それぞれの朝
自分の文才の都合でこのような形になりました(涙)。
二人の男が夜な夜な密談をしていた翌朝は三者三様であった。
【エルデ】
夜な夜なロイの目の前で手紙を書かされたせいか、寝室に戻ってベッドで眠ったのにも関わらず眠りが浅く、いつもより早く目が覚めてしまった。
―――昨夜ロイの目の前で書き上げたベン爺、もといベントレイ先生への手紙を見直さないと。
俺は眠い目をこすりながら水を飲みに台所へ行った。扉を開けると、何やら視界に淡い色と白っぽい物が見える。
「ん?」
俺はサーラと目が合うと、そのままサーラの顔をじっと見つめていた。サーラもキョトンとした顔で俺のことを見ていた。
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【サーラ】
私は台所の窓から入る光の明るさで自然と目が覚めた。簡易ベッドの上で起き上がり、軽く伸びをする。起きたはいいものの、まだ頭はしっかり目覚めていない。
まだ眠いけど、とりあえず、着替えよう。
私は足元の箱から魔法屋の服を取り出すとベッドの上に置き、寝衣を脱ぎ始めた。
ガチャッ。
扉の開く音がしたので、思わずサーラは振り返った。
「え、エルデ・・・さん?」
サーラは脱ぎかけの寝衣を胸元で抱えたまま、エルデの顔をぽーっと見ていた。どうでもいい話だが、夕べから着ていた寝衣は淡い紫色だ。
その後、何やら慌てた声が聞こえたような気がしたけれど―――あれはロイさんかしら?と思っているうちに、台所の扉がパタンと閉まっていた。
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【ロイ】
「エルデ様、おはようございま―――っ、失礼しました。」
台所に入ろうとして、台所に入ってすぐの所で立ち止まっているエルデ様に気付かずぶつかってしまった。俺はすかさず謝罪する。
「エルデ様?」
俺はちっとも動かないエルデ様の後ろからひょいと身体を横にずらして前を見ると、己の目を疑った。
おい。ちょっと、これ、現実だよな・・・もしかして、サーラちゃん着替え中・・・だった?
「ご、ごごゴメンっ!サーラちゃん、わざとじゃないんだっ。ほらエルデ様っ!ぼーっとしてないで、行きますよ!」
我に返った俺はサーラちゃんに謝りながらエルデの首根っこを掴んで後ろに引っ張ると、台所の扉を慌てて閉めた。
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【その後】
慌てて台所から廊下に出てきたエルデとロイの二人。
「んーと、ロイ?いきなりどうしたんだよ。首が締まるじゃないか、全く。」
引っ張られた首元が不快だったのか、首を掻きながらエルデはぽかんとしていた。
「んーと、じゃないです!エルデ様、先程台所に入る前にノックされましたか?」
「うーん・・・多分してないかも?」
あー・・・これは駄目なやつだ。エルデ様、無自覚だな。
ロイは心の中で一人ぼやいた。
「エルデ様、昨夜はあまりよくお休みになれませんでしたか?」
「ああ。眠りが浅かったというか・・・確かに、よく眠れなかったな。」
「つまり、寝ぼけていらしたと。」
「ん~そうなるのか?」
「エルデ様。サーラちゃん、今、着替え中でしたよね?」
「ええっ?」
どうやら、エルデはサーラが着替え中だったのに気付かなかったようだ。
「あの~、エルデ様。こっそり覗くよりは堂々としていらっしゃいましたが、成人男性が未婚の成人女性の着替えを見るのはよろしくないと思います。まあ、俺にはがんぷ・・・ゲフンゲフン。」
ロイは思わず自分の本音がだだ漏れしそうになったのを、慌てて咳払いをして誤魔化した。
サーラちゃん、細くて肩も白かったなぁ・・・薄紫色のあれは寝衣だろうか?サーラちゃんの瞳の色に合わせて・・・だろうか?さすがはジル・スタイルで見繕ってもらっただけのことはある。
「え、着替え・・・?」
エルデはようやく事態を把握したようで、目を見開いて口元に手を当てていた。耳が少し赤くなっている。
「え、ちょっと、ロイってば、今の話本当?」
「ええ、そうですよ。もしかしてお気付きでなかったとおっしゃるのですか?」
「ああ。夕べよく眠れなかったせいかな。」
「エルデ様にしては珍しいですね。」
「夜な夜な渋いお茶を飲みながら手紙を書かされたからだろう。ああ、ボーっとしてないで、もっとしっかり見とけば良かった。」
「エルデ様、後悔するのはそこじゃないでしょう!」
この二人、健康な成人男性のはずではあるが、どこか残念な主従二人である。
「おっと、失礼。声が大き過ぎましたね。エルデ様。とりあえず、すぐに二人一緒にサーラちゃんに謝りましょう。それこそ謝罪しないでうやむやにするのは人として駄目だ思います。やっぱりここは土下座ですかね。」
「そ、それは確かに・・・致し方ないな。とりあえず、サーラの着替えが終わったかを確認してからにしよう。」
「それ位、当たり前ですよ。さ、エルデ様、行きましょう。」
二人は改めて台所の扉をノックした。中からサーラが返事をしてくれる。
「サーラちゃん、入ってもいいかな?」
「ど、どうぞ。」
二人は台所に入ってサーラの前までいくと、素早く土下座をした。エルデとロイの見事な連携プレーである。
「サーラ、申し訳ない!」
「サーラちゃん、申し訳なかった!」
「あの・・・二人共、どうしたんですか?」
いきなり謝罪をされたサーラは、二人が何を謝罪しているのか理解できていないようだ。
「いや、お、俺達っ・・・さっきサーラが着替え中だって知らなくて・・・。」
「へ?きがえ?――――――!」
エルデが口籠りながらながら説明すると、サーラはその時の状況を思い出したようで目を大きく見開き、顔がじわじわと赤くなった。
「あ、あの・・・そ、それはっ・・・。もう言わないで・・・下さい。」
「それは、サーラちゃん、俺達のこと許してもらえると・・・?」
土下座の姿勢のまま上目使いでロイがサーラに問いかけた。
「その話は・・・な、なし、で、おねがい、します。」
赤くなりながらサーラはコクコクと肯いた。
―――赤くなったサーラ(ちゃん)も可愛いな!しかし、俺の中でその話はなかったことになんて、絶対にできないけどな!
などと主従揃って思っていたことはサーラには絶対に感付かれてはならないのである。
「それでは、サーラのお言葉に甘えさせてもらって、この話はもう終わりにしよう。」
こうして約二名の胸中は穏やかではなかったようだが、エルデとロイはサーラに無事謝罪をすることができた。
朝っぱらからひと悶着合った後の食事は、ロイが昨夜自宅から持参した物も合わせてテーブルに並べたのでいつもより品数が多かった。三人は、自然に手分けして準備を終えると席に着いた。
「今日この食事を頂けることに感謝を。」
「「感謝を。」」
エルデが食前の祈りを捧げ、それにロイとサーラが呼応する。
エルデとロイが食事を始めた中、ふう、とサーラが溜息をついてから食事を始めた。
「サーラ、朝から疲れさせてしまったかな。」
「あ、あの・・・だ、大丈夫です。」
サーラは戸惑いながらパンをもそもそと口へ運んでいた。
「朝食を済ませたら、早々にサーラの部屋の内装を仕上げて、ここの荷物を移動させよう。そうすればサーラも安心するんじゃないか?」
「そうですね。台所も広くなるから使いやすくなりますね。俺も手伝います。」
「ロイは『お手伝い』じゃなくて、俺と一緒に作業するんだけど?サーラへのお詫びも兼ねてね。」
「お、お詫びですか・・・。でも、サーラちゃんが部屋に入るたびに、このことを思い出したらどうするんですか?俺もサーラちゃんの部屋の前を通る度に気まずくなりそうな感じがします。」
「うーん、それはお互いの今後のためにも良くないな。お詫びという名目はなしにしよう。」
三人の食事の手が止まり、互いの顔を見合わせ気まずい沈黙が漂う。しばらくして―――
「エルデ様、それではサーラちゃんを歓迎するという名目はどうでしょう?」
ロイがふっと思いついたままに言葉を発した。
「あれ?ロイにしては良いこと言うじゃない。」
「エルデ様、少しは褒めて下さいよ・・・。」
「それは・・・また今度な。」
「はぁ~相変わらずエルデ様は辛口ですね。」
「甘かったらそこで慢心してロイの役目が果たせなくなるだろう?」
「ええ、エルデ様のおっしゃることはごもっともですとも。はい。」
食事をしながら繰り広げられるエルデとロイの二人の遣り取りを前に、サーラは目を白黒させながら自分の朝食を口に運んでいたが、今日の朝食は少し賑やかで楽しいなと思ったサーラであった。
次回もこの三人が登場しますが今回ほど酷くないつもりです(滝汗)。
今回も最後までありがとうございました。




