密談再び 3
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早いもので、もうじき拙作も連載開始から3年になります。連載3周年記念回ということで、今回はいつもより少しだけ長めにお送りします。
「ロイ。なぜベン爺に連絡を取った方がいいと思ったんだい?理由を聞かせてくれ。」
エルデ様の目は軽く見開かれていた。エルデ様は全くその点について考えられてはいなかった、ということか。
「それは・・・ベン爺がエルデ様と俺に魔法を教え導いてくれた師であるからですよ。エルデ様もサーラちゃんに魔法を教えるようになれば、ベン爺と同じ立場になるんです。」
「ああ・・・そう言われてみればそうだな。」
エルデ様は自分が教える側に回るという事を失念されておられたようだ。エルデ様は納得された様子で額に手を当て、そのまま自らの頭をさっと撫でられると手を戻された。
「何度も言いますが、俺達は学院に入るまでベン爺に魔法を教わっていました。学校へは行っていませんし、学院に入った時点で学院最初の三年分は飛ばしているんです。そのことをお忘れじゃないですよね。」
「ああ。俺達は学院も本来六年かかる所を三年で卒業したことは忘れてないよ。研究所へは兄上と同じ最年少の十五歳で入ったから、アークの弟が最年少記録を塗り替えて入ったと話題になったらしくて、入所当初はただ単に俺を見に来るだけの野次馬が多かったのを覚えている。」
「それはそれで大変でしたね。」
「まあ、その中から今でも付き合いのある連中にも出会えたから良しとしているよ。」
「それはようございました。話を戻しますが、エルデ様はサーラちゃんは魔法の才能がずば抜けている、と思っていらっしゃるんでしょう。恐らくエルデ様が教えるにあたって、全部教本の順番通りに進める必要はないと思うんですよね。そこで、ベン爺の出番です。」
俺は笑顔でお茶を一口飲んだ。エルデ様のように苦いと感じる人もいるだろうが、俺には渋みがいい感じに口の中をすっきりさせてくれるので好きな味だ。
「ベン爺の出番?」
「ええ。俺達が教わった時も、ベン爺は多分俺達の出来具合に応じて教える内容を省いたり、教える内容を飛ばしたりしていると思うんです。」
「ああっ、そうか!」
やっとエルデ様は俺の意図にお気づきになられたらしい。
「エルデ様、折角ですからベン爺に知恵を借りましょう。誰が何と言おうとも、ベン爺はエルデ様にとっても俺にとっても最初の魔法の『先生』なのです。もしかしたらベン爺の所に、俺達を指導した時の記録が残っているかもしれません。ベン爺の手元に無くても、報告書か何かの体裁で我々の両親が持っている可能性もあります。」
「それをサーラに魔法を教える時の参考にしろというのか。」
「そうですね。手探りで試行錯誤しながらサーラちゃんと向き合うよりは、エルデ様にも指針になる物があった方がやりやすいと思います。何しろエルデ様ご自身の昔の記録ですから、もしかしたら今でもご自身で覚えていらっしゃる出来事もあるかもしれません。」
「ロイの分も見てもいいのかな?」
「ええ、いいですよ。エルデ様がご覧になりたいとおっしゃるのならば、サーラちゃんのために目を瞑りましょう。俺の分の記録も、遠慮なくお使い下さい。」
「ああ。記録が出てきたらそうさせてもらうよ。ロイの黒歴史が見つかるかもねぇ。」
ふふふっ、とエルデ様は上機嫌に笑い出された。
「エルデ様。俺の黒歴史は置いといて・・・ですね、サーラちゃんはシャワーの練習をした時ですら魔力が暴走して全身ずぶ濡れになっているんですよ。他の魔法を練習した時、正直俺も何が起こるか想像がつきません。」
「増築した時に魔法の練習をする部屋には俺が強固な結界を張っておいたが―――万が一、ということもあるか。俺も気をつけておこう。」
「はい、是非そうして下さいませ。何かがあってからでは遅いのです。」
エルデ様の機嫌が良くなられたところに水を差すような形だが、こればかりは俺も仕事だ。ちゃんと言うべきことは言わせてもらう。
「それから今日話し合いをした時、サーラちゃんは魔力の制御がうまくできていない可能性があるということでしたね。」
「ああ。」
「それでしたら、魔力を制御する練習をした方がよろしいかと思います。騎士団でも魔法を併用する者達は鍛錬の一貫で毎日やってますね。」
「ロイはやってるの?」
「はい。身体を動かしながら最低限の魔力制御がちゃんとできるかどうかという確認は、日々の鍛錬の中に組み込んであります。通常は朝の鍛錬のうちに行うことが多いですね。」
「俺の都合で魔法屋に泊まった時はどうしてるの?」
「ここには十分に身体を動かせる場所がありませんから、自宅に帰ってからすることになりますね。有難いことに、ここに連泊するような事態は今の所ございませんから。」
「確かに、ここでロイに連泊してもらったことはないなぁ。ロイが騎士として鍛錬できる広さの部屋ねぇ―――」
エルデ様は腕組みをして何かを思い浮かべていらしたようだ。
「ここは王都の一番外れですから、王都の外に出てしまえば場所はいくらでもありそうですが。」
「ロイ。魔力を使う使わないに関わらず、王都の外で鍛錬をするのは駄目だ。」
エルデ様は何かを考えながらも俺の独り言に素早く反応し、俺を睨んで真顔で言われた。
「エルデ様、俺だってそれ位は分かってますって。」
「あーもう、仕方がないなぁ。」
エルデ様は頭を振ると、溜息をつかれた。
「ロイ、今更だけど一つ聞いていい?」
「ええ、何なりとお聞き下さい。」
「俺の呼び出しでロイがここに泊まりになった時でも、やっぱり鍛錬は朝やりたい?」
「鍛錬はできるだけ朝のうちに済ませておきたいですね。夜は疲れていることが多いので、鍛錬の質が落ちます。」
「それなら、しばらくは新しく作った魔法の練習室をロイの鍛錬に使うといい。余程長い得物でもない限り武器も振れるだろう。魔力制御の確認で強力な攻撃魔法を打ちたいんなら練習室の結界の構成を考えるけど。」
「攻撃魔法は自宅か騎士団に行った時にでも打てばいいので大丈夫ですよ。ここでしたら光魔法辺りを使えばいいでしょう。それよりも、エルデ様こそ魔力制御の確認はされているんですか?」
「朝起きて浄化魔法を掛けるついでにやってるよ。」
「じょ、浄化魔法で―――ですか。俺には思いつかなかったな。」
「朝起きて身支度をするついでに終わるから忘れなくていいぞ。全身の魔力の走り具合も分かるしな。」
「エルデ様。もしかして・・・朝起きて顔を洗わなくて済むから、それやってます?」
「ぶほっ。」
エルデ様がお茶を吹きそうになり、慌てて口元を拭いていらした。そんなに図星だったのか。
「エルデ様。面倒臭がりも大概にして下さいよ。」
「面倒なものは面倒なんだよ。研究所や王城に行くわけでもないし、別にいいじゃないか。」
「魔法屋にお客さんが来るでしょうが。」
「あ~ロイとミリルがいるからね。俺は基本、店番はしなくていいから大丈夫。」
「エルデ様に用のあるお客さんだって来るでしょう?」
「そういうお客さんは、あらかじめ約束してから会うじゃない?人に会う時の俺の服装は変わり映えしないから、とりあえず身綺麗にしておけばいいんだよ。」
確かに、エルデ様はお店では常に濃紺のローブをお召しになっていることが殆どである。ローブの下もきちんとされていると・・・思いたい。書斎で仕事をされている時はローブを脱いでいらっしゃるが、それなりにきちんとした格好はしていらしたはずだ。
「確かにそうかもしれませんけど・・・。これからエルデ様は毎日サーラちゃんと一緒に食事をされるんですよね。」
「そうだね。特に用事が無い限りはそうなるかな。」
「くれぐれも、サーラちゃんの悪いお手本にならないで下さいね。」
「ぐっ、そうきたか・・・確かにサーラに悪い癖がついたらまずいな。お、俺も善処するよ。」
エルデ様は不承不承ながらも約束して下さった。エルデ様はこれでも約束は守って下さる方なので大丈夫だろう。何と言ってもサーラちゃんの目があるからな。
「エルデ様。それから―――教本の件ですが。」
「ああ、早速家に戻った時に見て来てくれたんだ?」
「はい。エルデ様と同じ学院の1・2・8・10の四冊でした。」
「まあ、学院でロイは俺と同じ授業しか取ってなかったんだから、推して知るべしだったか。」
「そう言われてみれば、そうですね。久しぶりに読んでみましたが、今でも参考になりそうな部分はありますね。」
「それなら、ロイも教本をここに持って来る?」
「いえ、私は家でゆっくり読む派ですので。」
「分かった。またロイの気が変わったら言ってよ。」
「はい。ご配慮ありがとうございます。」
さてと。本日最後の仕事に取り掛かりますか。
「ささ、エルデ様。善は急げと申します。ベン爺への手紙を書いてしまいましょう。」
「ええっ、今?」
「そうです。今ここで書き上げてしまえば、明日の朝一番に手紙を出せますよ。」
「別に明日書いたって問題ないだろう?」
「俺の記録も使っていい、と俺からもエルデ様の手紙に一言申し添えたいのですが。」
「ま、まあ、その方が助かる・・・かな?」
「明日の作業は、キリの良い所まで一気にやらないと失敗するから、途中で作業を止められないんです。という訳で、明日は俺の身体が空いていないので無理です。」
「じゃぁ明後日―――。」
「エルデ様。サーラちゃんを保護したのはあなたの意思でしたよね。」
「うん、そうだね。」
「研究所や王宮からサーラちゃんを引き渡せっていう・・・。」
「それは絶対ダメだってば!」
「ならば今すぐ書きましょう。さあ、机はこちらですよ。」
俺はにこやかに微笑み、エルデ様の執務机の方へ右腕を向けた。案内を嫌そうに見たエルデ様は渋々執務机に向かい、手紙を書き始められた。
「エルデ様が手紙を書き終わるまで、俺はここでお茶を飲みながらお待ちしておりますね。お茶でしたら何杯でも俺がお代わりを用意して差し上げますので、遠慮なさらなくても大丈夫ですよ。」
「手紙のはずなのに、反省文を書いているみたいに感じるのは何でかなぁ。」
「それは先生宛の手紙のせいか、エルデ様の日頃の行いのせいか―――ああ、もしかしたら学院の時に俺が散々エルデ様とグラントの尻拭いをした分かもしれません。」
「何だよそれ。」
「俺はあくまでも事実を申し上げただけですが?」
俺は苦笑すると、エルデ様の真正面に位置するソファーに陣取り、苦みの強いお茶をゆっくり味わった。
密談回は今回でひとまず終了です。次回は違う視点でお届けする予定です。
今回も最後までお付き合い下さりありがとうございました。




