師弟 6
今回も終わらない詐欺になってしまいました。すみません。
「サーラを保護した時に今月の王都の魔力検査は終わっていたので、私も来月まで待とうと思ったのですが。」
「ふむ。」
「兄上にサーラの件を報告した所、魔力について尋ねられてしまったので、魔力検査をする羽目になりました。」
「サーラの年齢を聞いたら、アークだって立場上魔力について聞かざるを得ないじゃろ。それに魔力検査は王都じゃなくてもできる。今月はまだ数か所残っておったはずじゃ。」
「ええ。でもそこは王都から遠いですよね。ほぼ身一つで保護したサーラを連れて、そんな遠くの魔力検査の会場まで行く余裕が、どこにあるというのです。」
良くも悪くもエルデの幼少期を知っているベントレイだ。そんな師に愚痴の一つくらい零しても罰は当たらないだろう。
「それは―――大変じゃったの。結局、魔力検査はどうしたんじゃ?」
「自分で魔力検査用の魔道具を作りました。」
「ほう、それはそれは。ある意味お主の新作じゃな。どんな物か儂も見てみたいなぁ。」
ベントレイがまだ見ぬエルデが作った魔道具を想像してにっこりした。
「先生。残念ながらその魔道具をお見せすることはできません。」
「何でじゃ?!」
「実は・・・サーラに魔力検査をした途端というか、サーラが魔力を通したら魔道具が砂になりました。」
「は?砂になったじゃと?」
「はい。」
「お前さん、魔力検査用の魔道具は何を材料にしたんじゃ?」
「私の掌に乗る位の大きさの普通の水晶玉です。久々に魔道具を作ったので、水晶の内包物は取り除きました。」
「そうか。お主にしては気合を入れたの。」
「ええ。ただの魔力検査用の魔道具を作ってもつまらないと思って、他の要素も取り入れてみたんですがねぇ・・・。」
エルデは自作の魔道具が砂になって行った光景を思い出して苦笑した。
「せっかく作ってみたのに砂になってしまった、と。」
「はい。ですが、魔道具を作った時の記録は残してありますし、サーラが魔力を通して砂になった魔道具の残骸は保管してあります。」
「そうかっ、それはでかした。その・・・儂にもその『砂』の一部を譲り受けることはできるかの?」
「少量なら問題ありませんよ。私も自分で調べてみるつもりですが、研究所の誰かにも調べてもらおうと思っていた所です。少しサーラ絡みでバタバタしておりますので、すぐに試料をお渡しできなくてもよろしいですか?」
「ああ、勿論じゃ。それから、お主が誰にその砂を調べてもらうか後で聞いてもいいか?」
「ええ。今は先生とアプローチ方法の違う方にお願いしようと思っていますが、先方の都合もあるでしょうから、誰に依頼するか決まってから先生に連絡させて下さい。」
「そうじゃな。お主が誰に頼むか楽しみにしとくわ。」
「分かりました。先生、ホント勘弁して下さいよ。」
エルデは師のプレッシャーを遣り過ごそうと額の隅を軽く掻いた。とうに己の手から離れた弟子にも呼吸をするように追撃を掛けるベントレイは健在であった。
「それから、試料は研究所の先生宛に送ればよろしいでしょうか。」
「そうじゃな。魔力を封じておいてくれると助かるんじゃが。」
「封じた魔力を戻す方法の説明は必要ですか。」
「ん~儂とお主だとやり方が違うかもしれんから、念の為に試料と一緒に送ってもらおうかの。」
「試料を送る準備ができましたら、先触れを致しますね。」
「そうして貰おうかの。先触れは宿舎でも研究所でも構わん。」
「分かりました。」
ベントレイも思わぬ所から珍しい試料を譲ってもらう機会ができて、一気に機嫌が良くなった。自慢の髭を左手でゆっくり上下に撫でていた。
「そういえば、先生。宿舎には素材を持ち込んではいけないんでしたっけ。」
「ああ。種類によっては危険な物もあるからの。手元に試料があったら急に何か思いついたと言って、宿舎で有り合わせの道具で無理矢理実験をおっ始めてしまいかねない奴もいるからな。大体、そう言う時に限って、大抵何かやらかすんじゃよ。全く、他の者の迷惑にしかならんわ。」
「そうですねぇ。夜中にありそうですね。」
ベントレイが珍しくぼやいたがエルデも同僚達の生態を良く知っているだけに、禁止されていなければ十分起こり得る事態だということは用意に想像できた。
「まあ、宿舎は生活と思索をする場所であって実験はするな、ということじゃ。」
「ここは研究所に十分近いですからね。実験をやろうと思い立っても十分駆けつけられる距離ですものね。それに、休息は大事です。」
「そうなんじゃがな。それができない奴がどれだけおることか。」
「・・・そうでしたね。」
エルデとベントレイは連日研究所に泊まり込んでいる同僚達を思い出し、溜息をついた。各々が頭の中で思い描いた人物が誰であるかは敢えてここでは言わないが、その中に同じ人物がいたことだけは述べておく。
「まあよい。お主と話すのは久しぶりじゃから、何かと話が脱線しがちじゃ。魔力検査の話じゃったな。」
「はい。」
「それで、サーラの魔力検査はどうだったんじゃ。」
「先生。魔力検査用の魔道具が砂になった時点で察して下さいよ。」
「お主の話を察するなんて、儂には無理じゃ。お主に関しては、儂の想像を遥かに超えることが起こり過ぎとるから全く信用できん。お主に直接話を聞けるときにできるだけ詳しく聞いておかんと、儂が困る。」
「あの~先生?」
「もう一度言わんと分からんのか?お主からちゃんと、事細かく話を聞いておかんと儂が困るんじゃ!」
「現在の私に関することで、先生がお困りになることってありましたか?」
エルデはベントレイの発言に戸惑い、眉間に皺を寄せた。
「そもそも、お主は研究所へは用の無い限り寄り付かんじゃろう。」
「ええ、王都の端から研究所まではそれなりに遠いですからね。」
「そんな建前は置いといて、じゃ。」
ベントレイは溜息を一つ吐いた。
「お主に何か聞きたいことがあった時、お主に会えない代わりにお主に所縁のある人物に何か知っている事があるか、と突撃されとることは知っておるかの?」
「兄やロイからは特に聞いていませんですが。それにしても先生、突撃とは随分物騒ですね。」
「勿論、物理的な意味じゃないから安心せい。アークやロイは、そういう火の粉はちゃんと振り払えるからの。平たく言うと門前払い、とも言うが。」
「まあ兄上は、仕事柄仕方ないでしょう。兄上に関して門前払いしているのはベルクだと思いますが、ロイはどうなんでしょうねぇ・・・最悪しつこかったら視線と威圧で黙らせてるような気がします。」
「儂も実際に見たことは無いが、多分そうじゃろうな。で、彼奴らの所をすげなく追い払われた奴らが、諦めきれんと言って最後の砦が如く、儂に突撃してくるんじゃよ。」
「先生も門前払いされれば解決するのでは?」
「問答無用にそうできればとっくにやっとるわ!」
ベントレイはその時の様子を思い出して声を荒げた。
「あの~、そんなに酷いんですか?」
「ああ。酷い奴らだと儂の弟子達を焚き付けて寄越してくる。最初は旧交を温めておいて程良い頃に探りを入れて来る奴が殆どじゃがの。」
「先生。かつての弟子とはいえ、そのようなことをする輩にはもう会わなくてもよろしいのでは?」
「まあなぁ。儂も弟子達の繋がりを利用しておる面があるから、一概に彼らとの関係を切れんのじゃよ。まあ、聞かれたって知らんもんは知らんと答えるだけじゃし、とりあえず一度は直接会って顔を見ておきたいからの。」
「そうでしたか。それは全く知りませんでした。」
「まあ、儂にとっては弟子はいつまでも皆、弟子なんじゃよ。」
ベントレイもエルデの知らない所でそれなりに苦労しているらしい。しかしながら、既に手を離れた己の弟子と細く長く関係を維持しているのもベントレイらしいとエルデは思った。
「まあよい、また話がずれたの。それで魔力検査の魔道具はどんな感じだったんじゃ?」
「魔力の有無を見分ける魔道具を作る時に、魔力の属性を色で判別できるようにしたのですが。」
「ふむ、やはり普通の魔道具ではなかったか。」
「先生。あくまでも、簡易的ですよ。」
「お主にとってはな。それで、どうなったんじゃ?」
「サーラが魔道具を握って魔力を通した瞬間に魔道具が白く眩しく輝いたと思ったら、サーラが触れている所から魔道具が徐々に砂になっていったのです。」
「ほう、白く眩しくか。光の子かの。」
「先生、無属性の場合も白じゃなかったですか?」
「無属性、ねぇ。」
無属性だって最近出てきた話じゃ。研究所の中だって知らん者もおるのに、さらっとこいつは口にする。やれやれ、相変わらず油断も隙も無い奴じゃ。
ベントレイは心の中で己の弟子の有能さを改めて実感した。
次話で一段落します。(本部分予約投稿時で既に書き上がっているので、今度こそ確定です!)
今回も最後までありがとうございました。




