金銀の幸運 3
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「あ~それとだな、オーラン。お前、ギルドに納めるお金の計算はどうしてんだよ。」
グラントはオーランを睨みながら聞いた。
「い、今までは何となくこれ位かな、って感じの額を納めてました。」
オーランが脅えながら上目遣いにグラントを見ながら答えた。
「あ~、やっぱりそうかぁ。」
グラントは一人納得しつつも、頭を抱えた。
「おい、ちょっと待て。それって納税額が間違ってるってことじゃねえかよ。」
オーランの話に納得したものの、グラントの顔がさっと引き攣った。
エルヴァトラ王国内で商いを営む者は必ず商業ギルドに所属し、自分の商売で得た利益の一部を毎年一回、商業ギルドに納付金として納めねばならない。各人の納める額は、その者の利益の多寡による。商業ギルドはギルド構成員から集めた納付金とギルドが行っている事業の売り上げからギルド運営にかかる費用を差し引いた利益の一部を税として王宮に納める決まりになっている。領地を持つ貴族や他の職業ギルドも同じような税制があるが、ここでは説明を割愛する。
「おい、エリナ。」
「今年の分でしたらまだ王宮に納税していないので、修正するだけで問題ありません。」
名前を呼んだだけでその先の答えが返って来る。実に優秀なサブマスターである。
「そうか。」
グラントは少しほっとした表情になった。
「ですが、マスター。過去の分については・・・。」
「あ~どっちが得したか損したかも分からねえな。」
「いえ、損得の話だけでは済まないかと。」
「ん、どういうことだ、エリナ?」
「オーランさんのようにざっくり、と申しますか・・・大体これ位だろうという概算で申告している方が他にもいらっしゃると思いまして。」
「あ~こりゃあ、ギルドを挙げて一回帳簿の点検しないとならないってことか。」
状況を理解したグラントは頭皮を揉むように頭を掻いた。
「取り急ぎ、明日の朝一番に他の都市の商業ギルドに連絡後、王都のギルド員にも通達を出す。王都ですらこれだ。郊外はもっといい加減と言うか、酷いかもしれない。王都の商業ギルドとしては、王都のギルド員の店を一軒一軒、申告した順に回って確認していくしかないだろうなぁ。エリナ、帳簿関連の仕事が任せられるギルド職員それに全部回して大丈夫か?」
「出納関連の職員を全てその業務に回せば足りると思いますが、そんなことしたら通常のギルド業務が滞りますよ。」
グラントの指示に対してエリナが冷静に答えた。
「そうだよなぁ~やっぱ求人を出さないとだめかぁ。」
そう言いながらグラントは溜息をついた。
「そうですね。私個人としては、これを機に納税関連の部署を作った方がいいと思います。」
「そうだな。思い切って専任を育てるか。」
「その方が将来的にはよろしいかと。職業学校にも求人を出しますか?」
「ああ、その方がいいかもな。エリナ、この件は後で詰める。」
「かしこまりました。」
エリナは別の紙に何やら書きつけると席を立ち、契約内容の書かれている紙と離して置いた。
「とりあえず、今はオーランの話だ。」
「そうですね。オーランさんの件につきましては、オーランさんが手元にどれだけ資料を残して下さっているかによります。」
「そうか。おい、オーラン。契約が終わってからでいいからお前の手元に残ってる伝票、ひとつ残らず全部ギルドに持って来い。今回は大サービスでギルドの職員が手伝ってやる。」
「それって、き、今日ですか?」
「明日だとお前さんの商売にも差し障るだろう?」
「ええ、まぁそうっすけど・・・。」
「エリナ、契約はあとどれ位で終わりそうだ?」
グラントは契約書をまとめているエリナに声を掛けた。
「契約書自体は書き終わりました。お二人に契約書の内容を確認して頂いてから署名、契約用魔法陣にお二人の魔力を流せば終わります。」
「そうか。それならオーラン、契約が終わり次第ひとっ走りだ。今日中にギルド迄持って来い。」
「は、はいっ。分かりましたっ。」
オーランは首を何度も縦に振った。
「マスター、オーランさんの店の帳簿もこちらで管理した方がよろしいですか?」
「エリナ。それじゃあ、いつまでたってもオーランが帳簿のつけ方を覚えないだろう。誰か帳簿のつけ方を教えられる奴もギルドから回してやれ。」
グラントはオーランに再教育を施すつもりらしい。
「ねえグラント、この契約に関係する部分は独立した帳簿として商業ギルドで管理してもらえないかな。それ以外の商いに関してはオーランが自分で帳簿をつければいいだけだし。」
今までの話をじっと聞いていたエルデがグラントに声を掛けた。
「そうですね。この契約ではギルドが人員の派遣などで関与致しますから、契約に関する出納はオーランさんのお店の帳簿とは別にした方がいいですね。契約で商業ギルドが出納を管理すると明記しては如何ですか?」
エリナがエルデの意を汲み、お互いに合意できそうな条件を提案した。
「それでいいんじゃないかな。魔法屋もこの件に関する帳簿の管理は面倒だし、人手も足らないからギルドで管理してもらった方が正直助かる。オーランはいい機会だから、帳簿のつけ方を覚えるといい。自分の商売のためにもなるはずだよ。」
「やってもらえる分があるのは俺も有難いっす。それでお願いします。」
オーランもゆっくり頷いた。
「分かりました。契約書に文言を付け足しますね。」
6.商業ギルドは上の1.から5.を実現するために不足する人的資源を補完する。また、このための費用は魔法屋が負担する。なお、商業ギルドが本契約に関する出納を管理する。
「こちらでよろしいでしょうか。」
エリナは書き足した部分をエルデとグラントに見せた。
「ああ、いいんじゃないかな。」
「あーよく分かんないけど、それでいいっす。」
「おいオーラン。よく分かんねえまま、その場の流れで契約するな。契約は契約書を隅々までしっかり読んで、その内容を完全に理解してから結ぶもんだ。エルデは真っ当な奴だが、残念ながら商人の中にはそうでない者もいるんだ。」
グラントが商業ギルドのマスターとしてオーランに説教した。
「そうですね。実際、結ばれてしまった契約に関しては、商業ギルドが介入しても解消できない場合もあるんですよ。例えそれが命に係わる内容であってもです。」
「い、命っ!?」
「あんまり言いたくはねぇが、実際そう言う胸糞悪い契約もあるってことだ。オーラン、死にたくなかったら覚えとけ。」
「はいぃぃぃ。」
オーランはグラントの話にすっかり脅えてしまった。
「さて、警告がてら脅かすのはこれ位にしましょうか。」
エリナは微笑むと、一枚の紙をエルデとオーランの間に置いた。
「エルデさん、オーランさん。こちらが契約書となります。今回の契約内容についてご確認下さい。」
「お先に失礼して、私から確認させてもらおう。」
エルデは紙を取ると一瞥して内容を確認した。
「私、いや魔法屋としては問題無い。オーランも確認するといい。」
エルデは今しがた読み終えた紙をオーランの前に置いた。
「え、俺っ?」
「そうだよ。君は『オーランの店』の店主だろう?」
「まあ、そうっすけど・・・。」
オーランは契約内容の書かれた手元の紙を持ったまま当惑している。
「オーランさん、私がこの契約書に書かれた文言を読み上げます。どんなに些細なことでも構いません。オーランさんの分からない所は、その都度私が説明します。オーランさんが理解できるまで何でも、何度でも質問して下さい。」
「え?いいんすか?」
「ええ。今回は商業ギルドも絡む契約です。エルデさんとオーランさんが契約内容に合意することも重要ですが、その内容が我々商業ギルドから見て妥当な内容であるか。商業ギルドは、マスターのグラントと私で契約内容を精査致します。」
「おう、俺はエリナに任せたぜ。」
「ねえグラント、ちゃんと契約書は読んだんだよね?」
相変わらず仕事をエリナに丸投げしようとするグラントにエルデが突っ込んだ。
「基本お前らよりもギルドの職員か、ギルドが依頼した人間が動く契約なんだ。ギルド幹部として読まない訳ないだろう。」
とグラントが大きな声で答えたので、一応グラントも契約書の内容は確認したらしい。
「マスター。オーランさんの邪魔になるのでお静かにお願いします。」
「だってさ。グラント、俺と一緒にゆっくりお茶でも飲もうか。」
エルデが微笑んでグラントに言った。
「エルデさんとお茶を飲まないのでしたら、マスターは執務室でお待ち頂いても構いませんよ。」
エリナは右手で出口の扉を指し示し、グラントにさっさと執務室へ戻って仕事しろと目で訴えながら微笑んだ。
「ええっ、それは嫌だっ!俺もエルデと一緒に大人しくお茶を飲むっ。」
慌てたグラントが畏まってお茶を飲み始めたのを見て、エルデが静かに笑った。
次回に続きます。早いもので次回が年内最後の投稿になります。本エピソードが終わるかどうかは現在執筆中のため、未定です。少しストックが溜まったと思ったらもうストックが・・・おかしいなぁ。
今回も最後までありがとうございました。




