二日連続の食事会 5
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「魔力の分類と色については、ロイもサーラも何となく分かったかな?」
「「はい。」」
「それなら、各々魔力の色が見えるかどうかは後日改めて試してみるとしよう。サーラは明日の朝一番に家具職人と打ち合わせがあるから、そろそろ今日の食事会もお開きとしようか。ロイ、サーラに食後のお茶を淹れてあげて。サーラにお茶を淹れたら、俺達は書斎へ移動ね。」
「畏まりました。俺はお茶を淹れるから、サーラちゃんはテーブルの上を片付けてくれるかな。テーブルの片付けが済んだらお風呂に入る準備をしていていいよ。」
「サーラも、お菓子は今食べている物で終わりにしようか。」
「ふぁ、ふゎいっ・・・。」
お菓子を食べていたサーラがもごもごと返事をする中、ロイが席を立ちお茶を淹れる準備を始めた。この香りは気持ちが落ち着く茶葉だな。俺も寝る前によく飲んでいる奴だ。
「サーラ、これもお願い。皿に残っているお茶菓子は、明日の朝に皆で食べるからこのままにしておこう。」
俺はお茶菓子を盛った皿に結界を張り、テーブルの真ん中に置いた。ロイがお茶を持って来てサーラの前に置いてくれる。
「ロイ、ありがとう。今日は俺がお湯を張っておくから、書斎の準備を宜しく。」
「畏まりました。」「サーラ、お茶を飲み終わったらカップは洗い場に下げておいてくれればいいよ。ここでは皿洗いも魔法を使うから、追々覚えていこうね。」
「分かりました。」
「それじゃあ俺はこの辺で書斎に行くよ。おやすみ、サーラ。」
「はい。エルデさん、おやすみなさい。」
俺は上機嫌で台所を出ると浴室へ行き、お湯を張った。今日の作業で棚の中が汚れないように張っていた結界もついでに解いておく。程良く浴室内に湯気が立ったのを確認して書斎に向かった。
「サーラちゃん、今日はちゃんと先に作業場から明日の着替えを取って来るよ。」
そう言ってロイは作業場へ急いで着替えを取りに行った。
「これで明日の朝も大丈夫。それじゃ、サーラちゃん、おやすみ。」
「はい、ロイさんも、おやすみなさい。」
作業場から戻って来たロイは着替えを持っていない方の手でサーラに手を振り、台所を出て行った。
男達二人が出ていくと、サーラはふう、と溜息をついた。
「おふろの支度・・・だったよね。着替えはいいとして、タオルはあったかな?」
サーラは着替えと寝衣を簡易ベッドの上に置くと、手ぶらのまま台所を出て洗面所に綺麗なタオルが残っているか確かめに行った。
「タオルは・・・これだけあれば、エルデさんとロイさんの分も足りるかな?」
サーラは棚に残っている洗い済のタオルを見ると、着替えを取りに戻った。お風呂の入り方も少しずつ慣れてきた。
「今日は外にいたから、髪の毛もしっかり洗おうかな。」
サーラは湯船に身体を沈めながら、ぼーっと今日一日の事を振り返った。
「魔力の結び目って、みんな見えないのかしら?私は魔力の色も見えるかもしれないってエルデさんに言われたけど、どうなんだろう・・・?」
「それから、かぞく、って―――」
色々と思い出そうとしてみたが、頭の中に濃い霧がかかっているようで何も思い出せなかった。思い出せないものは仕方がない、と気を取り直して洗い場で髪を洗い、ひとしきり温まってから風呂を出た。
「今日もエルデさんとロイさんは書斎でお酒を飲むのかな。私は疲れたからもう寝ようっと。」
サーラはベッドの傍まで来ると、鞄の中からもふ様を取り出し、枕元に置いた。
「私の・・・今の家族はもふさま、かな?もふさま、おやすみなさい。」
サーラは顔の横に置いたもふ様を数回撫でると、昼間の作業の疲れからか、サーラはあっという間に眠ってしまった。サーラが眠った後、サーラの身体の周りが少しの間だけ青白く光って消えたが、それを知るのは彼女の枕元にいる黒色の者だけである。
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昨夜同様、書斎の音は漏らさず廊下の音をよく拾う結界を張る。俺はロイと二人で酒を飲みながらサーラが入浴を終えるのを待とうと思ったのだが、ロイが俺の様子を伺いながら俺の顔をチラチラと見ている。こういう時はロイが俺に何か話したいことがある場合がほとんどだ。俺は自分のカップに酒を注ごうとした手を止め、ロイと話をすることにした。
「ロイ。何か俺に話したい事があるんだろう?」
「はい。実は、サーラちゃんの事で聞きたいことがありまして。」
「聞きたい事?」
サーラのことでそんなに不思議なことってあったっけ・・・
「はい。エルデ様。サーラちゃんって俺達と普通に話をしていますが、エルヴァトラ王国の出身ではないと仰られていましたよね。」
「ああ。サーラ自身はエルヴァトラ王国や王都サーティスのことも聞いた事が無いと言っていたから、俺は他国の出身だと考えているよ。」
「エルデ様、俺達・・・普段話してるのエルヴァトラ語ですよね。」
「ああ。それがどうかしたのかい?」
「あの、サーラちゃんも俺達と同じエルヴァトラ語を話してますよね。エルヴァトラ語って他の国でも通じましたっけ?」
「ん~どうだろう。エルヴァトラと交易のある国では多少は通じるんじゃないかなぁ。他国からの移民も全くエルヴァトラ語が話せなくて困ったということはあまり聞かないし。」
「そうですか。他国出身でも、アトラー語ではなくエルヴァトラ語が話せる者がいてもおかしくないという事ですね。」
「ああ、そうだね。」
ん?サーラはアトラー語じゃなくてエルヴァトラ語で話をしていたのか。
アトラー語はエルヴァトラ王国のあるアトラー大陸全土に共通する言語である。元々は同じ民族がアトラー大陸各地へ移住したことから、アトラー大陸全土で通じると言われている。しかしエルヴァトラ王国のように、元々その土地に住んでいた人達が独自の言語―――ここではエルヴァトラ語がそれにあたる―――がある場合は、アトラー語よりもエルヴァトラ語が優先して使われるように、大陸内ではその土地独自の言語が優先して使われることが多いのが実情だ。アトラー語も国によっては訛りが酷く、共通語とはいえ出身地の違う者同士では通じにくい場合もあるらしい。
エルヴァトラ王国内では、王立魔法学校や王立魔法学院、または一部の職業学校でアトラー語を学ぶ機会がある。特に研究所や王宮での仕事を希望する者は仕事柄アトラー語に触れる機会が多いため、アトラー語の読み書きとアトラー語での会話ができることが必須とされている。しかし、エルヴァトラ王国内での日常会話はエルヴァトラ語であることと、単純作業等の仕事ではアトラー語は必要ではないため、一部の職業学校ではエルヴァトラ語の読み書きの習得のみを課している場合もある。
サーラを保護した時、俺はサーラと言葉が通じたことに安心してしまい、サーラが何語を話しているのかを確かめるという事を失念していた。アトラー語ではなくエルヴァトラ語を話せるということは、サーラは名前持ちだから、もしかしたらそれなりに高等教育を受けていたのかもしれない。
「そうか。そう言われてみれば、サーラはエルヴァトラ語を普通に話していたね。」
「そうなんですよ。それから、今日エルデ様が商業ギルドへ向かわれた後、俺達はマシューの店へ昼食を食べに出かけたんです。それぞれ何を食べるか決める時、サーラちゃん、自分で店のメニューの内容が分かったみたいなんですよね。」
「マシューの店のメニューってアトラー語だったっけ?」
「まさか!エルヴァトラ語に決まってるじゃないですか。マシューの店は平民から貴族のお忍びまで客層が広いんですから。」
「そうか、サーラはエルヴァトラ語の文字が読めるかもしれない、ということだね。」
「はい、恐らく。」
ロイがゆっくりと肯いた。確かに、サーラが俺達と会話はできることを把握していたが、文字の読み書きができるかどうかまでは把握してなかったな。
「ロイ、指摘してくれてありがとう。俺もサーラと意思の疎通ができることに安心してしまって、そこまで注意していなかったよ。サーラに魔法を教えるついでに、エルヴァトラ語の読み書きとアトラー語の読み書きができるかどうかも、俺がそれとなく確認しておくよ。」
「はい、宜しくお願いします。」
ロイがほっとした様子で頭を下げた。ロイも今日の昼から疑問に思っていたのだろう。
「この件はエルデ様に全部お任せしてしまっても大丈夫ですか。」
「ああ、恐らく俺が兄上に報告しなければならないことに含まれるからね。仕事の一環としてやっておくよ。」
「お仕事ですか・・・ふふ、エルデ様、それにしては随分楽しそうですねぇ。」
ロイにまたにんまりと笑われたが、無視しておいた。何だ、まぁ、サーラが魔法屋へ来てからまだ四日目だ。そういうことは追々、少しずつ確認していかないとだな。
俺の中のサーラの能力について確認するリストの中に、魔法の能力に次いで言語能力の見極めも追加しておいた。
ロイと話をしていたら酒を飲む間もなく、サーラのパタパタという足音に続いて廊下の扉が開いて閉まる音がした。
「よし、サーラの風呂も済んだな。今日は外で作業したから、俺達も飲む前に風呂に入るか。」
「畏まりました。エルデ様、お先にどうぞ。」
「ありがとう。ロイもゆっくりしていていいよ。」
今日は外仕事だったから朝のシャワーよりも念入りに体を洗った。浴槽の湯に浸かって疲れを癒す。ロイを待たせているから、俺もそろそろ上がろう。書斎で寝衣を着ているのは流石にまずいので、ゆったりとした部屋着を着ることにした。身体を締め付けるものではないので、最悪このまま書斎で眠ってしまっても問題ない。
「ロイ、お待たせ。」
ロイの入浴を待ちながら、俺はようやくソファーで一人、酒をちびりちびりと飲み始めた。魔力はそれほど減った気はしないが、久しぶりに外で作業した昼間の疲れと夕べの寝不足から瞼がだんだん重くなってくる。
「エルデ様、お待たせ致し―――」
ロイが入浴を済ませて書斎に戻って来た。静かに書斎の扉を開けると、エルデはソファーにもたれて眠ってしまっている。ロイは毛布代わりに執務机の横に掛けてあるエルデのローブを取って来ると、ソファーで眠っているエルデにそっと掛けた。
「さすがに今日はお疲れのようですね。エルデ様、お休みなさいませ。」
ロイはカップで水を少し飲むと、テーブルの上のカップと飲み物を部屋の隅へ片付けた。今日はエルデに必要以上に飲まされることもなくゆっくり眠れそうだ、とロイはこれ幸いとエルデが使っていないソファーにクッションを適当に並べると横になり、靴を脱いでさっさと眠ることにした。
節目回や記念回ではありませんが、二つに分けると若干短いので一話にまとめて投稿します。
次は意外な登場人物(?)達の話です。お楽しみに!




