表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

ケース②:山本灯の場合


「い、一体何が起こった」

「雌が飛び込んできたのは分かったが、何も分からないまま。墜落させられた」

「それだけのことだった」

「しかし、今ので分かった。ここには強い雌達がいる」

「期待できそうだな」



宇宙船は非常に頑丈というより特殊であると見るべきだ。

墜落に風穴まで空けられたら、爆発は容易に想定できただろう。



「いやー、派手に落ちてきたねぇ」



ほぼ、ここに墜落させるとさせていて。人間と呼べる者達は居なかった。

周囲にいるのは確かに雌であるが、どいつもこいつも"超人"。侵略してきた者達が望んでいる、優良な雌。

その1人と言えよう、細い目の金髪ながら道着のお姉さんが彼等の前に、たった一人で現れた。



「鯉川はしっかり1人消したね」


彼女の名は山本灯。

鯉川と同じく超人。"拳女王パンチクイーン"の異名をとる。


「……強いな。雌」


灯と出会った瞬間。ただ1人の雄が前に出た。それは彼がこの中で一番強いという、信憑性のある動き。そして、



「すぐに分かる。お前がこの星で一番強い雌と見た。俺の雌に相応しい」



その言葉はど汚いながら、灯に敬意を評している。

だが、


「あいにくね。あたしの雄は決まってんの。あんた等なんかより、"最強"に至る男があたしの認める男。あたしを倒せてからほざきなさい」



言葉は詳しく伝わるのが不思議なくらいだが、生物のやり取りは感情、気持ちで分かり合えるものだ。


「ああ、それと」


灯は拳を握った。何かをしてくると、5人は感じたが避けようがないという予感。直接的な事ではない。間接的に




ドゴオオオオォォォォッッ



「うぉ!?」

「ふぁ!?」



全員が顔を防ぎ、体を丸める。宇宙船が墜落した時と比べるにしては、あまりにも"小さい"事だと分かるほどの粉塵と衝撃。地面を揺らすというとんでもない現象を引き起こしたのは、地面を殴りつけた灯の拳。

純粋かつ単純なる強さ。

拳の力と技術を高めただけの超人。それが"拳女王"。



「仲間がいるから、分け与えなきゃね」


それは子供に人数分の食事を与えるような響きだった。

灯の拳は確実な手加減をされており、標的と決めた者以外をまず、自身の戦闘範囲からふっ飛ばす。



トンッ


打撃音の静かさは、対象者を保護しているとも言える優しい拳。

この粉塵の目暗ましの中で柔らかくて強い灯の拳は、正確に他所にいる仲間の下へ、敵達を吹っ飛ばしていく。数百どころではない。数キロにも及ぶ、飛行体験だった。

殴られたという運ばれていくという感覚。

一方でただ1人にだけは、



バギイイィィィッ



本気で殺しにきた。

殴ったのはおそらく、飛行体に使われている未知の物質であろう。


「盾?面白いわね」

「っぅ……」


雄も戦闘体勢をとる。

巻き上げた粉塵が収まって、正確に敵を見る灯。

盾と剣という、宇宙人らしからぬ。正統派騎士のような風体。


「だけど、その盾。ヒビができてるわ」


二撃は持たぬ。分かっている。

そして、この雌と対峙するだけで高揚していく自分についてもだ。



「おおおおぉぉっ」



作戦はシンプルだ。

相手に突っ込んで、盾で相手の攻撃を捌き、この剣で刺す。雄だ、雌だと、喚く者だ。レーザー光線やらなんやらなんて、合理的な戦い方よりこー野蛮の方が


「好きよ」



バリイイィィッッ



灯の拳は確実に、相手の盾を打ち砕いた。しかし、相手はそれを承知の上でやっていた。伸び切った灯の拳を確認し、この剣で灯の腕をとる。圧倒的な戦闘力の差を埋める、起死回生の手。

灯は自ら相手に機会を渡していた。その最中で彼は、灯だけを見ていた。

ぎゅ~~っと、ゆっくり。打ち終わった右拳が再び、拳を作り上げようとするところを。こちらは相手の腕を斬り落とすだけだと言うのに、どうしてこうにも、差がゆっくりと確実に見えるのだろう。

剣を振り下ろすその時にはもう、灯は正拳を放てる姿勢を作り出していた。



ドゴオオオォォォッ



「ただ殴るだけ、ただ壊すだけじゃない。いかに迅く殴れるかもポイント」


殴られる相手は、意識が遠のく。無論、それは死の淵だというのも分かっていた。



「本気は出した。あたしの"終わった拳"でやられたなら、本望でしょ」



灯の気遣いに、彼は幸せに死ぬことができた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ