師弟 7
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「じゃが眩しく光ったんじゃろう?」
「ええ、一瞬ですが。」
「実際に魔法を使ってみないと分からんかもしれんな。」
「魔法を使わせる際に心得ておきます。」
「それで、魔力放出の方はどうだったんじゃ?」
「そちらの魔道具も同じく砂になりました。」
「こら、何度も言っとるじゃろうが。途中を省くな、途中を。その場にいなかった儂にも分かるように、と言うておるじゃろう。」
ベントレイがエルデに更なる説明を求めた。
「ええとですね。サーラが魔力放出感知用の魔道具を持っただけの時は、何も反応しなかったんです。」
「ほう、これはまた珍しいの。」
通常魔力を持っている者は魔力の制御方法を身に着けていなければ、自然に魔力を放出していることが多い。珍しいこともあるもんだ、とベントレイは思った。
「それで、魔道具を温めるようにイメージするようサーラに言ったんです。」
「ほう、それで『温めるように』言ったらどうなったんじゃ?」
「最初は淡く光ったと思ったら、また急に眩しく輝いて表面から徐々に砂になっていきました。」
「魔力放出感知の魔道具の方も眩しく輝いたんじゃな。」
「はい。」
「と、いうことはだ。魔力検知と魔力放出感知の魔道具が両方共、白く眩しく輝いて砂になったということか。」
「はい。」
ベントレイは腕を組み、目を閉じてしばし考え込んだ。暫くするとベントレイはエルデに向かって話しだした。
「そうじゃのう。儂が思うに、まずはサーラの持つ魔力量が膨大すぎるんじゃろう。それから、その魔力を今まで無意識に使っておったか、全く使ったことがなかったかのどちらかのような気がするのう。」
「魔法屋を増築した時に、ロイが一つ運ぶのがやっとという位の重さの石をサーラが同時に何個も軽々と持っていたことがあったんです。先生はこの時サーラが魔法を使っていたと思いますか?」
「それはまた不思議じゃな。サーラの周りの魔力の流れが見えればはっきり分かると思うんじゃが、実際にそれを見てないから儂は何とも言えんな。」
「魔力の流れですか!それは私も思いつきませんでした。今度サーラが魔法を使う時に注意して見るようにします。」
まぁ魔力の流れが見えなかったら見えるようにする魔道具を作ればいいか、と思ったエルデであった。
「先生、色々とご助言ありがとうございました。」
「いやいや、折角ここまで足を運んでくれたんじゃ。少しはお主の役に立てたようで良かったよ。それにしても、サーラは先が楽しみじゃな。」
「はい。だから逸材だと。」
エルデは笑顔で頷いた。偶然とはいえ、己の見出した人物が師にも認められたのだ。これで大手を振ってサーラに魔法を教えても大丈夫だろう。
「さて。儂らの話はあらかた終わったから、そろそろ防音結界を取るとするかの。」
「はい、先生。」
エルデが防音結界を取ると、一気にハンナとサーラの話し声が聞こえてきた。二人共和やかにお茶を飲みながら話をしている。もちろん、サーラは出された茶菓子をつまみながらである。
「ハンナ。儂らの話は大体終わったが、女性陣はどうじゃ?」
「ええ。今は世間話をしていますから、いつでも終わりにできますよ。」
ベントレイの問いにハンナが笑顔で答えた。
「それでしたら、私達はこれで失礼致します。サーラ、魔法屋に帰ろうか。」
「お主も自分の用事がが終わった途端、すぐに帰りたがるのは相変わらずじゃな。」
さっさとサーラを連れて帰りたがるエルデの態度にベントレイがぼやいた。
「先生とハンナが歓迎して下さるお気持ちは有難いのですが、如何せん店まで遠いですから。」
「そうね。二人共歩いてここまで来たんでしょう?サーラも一緒だから早めにここを出たほうがいいわね。二人共、暗くなる前に魔法屋に着いたほうがいいでしょう?サーラ、レシピは持ったわね。」
「は、はいっ。ありがとうございます。」
サーラは四つに折った紙を大事そうにワンピースのポケットに入れた。
「はい、これ。作る時の参考になればいいのだけど。残り物でごめんなさいね。」
ハンナは先程出した焼き菓子の残りを大きな紙袋に入れ、サーラに持たせてくれた。
「ハンナ、こんなに沢山頂いてしまっていいのですか?」
エルデはハンナが持たせてくれた菓子の量に驚き、ハンナに確認した。
「ええ。久しぶりに作ったら楽しくなっちゃってね。色々作っちゃったのよ。しばらくうちも孫達も来る予定がないし、私達二人じゃこんなに沢山食べ切れないのよ。お店の皆さんで食べて貰えれば嬉しいわ。」
「「ありがとうございます。」」
エルデとサーラはお礼を言い、頭を下げた。
「それじゃあサーラ、帰ろうか。」
「はいっ。」
「今度こそ、本当に失礼致します。」
「ああ、お前さん達にまた会えるのを楽しみにしとるよ。」
こうして二人はベントレイ宅を辞した。宿舎の入り口を出るとすぐに、エルデがサーラに声を掛けた。
「サーラ。結界を張るから、行きと同じようにローブの袖の辺りを持ってて。お菓子は俺が持つよ。」
「は、はいっ・・・。」
エルデはサーラから紙袋を受け取ると、防音と認識阻害の結界を張った。サーラがエルデのローブの袖を持っているのを確認すると、エルデはゆっくりと歩き出した。サーラもエルデのローブを袖をそっと持ちながら一緒に歩いて行く。
「サーラ、さっき頂いたお菓子って焼き菓子だった?」
「はい。あの・・・ハンナさんが作ったって、言ってました。」
「ハンナのお手製か・・・それは懐かしいな。」
「なつか・・・しい?」
サーラがエルデの顔を不思議そうに見た。
「そう、俺には『懐かしい』と感じる物だね。俺がロイと一緒にベントレイ先生に魔法を教わっていたのは六歳から十二歳になるまでだから、十年以上前の話になるね。」
「ろくさい・・・。」
サーラはエルデやロイが六歳の頃を想像してみたようだが、どうやらできなかったようだ。
「今はこんなにでかくなってしまったが、俺やロイだって、生まれた時は赤ん坊だったんだ。こ~んな子供だった頃もちゃんとあるんだぞ。」
と言って、エルデはサーラがローブの袖を持っていない方の手で自分の腰の下辺りに手をやった。恐らく当時はこの位の身長だったと言いたいのであろう。
「サーラは子供の頃のことも覚えてないかな?」
エルデは自分の昔話のついでに、サーラの記憶について聞いてみた。サーラはエルデに言われ、自分の子供の頃のことを思い出してみて―――何かツキっと感じたような気がしたが、頭の中は白く曇っているというか濁っているようだった。
「あの、何かツキっとしたのですが、あたまの中は白い・・・かんじです。」
「そうか。その『ツキっとした』物でどこか痛むのか?」
「いたい、のではないのですが・・・。」
「とりあえず思い出せないといった感じかな。」
「はい。」
「まあ、無理に思い出さなくてもいいさ。俺もまた何か思い付いた時、今みたいにサーラに聞くことにするから、それは覚えておいて。」
「は、はい。」
サーラは首をコクコクとして頷いた。
「話がずれてしまったね。子供の頃ベントレイ先生に魔法を習っていた時に、『ご褒美』と言ってハンナの作ったお菓子を時々持って来てくれてたんだ。」
「あの、ロイさんも一緒に魔法を習っていたんですか?」
「ああ、そうだよ。俺の母親とロイの母親は仲がいいからね。ロイも時々ご褒美を貰っていたから、ロイも今日のお土産を喜ぶんじゃないかなぁ。」
「そうだったんですね。いいなぁ、ごほうび・・・。」
サーラはご褒美にお菓子が貰えると聞いてうっとりした。
「サーラもご褒美欲しいの?」
「え、もらえるんですか?」
「えっと、ま、まぁ・・・俺がサーラに魔法を教えるんだから・・・ちょっと考えとく。」
エルデは藪蛇だったかと焦ったが、多少なりともサーラにご褒美は用意した方がいいかと思い直し、ご褒美の菓子を何にするかを考え始めた。
「あ、あの、エルデさん。」
「サーラ、どうしたの?」
「どのお菓子かわからないですが、れしぴ、ハンナさんにもらいました。」
「そうか!それは有難いな。ロイかミリルと一緒にサーラも作ってみるといい。材料が足らなかったらロイかミリルに手配してもらうといいよ。まあ、そのうちその辺りの仕事もサーラに覚えてもらうことになるけど。」
「は、はい・・・がんばります。」
「まあ、サーラはここに来たばかりだから、焦らずゆっくり慣れていけば大丈夫だよ。頑張り過ぎは良くないよ。」
「がんばりすぎ?」
「ん~どうやって説明したらいいかなぁ。とりあえず、お店の皆に良く思われようとして無理はしないこと。」
「むり、ですか?」
「ああ。ファルドの森にいたら危ないのは確かだったけれど、サーラに魔法屋に居て貰うことにしたのは俺の我儘だから。」
「わがまま・・・ですか?」
「ああ。俺の都合、とでも言えばいいかな。」
「は、はあ・・・。」
「とりあえずサーラはここの生活に慣れることを優先して、できることを少しずつ増やしていけばいいとよ。その一環で魔法も俺が教えるから。」
「はい。」
その後二人は特に話すこともなく、魔法屋に着くまで無言でゆっくり歩き続けた。魔法屋に着くまで結界はそのままなので、サーラはエルデのローブの袖を持ったままである。エルデは割と他人と距離を置きがちな自分自身が、サーラと二人でこの距離を保っていても不快に思わないのを意外に思った。
やっとこの話が終えることができました。終わらない詐欺は心苦しかったのですが、意外と難産でストックが貯まらずといった状況でした。ベン爺の聞き取りが細かかったんだよね!ということで、エピソードの枝番7は今までで最長になります。
個人的にはサーラがエルデのローブの袖を掴んでいる所が萌えポイントです。
次回はエルデとサーラが帰った後のベントレイ達の話です。お楽しみに!
今回も最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。




