領地へと戻り、今日の成果報告も兼ねて、城の食堂で細やかな宴を催してもらった……のだが。


「ポーラ司祭っ!! おかえりなさいっ!!」


 そう言って土の付いた顔で出迎えてくれたのは、今日は予定があって同行できないと断った、体格の良い金髪巻き毛の彼だった。詳しく話を聞くと、狩猟をしている最中にドルロス夫妻と偶然会い、そのまま流れでここまで来て畑仕事を学んでいたらしい。そもそも、夫妻との接触は今日は無理だと踏んでいたこちらとしては、思わぬ朗報である。

 帰りの道中もあるので酒は飲めないが、ローグメルクと魔物混じりのスーツ姿の蜘蛛男――アラネアが厨房に立ち、料理を振る舞ってくれる。魚料理がないのは少し残念だが、アラネアの作る料理は初めて見る物が多く、味も独特で、彼の冒険譚も添えると手帳の一ページ以上を占領することになった。この辺りでは手に入れることのできない希少な調味料も少し譲ってもらったので、今度色々と食べ合わせを研究してみようと思う。

 考えてみれば、教会の【天使】全員で食事の席に並ぶこと自体が初めてであった。僕らはペントラを含めた五人で固まり、運ばれてくる料理に舌鼓を打つ。僕の隣に眼鏡の新人が、向かいの三席には左から三つ編み、ペントラ、巻き毛の順で座っている。スピカやシスター、ティルレットにドルロス夫妻は厨房に近い、上座側へ固まって座っているが、時折席を動かして僕らの輪へ入ってきてくれる。報告や相談で会話をするのに忙しい僕としては、ありがたい配慮だ。

 部下三人は初対面のペントラに少し緊張していたようだが、彼女の厚かましさ(優しさ)もあって、すぐに打ち解けてしまった。


「ほらクソガキ、野菜ばっか食ってると痩せるよっ!!」


「お肉食べると胃の調子が悪くなるんですよ。あと私はクソガキじゃありませんし、ポラリス司祭と同期です」


「あー生意気さねっ!! でか男を見習いなっ!! ちゃんと肉食わないと、ああなれないぞっ!?」


「お、俺は元々体格に恵まれただけで……多分、人間と違って階級依存で【受肉】した肉体は成長しますし、栄養になれば何食べても変わらないと思いますよ?」


「お……おかわりを、お願いします」


「はいよっ!! あんたは細いのによく食うね、貰ってくるからいい子で待ってな眼鏡ちゃんっ!!」


 ペントラが席を立ち、空になった皿を厨房へ持っていく。相変わらず、嵐のような人だ。目の前に座る三つ編みの彼も、どことなくげんなりしているように見える。他二人は僕や彼よりも楽しげだが。


「……疲れますね」


 三つ編みが皿に盛られた大量の鹿肉を嫌そうにフォークで突きながら、僕へ話しかけてくる。


「いい人なんですけど、遠慮がないと言いますか……僕も彼女には頭が上がりません」


「そもそも、司祭に友人と呼べる方がいたことに驚きです。しかも【悪魔】とは……よくニーズヘルグにばれませんでしたね」


 元々毒っぽい話し方の彼だが、病室でお互いの本音を打ち明けて以降、数歩引いて話していたあの距離感が妙に近くなった。同期ということもあって、やはり僕を上司として認めていなかったらしく、本来なら自分が昇級するはずだったとまで言われもした。一方で、神々を崇拝する考えを改めるつもりはないが、【天使】として人々を導きたい思いは同じと、渋々今回の一件の謝罪の言葉も聞けた。

 彼が優秀なのは事実であり、考え方を否定するつもりも無い。今回の一件はこちらの責任として扱い、未熟な僕自身も上司として見てもらえるよう努めるので、これからも【お告げ】を必要としている人々の為に力を貸して欲しいと伝えた。


「私よりも劣っていると判断したら、遠慮なく蹴落としますので、覚悟してください」


 それが彼の返答だった。優秀な【天使】が増えるに越したことはないという意味で「どうぞ」と返したのだが、なぜか睨まれてしまった。ペントラやシスターが居てくれなかったら、また街の住人に迷惑を掛けてしまっていたかもしれない。……彼との会話はまだ難しい。


「先輩、いつになくイライラしてません? 山羊ミルクはありますよ」


「お前まで私をガキ扱いするか。まあ、寝る子は育つと言うものな。あれだけ居眠りをすれば、無駄に大きくもなるか」


「絶好調じゃないですか。なんか街でいいことあったんです?」


「あ゛?」


 一見喧嘩のようにも見えるやり取りだが、巻き毛の彼は三つ編みを【先輩】と呼んで慕っており、三つ編みも【生意気で寝坊助だが優秀な後輩】と認め合っている仲のようで、二人にとってはこれが普通なのだそうだ。ニーズヘルグの時から、彼の命令で寝ている巻き毛を叩き起こしに行くのは、三つ編みの役目だったらしい。同僚同士ではほぼ繋がりが無いものと思っていたが、意外な部分で繋がりができるものだ。


「あ、畑の件なんですけど……ドルロス夫妻は土壌や魔術的なもので、冷害を防いでいたみたいです。それで、畑に蒔いてあるこれを貰ったんですけど――」


 巻き毛の彼は、腰に付けたポーチの一つから、黄色い紐で口を縛られた小袋を取り出す。小石ほどの大きさで固く小さいものが詰められているらしく、テーブルの上へ袋を置くと、ジャラジャラと音をたてた。


「――夫妻曰く、【火山付近に生息する溶岩スライムと、土地の栄養を吸い成熟した土スライムを、混ぜて固めてバラバラにした肥料】……だそうです。これを畑に蒔くことで、穀物も果樹も葉野菜も数日で収穫できるまで、一気に成長するらしいです。根菜に至っては一日……流石にこれを街の畑に使うのは、俺はやめといた方がいいと思います」


「うん……うん?」


 原材料の時点でとんでもないが、生産性がおかしくないか? 数日で収穫? 葉野菜は品種によっては急成長する種もあるやもしれないが、穀物も果樹も数日で収穫できると思っているほど、僕も馬鹿ではない。精々一年に数度。どんなに多くても、一ヶ月の間に二桁近い収穫を行える、超速回転率の食用植物など前代未聞だ。

 紐を解いて、袋の中身を数個取り出してみる。出てきたのは、赤茶色をした小粒の固体。手で触れると、一粒一粒が微かに熱を持っているのがわかる。


「そいつを埋めておけば、土スライムが吸った養分が水と一緒に吸収されて、溶岩スライムの保温性も植物に引き継がれる。冷害なんぞにはそうそう負けん立派な植物が育つんじゃ。ただ、収穫した後は数日暗所に放置する必要があるがの。毒はないんじゃが、ワシはあの臭みがなぁ……」


「スライムの泥臭い臭いがついちまうんだよ。引き抜いてほっとけば、自然に消費されて分解される。そこまでやって、初めて交易や自分達で消費ができるのさ。冬でも育つようになるけど、穀物なら全体で十二、三日ぐらいはかかる。収穫頻度が速すぎると手の方が回らなくなるし、熟したらすぐ収穫しないとドロドロになっちまう。アタシも旦那もいい歳だ。みんなに手伝ってもらわなきゃ、あっという間に日が暮れちまうよ」


 ドルロス夫妻が僕の傍まで歩いてきて、スライム由来の肥料の扱い難さを説明する。家畜のフンを肥料として利用する風習はあるが、魔物を……それもスライムそのものを、農業に利用するとは誰が思いつくだろうか。これほど強力で劇的な肥料を街の畑へおいそれと使うのは、様々な面で危険が生じる。下手すれば持ち出されて、悪用もされかねない。……あまりに時代を追い抜き過ぎた代物だ。


「……大変興味深いですが、こちらの肥料は僕らの街で使うにはまだ早いかもしれません」


「ううむ……やっぱスライムってのがよくないのかねぇ」


「婆さん、そもそも何を思ってスライム何ぞ使おうと思ったんじゃ……」


 マグ・ドルロスが眉間にしわを寄せながら、ユグ・ドルロスに尋ねる。作成そのものを計画したのは彼女かららしい。

 彼女は懐からスライム肥料と同じ見た目の袋を二つ取り出し、僕らへ見せる。違いがあるとすれば口を縛る紐の色が違うくらいか。


「右の赤い紐が【火吹きムカデ】と【雷華】を粉末状にしたもんで、直接植物に振りかけると病気にならなくなる。……代わりに植物の繊維が切れると、そこから火が出るがね。左の紫の紐は【月光草の根】と【霊鳥の血】、それと【長寿茸】を混ぜ合わせた栄養剤だ。どんな環境でも枯れなくなるが、根が深くなり過ぎて抜けなくなるし、刈り取ろうと切っても再生しちまう。スライムは分裂性と結合性が曖昧だから、植物の体を形成する補助にも使えて一番管理がしやすい。今までの失敗作と比べれば、一番いい出来だったんだよ」


 何を言っているか半分も理解できなかったが、ユグ・ドルロスは薬学方面に知識が広いのだろう。手に持った前例の二つに比べ、管理できさえすれば危険は無いが、人間や自分達の口に入るとなると考えさせられてしまう。

 彼女の話を聞いて、ここの畑で収穫された野菜ばかり食べていた、目の前に座る三つ編みの顔色が一気に青くなる。


「は? え……じゃあ、私の胃の中にはあのドロドロした奴らの一部が……っ!!」


「ふぇっふぇっふぇっ!!」


「一部どころか、三分の二ぐらいはスライムでできてるんじゃないかのぉ……」


 マグ・ドルロスの一言が刺さったのか、三つ編みが立ち上がり口元を抑えて食堂を出て行く。

 行き先は見当がついているので、僕らは彼が間に合う事だけを祈りつつ、戻ってくるのを待つことにして宴を続ける。巻き毛は気にしている様子はないが、食べながらドルロス夫妻と肥料の成分や薬草学について話し合っているようだ。新人はペントラが持ってきてくれた、野菜の葉で肉を包んだ料理を黙々と食べている。厨房ではローグメルクがデザートと焼き菓子を、手の空いたアラネアが手を拭きながらこちらに歩いてくる。


「それは俺が作ったんだけど、【天使】様達のお口には合ったかな?」


「珍しい料理ばかりですが、どれも美味しいです。ありがとうございます、アラネアさん」


「あっはっ!! どういたしまして、ポラリス司祭っ!! 旅した土地の郷土料理を俺なりにある食材で再現して、その当時のワクワクした気持ちを思い出す……君達にも、是非味わって欲しかったんだ。満足していただけて光栄だね」


 アラネアは片手でシルクハットを持ち上げ、軽く頭を下げた。近くで見ると、手足の長い彼の身長の大きさがよくわかる。ローグメルクも身長が高いが、彼と厨房で並ぶと背丈がほぼ同じで、違和感がなかったからだ。

 新人が皿の料理を平らげて、アラネアの背から生える足(腕かもしれない)を興味深げに見る。


「魔物混じり……ご両親の、どちらかが蜘蛛なんですか?」


「母さんが純血の女郎蜘蛛、父さんは人間の冒険家さ。父さんがどこかの遺跡探索していたら、たまたま母さんの巣に入っちゃたらしくて。父さんは命辛々逃げ出すんだけど、母さんは父さんに一目惚れ。いつの間にか一緒に旅するようになって、俺が生まれたのさ。そんな自由な両親に育てられたものだから、俺も冒険家になったのかもね。今でも知り合いの古物商を通して、手紙のやり取りしてる。自慢の両親さ」


「……素敵なお話ですね」


 新人が感想を述べるとアラネアはにこりと笑い、背中から生えた四本の足で近くの余った椅子を引き寄せ、僕の隣に座る。


「今度は【天使】さんの話を聞きたいな。他所の街じゃ、教会に近付くだけで怒られて、話聞くどころじゃないんだ。体格のいい彼にもいろんな話を聞いたけど、君らの今日までした冒険や日常も俺は知りたい。……あ、このお肉貰っていい?」


 彼はテーブルの上に置かれているフォークやスプーンの入った、木の皮を細く鞣して編まれた小物入れから新しいフォークを一本取り出し、三つ編みの席に放置された鹿肉が山盛りになったままの皿を指さす。まだ戻ってくる気配が無いうえ、彼も肉が好きではないと言っていた。減らしておいてあげた方が、むしろ彼の為か。

 「どうぞ」と、僕は肉の皿へ左腕を伸ばして何とか掴み取り、アラネアの前に置く。


「ありがとう、司祭っ!! 肉は冷めると固くなっちゃって台無しだ。温かい食事は温かいうちに食べる方がいいっ!!」


「彼は胃が弱いそうなので助かります」


「なるほど、なら遠慮なく彼の為に食べさせてもらうよ。……うん、懐かしい味だ。じゃあ、どこから聞いたらいいかなぁ……」


 鹿肉を頬張りながら、彼は質問内容を考える。すると、横から新人が使い込まれた自身の手帳を持って、おずおずと出てきた。


「うん? 随分表紙の痛んだ手帳だね、眼鏡さんのかい?」


「えっと……わ、私の教えられた範囲や、その日の業務なんかも、沢山書いてあるので……」


「……僕が見ても構いませんか?」


「え? え……つ、拙い字でも良ければ…あとあとっ!! 付箋の挟まったページは、絶対読まないでくださいっ!!」


 彼女は顔を真っ赤にしながら、僕らに手帳を突き出す。自分の事を話すのは苦手で、消極的な言動が多い印象だったが、彼女ももしかしたら今日のちょっとした冒険を通し、変わったのかもしれない。嬉しいことではあるが、無茶して空回りだけはしないよう見守らなければ。

 焦らなくとも、成長はゆっくりでいいのだから。


***


 今日の夕食は、弟子達と酒場で飲み明かすよりも賑やかだ。ポーラも楽しそうで、アタシも遠目から見ていて嬉しくなる。

 最近は忙しくて一緒に飲み食いする機会も減ってたし、アタシも忙しいしで心配だったが、いつの間にか上司らしい顔つきをするようになったじゃないか。三つ編みのクソガキ、マッチョのデカ男、内気な眼鏡っ子。……みんな癖が強いが、優秀な部下だ。そいつらと上手に付き合えるかどうかはあんた次第。アタシもできる範囲では手伝うがね。


「ペントラの姐さんって、【簡易契約】の【中級悪魔】ってポーラ司祭から聞いたんすけど、人間の街で暮らしてて不便じゃねえですか? 魔力とか、どっから供給してるんすか?」


 厨房から青いエプロン姿のローグメルクが顔を出す。なかなか似合ってるじゃないか、男前。


 彼やティルレットは魔王と契約を交わした【悪魔】だが、その娘のスピカを新たな主とすることで、魔力供給源を確保している。魔力がなくとも生きられないわけではないが、主を持たない【悪魔】は【はぐれ悪魔】と呼ばれ、枯渇した魔力を補う為に、本能で周囲の生き物を貪る獣の様な行動をとる。場合によっては【悪魔】同士で共食いもするし、理性のタガまで外れると、自分自身の姿まで忘れて魔物になると言われている。

 そうならないよう、多くの【悪魔】はサタン、ヘカーティア、ハデス、ルシファー……その辺りの【冥界】で巨大な勢力を誇る魔神達と契約を結んでいる。そして【地上界】から眷属の呼びかけに応じて、配下のアタシ達が出向く。【地上界】では【冥界】で契約した魔人の魔力は届かないので、必然的に契約主を鞍替えする形になるが、一度【地上界】に出てしまえば魔術師と契約して魔力供給を受け続けるなり、魔力枯渇する前に【冥界】へ帰って魔人と再契約するなり選べる自由の身だ。

 彼らからしてみれば、根無し草のアタシがどうやって魔力を供給しているか気になるのであろう。


「ん。アタシは人間達の手助けしながら、なんとか食いつないでるさね。対価で仕事の報酬プラス魔力をちょこっとずつ戴く感じで。病人相手からは受け取れないけど、元気な人間ならちょっともらう程度に抑えれば、一般人でも魔力供給源にできるよ。勿論、街の皆にはアタシが【悪魔】なのは内緒にしてるし、気付いてないと思う」


「大変っすね……生きれるだけの魔力稼ぐのに、街を駆け回るとか……」


「いいや? アタシが好きでやってるんだ、苦じゃないし楽しいね。頑張れば貯金できる程度には魔力も確保できるし、意外と何とかなるもんだよ。このご時世、平和だなんだって言っても、困ってる人間は沢山いる。アタシみたいな根無し草でも、助けられるなら助けてやりたいじゃないか」


「俺も結構お人好しっすけど、姐さんもかなりのお人好しっすよ。つか、魔力供給がいつ絶たれるかわからない生活とか、生きた心地しねーすわ……」


「ボクは全然魔力搾取されてるとか実感ないんだけど、普通の人間はダメなのです?」


 アタシとテーブルを挟んで反対側に座るスピカが、豚肉をキャベツの葉で挟みながらローグメルクに尋ねる。そういう食べ方もあるんだね。ローグメルクは顎を擦り、その質問に答えた。


「お嬢はヴォルガードの旦那の娘なだけあって、元々尋常じゃないくらいの魔力を持ってるんすよ。特別な訓練しなくても、赤ん坊の時から俺やティルレットと契約して魔力補えるって、正直ヤベー案件なんですぜ。サタンやハデスに負けないくらい天才っす。普通の人間なら具合が悪くなるで済むめばいいっすけど、搾取し過ぎると死ぬっす。……本来は訓練しなきゃ、自前の魔力で【悪魔】を養い続けるなんて不可能なんすよ」


「ヴォルガードはあんたら【上級悪魔】の二人だけじゃなくて、他の【契約悪魔】全員にも魔力供給してたんだろ。この子の魔力が魔神と同格だとしても、アタシは驚かないさね」


「そういわれると複雑な気分ですねぇ。ボクも魔術師のように勉強すれば、魔術が扱えるようになるでしょうか」


「俺はオススメしないっすね。元の魔力がバカにならないと、軽く火をつける魔術でも火事になりかねねーす。それに教わるんならちゃんとした魔術師の方がいいっすね。俺は馬鹿だし、ティルレットは面倒くさくなりそうっす。シスターは……あれ? シスターとティルレットが居ないっすね?」


 ローグメルクとアタシが食堂内を見回すが、二人の姿はない。アタシもシスターに聞きたい事があったんだが。スピカがもごもごと、豚肉をキャベツで挟んだ物を咀嚼しながら何かを言っているが、聞きとれない。


「いいから、飲み込んでから話しな」


「――ふぅ。三つ編みの【天使】さんが具合悪そうに出てったので、二人で様子を見に行きましたよ。畑からとれた野菜がお気に召さなかったようで」


「だから肉食ってろって言ったのに。……てか腹刺された相手に看病されるとか、胃に穴開くんじゃないかい」


 アタシの言葉にスピカはにやにやと笑いながら、切られていない方の角の付け根を擦る。


「穴が開いたら、シスターに治してもらえばいいじゃないですか」


「あんたの主は悪い子だねぇ」


「お嬢はいい子っすよ」


***


「――魔物が蔓延り、そして街は無法者ばかり。……早急に統率者を要する件と考えます」


 俺は議会堂に集まった【第一・第二階級】の何十人の代表貴族に囲まれながら、三日前あの掃き溜めで起こったことを伝え、俺の領地とする為に抗議をする。商会絡みの案件だ、俺一人で街の確保は難しい。だが複数の貴族で協力すれば商会も多少なりとも揺すれるだろうし、魔物共の巣窟となっていると報告すれば、王国の軍備も動かざるを得ない。粛清だ。絶対的な力で焼き払い、貴族の俺を笑ったドブ鼠共を後悔させてやる。

 さあ、了承しろ。俺の為に支持の手を挙げろ老害共。高いソファに座りながら、高見で居眠りなんぞ許さんぞ。


「で、その街を落札することで、具体的な利益があるのか?」


 頭上から、黒い髭を蓄えた貴族が手を挙げて質問する。利益だと? 無論、俺の利益だ。


「いいや、あの近辺は全くうま味が無い。海は近いが、魚人族が勝手に関所を築いている。王都からも遠いし、出資するだけの価値があるとは思えないな」


「別荘地にするにしても中途半端ね。川も湖も無いじゃない。広大な畑にしても、地下水を汲み上げるための設備も整えなければいけないわ」


「整地に時間がかかり過ぎるし、あそこは商会側にも目をつけられている。下手に刺激して、王都内の物流を狂わされては元も子もない」


「住人もそれほど多くない。労働力として搾取するには少ないってのもなぁ……」


「地価が安く広い。だが、買ったところでなんだという話だな。このご時世、わざわざ軍備を動かすほどでもない」


「魔物が蔓延りって言っても、共存してるんだろ? 国王に歯向かう反乱軍を結成しているならともかく、ほっといても害はないじゃないか」


「近くに住む魚人族と、雨の日に小競り合いでもすれば勝手に壊滅してくれるだろ。そっちの方が面白い」


「それらを踏まえると貴公の独り勝ち……いや、腹いせに近いな。高潔な貴族らしからぬ対応では、己の器の小ささが知れるぞ、ツメイ・ゴリニヒーチ君」


「大人になり給え。天に居られる偉大なお爺様や、ご両親が泣いておられるぞ」


 相次いで降り注ぐ罵倒に歯を食いしばる。この老害共め、なぜ俺を支持しない。祖父は関係ないだろ。どれだけすごかろうと、あの人はもう過去の人だ。貴様らは戦時中、現地で死に物狂いの努力をした奴らの上に、ふんぞり返って偉くなった気でいる。お前らの功績ではない、お前らの部下の功績だ。爆発音と銃声、血の臭いが常にする戦地で一夜を過ごしたことはあるか? まだガキだった俺は、そこで二年は過ごしたぞ。ああ、思い出すだけでも気が狂いそうだ。

 だから俺は、俺の偉業の為に新規開拓をする。商会にも負けない大規模市場を作り上げ、歴史に俺の名も刻んでやる。その第一歩を、あの掃き溜めのドブ鼠共に躓かされては我慢ならん。温い隠居生活に満足した連中に何が出来よう? ただ漫然と老い先短い死へ向かって、浪費しているだけではないか。


「秩序の為ですっ!! 王都に遠かれど、周辺の街にまで影響しかねないっ!! 一部の善良な市民が腹を刺され、暴力に屈するっ!! これでは侵略戦争と何ら変わらないではないですかっ!!」


 俺は腹の底から周囲の罵倒する老害共に叫ぶ。俺は見たんだ。三つ編みの男が、冷酷な笑みを浮かべたメイド姿の魔物に刺されるのを。


「いいや、侵略戦争は【金】になった。一生暮らしていけるぐらいのね。そこへ投資する価値があるのかと聞いている」


「これは利益どうこうではないっ!! 現に人が死んでいるのですっ!!」


「それがどうした、貴公が刺されたわけでもあるまい。身勝手に死んだ連中に花を手向けるほど、我々も暇ではないのだよ、ツメイ・ゴリニヒーチ君」


「なっ!?」


 議会堂に議長のガベルが鳴り響く。なんだ、俺の話はまだ終わってないぞ。


「下がり給えツメイ・ゴリニヒーチ君。愚痴はもう十分聞いた。次の議題へ移らせてもらうぞ」


「お待ちくださいっ!! まだ了承が――」


「却下だ。近衛兵、彼を議会堂の外までお送りしろ。丁重にな」


***


 あの件から二週間。予想通り、商業区で売られる農作物の値は上がった。しかし、スピカ達が交易を行う街とこの街に物資の流通経路が出来たことにより、冷害で起こった被害分を賄うことは十分できた為、農家以外の住民に大きな影響も無く、少々の値上げだけで済んだのは大きい。原材料がスライムという事だけを除けば。

 私はそれ以来、農作物を口にする際は産地を気にしなければならなくなった。面倒だが、胃の中にあの半透明でぶよぶよした奴らの一部が入っていると想像すると、胃に穴が開いた。比喩ではない。手洗い場で、シスターによる緊急施術の世話になるのはもうごめんだ。

 時刻は朝六時。部屋の壁にかかった、腹部に剣が刺さり苦しむ【天使】の抽象画を見る。ティルレットから手土産として受け取ったものだ。明らかに私がモデルになったもので、突き返そうかと思ったが、ポラリスが欲しがったのでそのまま受け取った。何度見ても、あの時の事を思い出して胃が針で刺されたように痛む。いや、再び失態を起こさないよう、自分を戒める意味では効果的か。

 寝巻から青い修行着へ着替え、後ろ髪を邪魔にならないよう編み、黒い薄手の上着を羽織る。部屋の隅に立てかけられている、重石代わりに鉄芯が入った稽古用の木剣と長い鉄棒を手に取り、借家の木で出来た簡素な扉を開けた。まだ業務開始までに二時間ある。一汗かいて、身体を起こそう。



 稽古場として利用している街から少し離れた空き地へ行くと、先客がいた。へなへなと力み過ぎて返って締まりのない振り方、真新しい青い修行着、白い髪に灰色の瞳……ポラリスだ。

 四日程前から何を思ったか、奴は私と共に稽古をさせてくれと通い続けている。初めは視界に入るだけでもイライラしたが、今では教えた通りに剣を振れないこいつにイライラしている。教え方が悪いのか、奴が絶望的に不向きなのか……。ある程度近付いたところで、私に気付いたのか木剣を振るのをやめ、こちらへ向き直る。


「おはようございます、【アダム】。今日は朝から暖かくて、身体が動かしやすいですね」


「おはようございます、ポラリス司祭。あと、力み過ぎです。背筋と腕を使うよう振ってください。肩も上がり過ぎています。素人なんですから、基本を忠実に守って練習しないと上達しませんよ」


「……ですが、いつまで上下に振り下ろすだけの動作を続ければいいのですか? そろそろ横や斜めへ振る練習もした方が――」


「満足に上下にも振れない人が、他の事やろうとしないでください。また怪我して休暇使う羽目になりますよ」


 木剣と鉄棒を一旦地面に置き、軽く手足をほぐす。

 一週間前、ルシより【中級天使】の階級と、【アダム】という名と性別が私に与えられた。組織図的には、まだポラリスの部下で【副司祭】ということになっているが、権限はほぼ同等である。改造された懺悔室の仕事も一任されるようになり、住民からも直接相談を受けられるようになった。こちらに関してはポラリスの方が受けがいいらしく、奴を追い抜く為に、改めて基礎から人間の感情を勉強している。

 奴を追い抜き、私が司祭になる。一先ずの目標はこれだ。気に食わないながらも稽古に付き合ってやるのは、奴に実力差を理解させる為であって、決して奴の為ではない。奴から敬語でなくともよいと言われたが、仮にも上司と部下の関係だ。それ以上に慣れ合うつもりはない……ないのだが。


「アダム、準備運動が済んだら手合わせをしません? 試してみたいことがあるので」


 やたら距離が近い上に鬱陶しくなった。何をしでかすかわからず、無駄に行動力があるせいで目が離せない。こんな奴が私の同期で上司とは、胃だけじゃなく頭まで痛くなる。今までは関りを最低限に留めてきたが、仕事以外の事がここまで腑抜けた奴だとは想像すらしたことがなかった。だらしがない……と言うより、わからないの方が近い。

 曲がりなりにもこいつも【中級天使】だ。【天使】としての誇りを守る為に、不本意だが私が正してやらなければなるまい。階級に恥じぬよう、最低限の事柄は身に着けさせるべきだ。


「どうせロクでもない事して怪我するんですから、大人しく基礎動作を繰り返してください。まず、手合わせできる実力をつけてからです。今度は手首が折れるだけじゃ済まないですよ」


「木剣だけじゃなく、【信仰の力】も組み合わせてみたいのです。ただ……いえ、やはりやめにしましょう」


「ただ? ただなんですか、ポラリス司祭?」


「あなたが怪我するかもしれません」


「やりましょう」



 木剣を修行着の腰紐に差し込む形で帯刀し、鉄棒を両手に握り、中段でポラリスへ向かって構える。あれだけ大口を叩いたのだ、調子に乗られる前に、一度折ってやらねばなるまい。何をするつもりか知らないが、まともなことではないのは確かだ。

 至近距離の木剣より、奴の間合いより広い鉄棒の方が対応できる。【中級天使】となったことで、権限以上の恩恵があったのが身体能力の向上だ。今までの努力が反映されたが如く、体力も筋力も反射速度も倍になったように感じる。そのせいで手を抜いたつもりが、同じ【中級天使】のポラリスの右手首を折ってしまい、奴は半日休暇を取り、シスターの世話になることになった。意図せずして怪我をさせてしまったことを悪いと思うが、実力差がはっきりしたので、私は奴がいない時間をすがすがしい思いで過ごすことができた。昼過ぎに奴が完治して戻ってくるまでは。

 足は連れて行くのが面倒なので狙わない。今度は肩の骨でも折ってやろうか。


「僕も試すのは初めてなので、もし危なかったら止めてくださいね」


「私の事はいいので、自分が怪我しないことだけを考えてください」


 ポラリスの腕から光る煙のようなものが出て、徐々に半透明な二枚の翼を形成していく。奴の信仰は今やスピカのみならず、街の住人達のもいくらか含まれているらしい。使う度に前より堅牢になったと本人が話していた。私はまだ扱うことができないが、この身体能力と武器さえあれば十分だ。私自身への信仰など不要。神々のみを信じていれば、それでいい。

 十秒もしないうちに二枚の翼が、奴の頭上から腕へ沿う形で実体化した。人間の大人を三人は覆えそうな、巨大な翼の盾。あれが実に厄介で、叩き壊すと衝撃がこちらにも自分にも生じ、吹き飛ばされる。対策としては盾の隙間をぬって奴に直接攻撃するか、背後から攻撃するか……。


「鋭く、でも相手を傷つけないように……難しいですね……」


 ポラリスは右手に握られた木剣を見ながら、ぶつぶつと何か呟いている。早く構えろ。そう言おうとした時、奴の右翼が徐々に木剣を包むように変容していく。

 くるりと纏わり付いた右翼は、徐々に細くなり――木剣の刀身よりも長く、先端の丸い半透明のレイピアを模した形状となった。

 なんだあれは。ティルレットの呪詛の付与のようなものか? だとしたら、刀身へ触れるのは十中八九よくない。下手に鉄棒で砕くのも駄目だ。幸い、右翼がなくなったことで攻め易くはなった。なら右側を徹底的に集中して仕掛ける方が、戦い慣れていない奴には一番効果的だ。素人がどう突くか読めないのが難点だが、一度わざと突かせ、空振ったところを返しで右肩を狙う、ティルレットの時と同じ戦法が使えるだろう。


 ポラリス司祭には悪いですが、得物の特性を理解する前に、一撃で仕留めさせていただきます。


 地面を蹴り、中段の構えを維持しつつ速度を上げる。奴が左翼を盾として正面に構えたのなら速度を落とさず、右へ三歩、回り込んで突かれる前に右肩を狙う。レイピアを正面に構えたなら、突きを躱して右肩へ勢いのまま攻撃する。動体視力も上がっている。速度を落とさずとも、反応できる今の私に死角はない。

 奴の対応は――――左翼を後ろへ、右肩を正面に……守らず、レイピアのように突いて迎撃するか。短く持ち替え速度は落とすな。突かれたら右へ一歩避けるだけで、躱して反撃。何も難しいことはない。


 ――少しレイピアを引き、突きの予備動作に入る。右に一歩、歩みを加えて奴の突きの軌道から外れる。奴が私のいるべき場所の空を突き、こちらが突いた鉄棒は奴の右肩を――

 ――突く感触がしない。腹部に重たい一撃と浮遊感。視界に地面が見えた。そのまま私は背中から地面へ着地し、勢いのまま転がる。腹筋がびりびりと痺れる。痛みはないが、何かに突かれたような感触と、この吹き飛ばされ方……まさかあのレイピアは……。


「だ、大丈夫ですかアダムっ!! 今、当たらなかった筈なんですが――」


 やはりそうだ。あのレイピアに刀身は関係ない。あれは自分が狙った場所を突くだけで、【確実に当たる】。【悪魔の武器】に似たようなものがあった気もするが、あちらと違って殺傷能力はない。ただ盾を割られた時と同じ勢いをぶつけ、吹き飛ばすだけ。射程距離は不明だが、間合いの内に入り込んでたのに突かれたのだ。少なくとも、あのレイピアが届く範囲は狙えると考えた方がいい。

 這いつくばりながら奴を見る。……呑気に駆け寄ってきやがって、あの野郎……。


「調子に乗るなよ……っ!!」


 口に入った砂を唾と共に吐き、両腕と両足の力で素早く起き上がる。立ち上がったら鉄棒を右手に持ち替え、重心をやや後ろへ、目標は奴の胴体に狙いを定める。奴の足が止まる。狙いに気付いたか、だがもう遅い。

 槍投げの要領で左足を踏み出し、一気に前へ重心を移動させ、頭の高さに握りしめた右手の鉄棒を勢い任せに腕ごと振り下ろす。この瞬間、左翼を盾にする奴の姿を確認。前のめりになった反動をそのままに、奴へ向かって走る。

 鉄棒は奴へ向かって真っすぐ飛び、左翼に接触――一撃で割れて崩壊し、衝撃で鉄棒が私の頭上へと飛んでいく。衝撃は来ない、間合いの外だ。帯刀していた木剣を引き抜き、両手持ちに。三、二、一――踏ん張っている奴の左脇腹へ一太刀を入れ、予期せぬ攻撃に姿勢が崩れる。追撃――できるな。

 上半身を捻り、左脚で左腕へ一撃蹴り加える。まともに入ったのか背後へと軽く浮き、背中から倒れるが、綺麗に受け身を取り、後転して素早く起き上がった。痛みに顔を歪めているが、左腕は折れていないらしい。

 左翼は砕け、完全に消えた。……だが右手の木剣を包んだレイピアは、まだ実体化し続けている。奴が灰色の瞳で私を見た。レイピアを構え、反撃が来る。ああくそ、ずるいぞ、それ。

 奴の突きを躱したまでは覚えているが、眉間に強い衝撃を感じ、意識が飛んだ。


***


 時刻は七時になろうとしていた。羽織っていた上着を枕に、目を覚ます。右手側には、座り込んで白いタオルで汗を拭くポラリスが見えた。私が目を覚ましたことに気が付くと、自分の使っていないもう一枚のタオルを差し出しながら微笑む。

 男だが女の様な中性的な顔つきの奴と背後に昇る朝日に、一瞬神々しいと感じたが、頭を左右に振ってくだらない妄想を掻き消す。左手を突いて上半身を起こしながら、右手で奴からタオルを受け取る。


「……私は、負けたのですか?」


「負けたというか……当たってないのに、気絶したと言いますか。……とにかく大丈夫ですか? 折れたりとかしてません?」


「……ずるい」


「え?」


「ずるい……私は、こんなに努力しているのに……なんで空っぽのお前なんかに……ああくそっ!! くそっ!! くそっ!!」


 白いタオルに顔を埋める。目頭が熱い。悔しい思いが胸の底から溢れて、口から言葉として漏れてくる。


「わからないっ!! 【信仰の力】ありきでも、こんな中身のない空っぽの奴に負けるなんてっ!! 仕事だってそうだ……あんたの方が住民の評価は上だっ!! あの二人も、あんたの方を慕っているっ!! 私はお前なんかよりもずっと努力してきたんだっ!! あの森に住む【悪魔】達や魔王の娘と偶然友好的な関係になって、偶然【ルシ】に選ばれたっ!! あんたのせいで、あの日から全部おかしくなったんだっ!! なんで私はお前の背中を見続けなくちゃいけないっ!? なんで私よりも弱いお前に負けるんだっ!? いやだいやだっ!! 認めないっ!! 私は、私を創造した神々しか認めないっ!! お前なんか怖くないっ!! シスターが何と言おうと、狂った【悪魔】が私の腹を突き刺そうと……絶対に……ぜったい……ううぅ……なんでだよぉ……」


 折れそうだった。【中級天使】となって、隣のこいつと階級は並んだ。身体能力も上回った。仕事だって、今まで以上に頑張っている。何が足りない? 何が同期のこいつと私の差になった? 神々は私達を不完全に創造した。ならポラリスも不完全の筈だ。

 事実、仕事以外は腑抜けで、人の入るなと言った場所を平然と踏み抜き、神々よりも【地上界】に生きる人々を選んだ。それか? それなのか? 認めない。こんな奴の方が上だなんて認めない。でも、周りの奴らはこいつの方を評価する。誰も私の方が上と認めない。ずるい。ずるいぞ。たまたま選ばれてるだけで、たまたま勝てた分際で、私を見るな。その顔で笑うな。笑うな。

 全ての理不尽を受け止めてくれるような顔で、私に微笑みかけないでくれ……。


「私まで……お前を認めそうになるじゃないか……なんで……」



「……僕は君を認めていますよ、アダム」


 顔をタオルから上げると、ポラリスが右隣に座ってこちらを見ている。白い髪が朝日に反射し、光って見えた。


「誰よりも努力家で、誰よりも生みの親の神々を想っている。基本にいつも忠実。後輩の事をよく理解していて、仲も良い。僕なんかより、ずっと優秀な【天使】だ。君に上司と認めてもらえるよう、司祭として頑張ってきたけど、君が司祭でもきっと上手くできると思う。そう思って君が【中級天使】になれるよう、【ルシ】へ直接推薦したんだ。結果的に、君は副司祭になってしまったけど……彼も、君を評価していたからこそ昇級できたんだ」


「………………」


「アダム、君は皮肉屋で怖がりで、言葉遣いもすごく汚いけれど……僕は同じ協会の【天使】として、同期の君を誇りに思う」


 奴は視線を正面の空に移す。少し泣きそうで、残念そうな表情をしながら。


「僕ら……十年前に知り合えてたら、友達になれてたかなぁ」


「……知らねえよ、くそポラリス」



 ――その日初めて、敬語以外でお互いの本心を語った。


 

 ――そのせいで着替えに遅れ、初めて遅刻をしてしまったが。ポラリスは面倒くさかったのか、修行着のまま一日勤務しやがった。

 そういうところだぞ、お前。



誰にも認められないと嘆いていたアダムは、自分が一番嫌っていた相手から認められてしまいます。

口は悪くも面倒見がいい彼は、なんだかんだと神々が望む【完璧な天使】にはなかなかなれない気がしますねw

第二章はこれにて終了。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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