サーラの部屋 1
この話は今回を含めた全三回でお送りします。
「サーラ。君の部屋の壁は白っぽくしようと思ってるんだけど、サーラ自身に希望はある?」
朝食に夢中になっていたサーラは俺にいきなり話しかけられて驚いたようだった。
「えっと、あ、あの・・・どういうこと・・・でしょう?」
「俺は白っぽいのがいいかなと思っているんだけど、白も真っ白以外にも色々な色合いがあるからね。」
「は、はい・・・。」
説明はしてみたものの、サーラにはしっかり俺の意図が伝わっていないようだ。
「口で言っても上手く伝わらないから、実際にサーラに見てもらって決めようか。」
「わかり・・・ました。」
「片付けが終わったら、二人共サーラの部屋に来て。俺は先に準備をしておくよ。」
「「はい。」」
三人は朝食を終え、サーラとロイでテーブルをと食器を片付け始めた。ロイとサーラが片づけている間にエルデはサーラの部屋へ行き、作業の準備をすることにした。家具職人に増築した部屋の扉の注文をしたのは昨日の朝だ。早ければ今日、明日位には届くだろうが、今はまだ朝も早いから配達の者も休んでいる時間だ。届いていないのは仕方ない。
まずは掃除からしよう。扉のない部分にエルデは結界を張った。これで安心して廊下から先を汚すことなく作業できる。高い所から天井、壁、床の順に水魔法と風魔法を使ってサーラの部屋を洗っていった。増築が終わった時点で床の掃き掃除はしたが、魔法を使って洗ってみると汚れた水の中に箒で取り切れなかった細かい木くずや、壁の石材を固定していた粘土の欠片が混ざっていた。次に汚れた水を集めて球状にしたものを風魔法で空中に浮かせ、炎魔法で加熱しながら汚れた水の水分を減らしていく。汚れた水からしっかり水分を減らせたところで窓を開け、残った汚れを一気に強い炎魔法で燃やして灰にした。勿論、部屋の中の木を使った部分が燃えないよう、細心の注意を払いながら魔法を使っている。風魔法で窓から灰を外に吹き飛ばし、最後に窓を開けたまま風魔法で部屋の中を乾かしながら臭いも消せば掃除の終わりだ。
こういった掃除のやり方は、この部屋が完成したばかりで家具類が一切置かれていないからできる力技のようなものである。かつて魔法屋を建てた時、俺はこの魔法を使った掃除を実際にロイの目の前でやって見せたことがあった。
「こうした方が普通に掃除するより楽なんだよね。」
とロイに話したのだが、
「面倒臭がりのエルデ様のお気持ちは十分理解できますが、こんな雑な魔法の使い方をするのはエルデ様位です。」
「雑とはなんだ、雑とは。ロイ、もう少しましな言い方はないのか?」
「そうですねぇ・・・強いて言えば、魔力の無駄遣い?」
とロイに呆れられてしまったのも、今となっては懐かしい話だ。
さて、壁材の色見本でも作るか。
エルデは手の上に土魔法で白い壁材を取り出しながら風魔法で浮かせた。風魔法で壁材を浮かせたまま水魔法で水を少しずつ加えていく。土魔法で壁材を練るように混ぜていく。耳たぶ位程の固さに壁材が練れると一つの塊にまとめ、六つの塊に等分した。エルデは六つの塊を浮かせたまま、一列に並べた。残りの五つの塊には、左から順に赤、青、黄、緑、紫色の鉱物を土魔法で少しだけ混ぜた。これで白に少し赤みがかかった色見本をはじめ、六色の色見本ができた。エルデは一番左の真っ白の塊を更に二つに分け、その片方に透明な壁材を混ぜ込み、さらによく練り混ぜた。これで真っ白でも光沢のある物と無い物の二種類の色見本ができた。残りの五色もそれぞれ光沢のある物と無い物の二種類の色見本を作った。これで合計十二種類の色見本ができたことになる。
エルデは浮かせたまま完成した色見本を一つずつ窓側の壁に塗った。上の列が光沢のある物、下が光沢の無い物で上下同じ色味にしてある。
サーラはどの色を気に入ってくれるだろうか。
エルデは壁に塗った色見本を見てサーラがどんな反応をするか想像すると、温かいものが心の中に染み込んでくるような気がした。
朝食の片付けが終わったロイとサーラの二人もサーラの部屋にやって来た。
「エルデ様、お待たせ致しました。」
「片付け・・・終わりました。」
二人は部屋の入口で軽く一礼すると、エルデの前まで歩いて来た。
「ああ、二人共ありがとう。早速だけど、サーラ。これを見てくれる?」
エルデは先程塗った色見本のある壁際へサーラを呼び、色見本を見るよう促した。
「これ・・・ですか?」
「上下に列になっているけど、二つとも同じ色だ。上の段と下の段の違いは光沢があるかないかというだけだね。サーラはこの部屋の壁に色を塗るとしたらどの色がいい?」
「こうたく?」
「ああ、こちらの上の段が光沢がある方ね。光っているようにも見えるだろう?」
「は、はい。」
「何か気に入った色はあった?」
「え、ええと・・・。」
「エルデ様、少しよろしいでしょうか。」
「何?ロイ。どうかした?」
「その色見本では小さすぎてサーラちゃんが色を決めにくいんじゃないかと思うのですが。」
「そうだったね。サーラはこういう見本なんて見たことないか。」
「はい・・・ないと思います。」
「ロイの言う通り、もう少し色見本を大きくしてみようか。」
エルデは親指大だった色見本の一つを試しに水魔法と土魔法を使い、握り拳大の大きさに広げてみた。
「サーラ、さっきより見やすくなった?」
「小さい方よりは・・・いいと思います。」
「それなら全部この大きさにしてみようか。」
エルデは残りの色見本も魔法を使って全部同じ大きさにした。
「サーラはどの色がいいと思う?」
「え?それは・・・。」
「エルデ様。場所を分けて試しに塗ってみるのはいかがでしょう。サーラちゃんもまだ決めかねているようですし、想像するよりは実際に見てもらった方が決めやすいかと。」
「それもそうだね。入口はなくていいから丁度二色ずつでいいか。」
エルデはそう言うと、入り口を除く部屋の壁三方に二色の光沢有り無しの計四色ずつを塗り分けた。
「とりあえずこんな感じで塗ってみたけど、どうかな。近くに寄って見るのもいいし、遠くから見て色を決めるのもいい。気に入るのがあるといいんだが。」
「サーラちゃんはどれか気に入った?これがいい、というのが見つからないようなら、サーラちゃんが見て気分が落ち着く色とか、良く眠れそうって思う色とかでいいんゃないか?」
「ロイの言ったような選び方でもいいし、サーラが好きな色があれば、それを選んでもいいんだ。別にこの中の色なら正直、俺はどれでも問題ない。」
エルデとロイの二人から助言を受けたサーラは、四色ずつに塗り分けられた壁の前に近付いたり、遠ざかったりしながらゆっくり部屋の中を一周した。しばらくすると、何色かに候補が絞られたようで、サーラは迷っている色の間を行ったり来たりしていた。
「私・・・これがいいです。」
しばらくしてからサーラは一つの色を手で指し示し、そう言った。エルデは軽く目を見開いた。
「そう、サーラはこの色がいいんだね。」
「はい、これで・・・お願いします。」
エルデの変化に気付かないサーラはそう言うと、エルデに向かってぺこりと頭を下げた。
「サーラちゃんが選んだのはこの色ですか。」
ロイがサーラの決めた色を見てにやにやしていた。
「ロイ。サーラが困るから、とりあえず黙ってて。」
「ふふっ、畏まりました。」
ロイは笑いかけたまま口を閉じ、サーラの方を見た。
「それでは、さっさと仕上げてしまおうか。」
エルデはそう言って両手を上に掲げると、使わないことになった色の塗料を壁から土魔法で浮かべた。それから、その中の不要な材料だけ土魔法で分離し、それぞれ材料に使った鉱物に戻した。残りの材料に、サーラが選んだ色と同じ色になるように土魔法で必要な量の鉱物をそこへ混ぜていった。これだけあれば、サーラの部屋の壁を塗るだけなら十分足りるだろう。サーラが選んだ色の塗料も一旦壁から浮かせ、追加で作った材料を風魔法と土魔法でよく練り混ぜた。色が均一になったところで、これを丸くしたものを窓のない壁の中央部に投げつけるように風魔法で飛ばし、そこから均等に広がるように土魔法と水魔法で一気に塗り広げていく。塗り終わったら、柔らかい風魔法で今塗ったばかりの壁を乾かして終わりだ。
ストックが減っているので気分は自転車操業・・・。乱読で自分の中に色々インプットしつつ細々と書き溜めておりますが、もうちょっと余裕を持たせたいです。
今回も最後までありがとうございました。




