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天然の治療師は今日も育成中  作者: 礼依ミズホ
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家へ帰ろう

一部表記を修正しました。

 何としても奴らにはファルドの森を出ることなく引き返してもらわねば。無論、私も無傷で帰りたい。

私は再び索敵をした。魔狼が十頭。先程よりも数が若干増えているということは、群れの仲間を呼んだということか。おそらく先頭を走っている少し身体の大きい奴が、群れのリーダーなんだろう。


 まずは奴らの足を遅くするか。私はティスの後ろに魔法で風を起こした。魔狼の群れにとっては向かい風だ。次は大地の魔法をちょっと利用してこの風に砂を乗せて流す。砂混じりの強い向かい風が魔狼に吹き付ける形だ。普段は森の中に棲んでいる生物なので、砂嵐のようなものには慣れていないはずだ。これで奴らが諦めてくれれば良いのだが。


ううむ。さすが群れだけあって、多少の砂埃程度では引き返さないか。魔獣とはいえ、ファルドの森に暮らす一員、無駄な殺生はしたくない。砂埃は断念して、氷の粒を風に乗せて飛ばしてみる。砂粒よりは大きいから、多少は効果があるようだ。もう少し氷の粒を大きくしてみるか。お、これはいいな。さすがに氷粒が顔に沢山当たって少し驚いてひるんだようだ。今のうちに魔狼との距離を広げておこう。


 魔狼との距離は少し開いたが、魔狼達は様子を見ながら私達の後ろをゆっくりとついて来ている。全く、さっさと諦めてくれればいいのに、こちらが脅えて走り出すのを待っているのだろう。相変わらず嫌な奴らだ。一度は遠ざけた魔狼達と自分達との距離がじりじりと狭まってくる。これ以上魔狼達が近づいてこないよう、時々後ろを振り返って大量の氷粒を魔法で飛ばした。


 ファルドの森でこんなことになるとは、私も油断しすぎたな。サーラも状況が分からないなりに手綱を頑張って持っていてくれている。さすがファルドの森で爆睡していた娘だ。そこは褒めていい所か?と内心自分に突っ込みたくなったが、さすがに状況が状況だけに自分の胸中にとどめておいた。ここで我々が襲われたら魔狼達が人間の味を覚えてしまう。人間の味を覚えた魔獣は躊躇うことなくファルドの森を出て近隣の集落を襲い始めるだろう。人間の味を魔獣に覚えさせることだけは絶対に避けなければ。



 しばらく魔狼と私たちの間で緊迫した状況が続いた。しかしながら幸運の女神はこちらに味方してくれたようだ。ようやく前方に薄明るい所が見えて来た。やった!ファルドの森の出口だ。ここまで来ればもう私も躊躇しない。


 「サーラ、森の出口まで一気に駆け抜けるぞ!すまんが、しっかり手綱を持っていてくれ。」

「ティス、行くぞ!出口まで頼んだ。」


私は足でティスにペースを上げるよう指示を出すと同時に、後方の魔狼達へ向かって再び氷粒をお見舞いした。先程より氷の粒も大きく、威力も増してある。魔狼の追いかけてくる速度も落ちて来た。何とかこのまま森の出口まで行けそうだ。私もサーラと一緒に手綱を持ち、サーラの身体がティスから落ちないように確保した。あともう少しだ、頑張ってくれ。



 かろうじて魔狼の追跡を振り切った私は、再び手綱を離してほんの少しだけティスを止めて振り返った。普段森から出ない魔狼達は森の入り口付近でうろうろしている。私達がファルドの森を離れるというリスクを負ってまで追う価値のある獲物かどうか迷っているようで、こちらの様子を警戒しながら窺っている。よし、最後の仕上げだ。もうここから先へは来させまい。私は魔狼達の顔めがけて閃光の魔法を数回投げつけた。こちらの狙い通り、魔狼達の足が止まった。これで奴らも森の外へは出て来ないだろうが、念には念を入れておこう。


 私は森を出てしばらくの間ティスを走らせて一気にファルドの森から離れた。もうここまで来れば魔獣は襲ってこないから大丈夫だ。ああ、ティスには本当に悪いことをした。少し離れた所に王都へと続く街道が見えて来た。あともうひと踏ん張りだ、とりあえず街道に入るまでは移動しよう。


 王都へと続く街道に入った。街道は馬車2台が並んで通れる幅で石畳が敷いてあり、王都と王国の主要な都市間を結んでいる。他にも街道は整備されているが、王都以外の都市同士を結ぶものはここよりも街道の道幅が狭いことが多い。


周囲を索敵がてら確認すると、こちらに敵意を持ったり不穏な動きをしようとする者はいないようだ。日が暮れつつあるので、皆それぞれに目的地や家へ急いでいるのだろう。街道沿いとはいえ、この近辺で夜に明かりが灯るのは王都だけだ。私もこのまま王都へ向かおう。


 「いきなり手綱を持たせて大丈夫かと思ったが、助かったよ。ここまで来ればもう大丈夫だ、手綱をもらおうか。少しの間止まるけれど、そのままティスの上に座っていてくれ。」

私はサーラから手綱を受け取ると、見通しのいい場所で一旦ティスを止めた。


「ティス、ありがとう。よく頑張ったな。」

ティスの首を軽く叩いてやる。ティスもここまで休み無しでよく頑張ってくれた。さすが私の愛馬だ。


 私は目を閉じてごちゃごちゃに張った結界をいったん解き、2人と1頭にそれぞれ結界を張り直した。ついでにティスの鬣に軽く触れながらティスに回復魔法をかけた。サーラがちょっと首を傾げて「ん?」と不思議そうな表情をした。私がティスに回復魔法を使ったことを感じ取ったのか。やはりこの娘、只者ではないな。


「ああ、ちょっとな。ひとまず王都へ無事にたどり着いてから説明するよ。君のことについても、もう少し詳しく話を聞きたいしな。魔獣はさすがにここまで来ないが、この辺は盗賊や人攫いといった物騒なことをする人間達が我々を襲ってくる可能性のある場所だ。魔獣はともかく、そういうことを企む人間も十分怖い。もう少しティスに自力で座っていてくれるか。日が暮れる前に王都に帰り着きたい。」


 サーラも頷いてくれたし、この場はお茶を濁して、とりあえず早く移動しよう。

ここから王都は西の方向だ。大きくなってきた夕日を見つめて「魔狼と競争の次は日没と競争か。」とため息混じりつぶやくと、ティスに笑われたような気がした。



 街道に入ってからは順調そのもの―――サーラが再び眠ってしまったこと以外は―――で移動し、ようやく王都の外れにある我が家こと「魔法屋ノーティス」の建物が見えてきた。さすがに日も暮れかかっているので、王都の街には明かりが灯り始めていた。もうこの時間なら店の2人も帰った後だろう。店の正面を通り過ぎながら店が閉まっていることを確認してから、店の横の小路を入る。しばらく小路を直進し、裏口を開けて中に入った。裏口は荷物を運びこめるようにしてあるため、ティスに乗ったままでも大丈夫だ。


「おい、着いたぞ。起きてティスから降りようか。悪いが部屋に行く前に、先に荷物を片付けさせてくれ。」

私はティスからサーラを下し、ティスに背負わせていた大きな袋を2つティスから下した。サーラはまた寝起きなのでその場でぼーっとしている。袋は馬小屋の奥に隣接した資材置き場へと運んでおく。これは明日、店の者が来てから処理してもらうか。


 ひとまずファルドの森で採取してきた原料を片づけ終わるとサーラに向き直った。

「ところで。」

「は、はいぃぃぃ・・・」

「別に取って食うわけじゃないから、そんなに脅えなさんな。サーラと言ったな。単刀直入に聞くが、君はこの先どこかに行くあてはあるのか?身内とか知り合いとか、仕事のあてとか。」


「・・・・・・たぶん。ない、と、おもい・・・ます。」

と寝ぼけながらもサーラは小さな声で答えた。やっぱり、そうか。

もう日が暮れたから、王都の店も酒場やいかがわしい店くらいしか開いていないだろう。


「そうか。君さえ良ければ、とりあえず今夜はうちに泊まるがいい。さすがに私と同じ部屋で寝るのは申し訳ないから、今夜は台所に君用の簡易ベッドを用意しよう。それで構わないかい?」

「はい・・・ありがとうございます。」

サーラも少しほっとしたようだ。


「それから、お腹は減っているか?いつも家まで食事を持ってきてくれる店も、この時間だと店の方が忙しくて配達は頼めないんだ。家にある台所のパンと牛乳だけで明日の朝まで我慢してもらえると有難いんだが。」

「あの・・・だいじょうぶ、だとおもいます。お水も、もらっていいですか?」

「ああ勿論だとも。台所のテーブルに水差しも置いておこう。コップも出しておくから好きに飲むといい。」

「はい・・・わかりました。」


「そこまで空腹ではないのなら、先に風呂に入るか?着替えは男物で申し訳ないが、私の手持ちの中から君に着れそうな物を用意しよう。君がお風呂に入っている間に台所で眠れるように準備をしておくよ。ああ、風呂場はこっちだ。使い方などの説明もあるから案内しようか。君の鞄は持ったままでいいから、一緒に着いてきてくれ。」


 私はサーラを風呂場へ案内し、使い方を簡単に説明した。

「身体を拭くタオルはここの棚に置いてあるものを使ってくれ。風呂上りに今着ていた服をもう一度着るのはいい気分ではないだろう。着替えはこの籠に入れておくから今日はそれで我慢してくれると助かる。それと・・・私が着替えを置きに来ても良くなったら、ここのドアをノックしてくれるかな。」

「はい・・・。」


 私は寝室に戻ると、手持ちの服でなるべく肌触りのよさそうなものを探した。これがいいか。生成り色のシンプルな長袖のシャツを取り出すと軽く畳み、サーラの合図を待った。

ようやく人間のいるところに帰ってこれました。

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