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天然の治療師は今日も育成中  作者: 礼依ミズホ


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商業ギルドにて 4

登録ありがとうございます。話の切れ目の関係でほんの少しだけ長めです。

 モリスが魔法屋の図面の壁の辺りを指しながら説明してくれた。


「分かりました。ところで、モリスさんは魔法屋の場所をご存知ですか。」

「ああ、王都の一番端っこだろ。勿論知ってるよ。俺は王都以外の町にもよく仕事で行くことがあるからな。」

「ああ良かった。それなら、道案内は不要ですね。それから、今日はモリスさんが魔法屋の建物を見にいらっしゃる時間はありますか。」

「うーん、今日時間があれば見に寄るけれど、現場の進み具合によるかなぁ。今の現場は魔法屋と反対方向だからねぇ。時間がなかったらなかったで、明日の朝、作業を始める前にちゃちゃっと見せてもらうから大丈夫だよ。明日一日で作業をあらかた終わらせたいのなら、最初に建物を建てた人の魔力を借りられると有難いんだが、それは大丈夫かい?」

「ええ、私とロイの二人も立ち会いますので大丈夫です。勿論、モリスさんに指示して頂ければ私達も作業を手伝いますよ。それよりモリスさん、魔法屋のお店を休むのは明日一日だけで大丈夫ですか?」

「ああ、建物を建てた人が魔力を供給してくれるなら、お店は一日休みにするだけで増築自体は何とかなると思うよ。」

「それは助かります。我々も魔力はそこそこあるはずなので大丈夫かと。」


グラントが私の『そこそこ』という言葉に一瞬眉を顰めたが、私が素知らぬふりをしているとグラントも察してくれた。


「エルデ、このままモリスに頼んじまっていいか?」

「ああ、問題ない。」


グラントに返事をすると、モリスの方を向き直り挨拶をする。


「モリスさん、急な話で申し訳ありませんが助かります。明日は宜しくお願いします。」

「いえいえエルデさん、こちらこそ宜しくお願いします。マスターも呼んでくれてありがとう。」

「おうよ、モリス。現場放り出して飛んできた甲斐ががあったろ?」

「マスター。急いで来た甲斐はありますが、作業中に抜けてギルドまで来るのは大変なんですよ。」


エルデ達と遣り取りをしていたグラントが、エリナに声を掛けた。


「エリナ、契約書宜しく。二枚でいいぞ。」

「分かりました。少々お待ち下さいませ。」


エリナが執務室の棚から契約書を二枚取り出し、私とモリスの所へ持って来てくれた。


「こちらが契約書になります。一枚はエルデさん、もう一枚は私共商業ギルド控えになります。モリスさんも控えをご希望でしたら、もう一枚お持ち致しますがどうなさいますか?」

「いや、俺はお客さんに見せてもらうか、ここに見に来ればいいから自分用は無くていい。自分が関係する全ての契約はここに来れば見られるんだろう?」

「はい、ギルド職員に声を掛けて頂ければ大丈夫ですわ。ただし、ご覧になる際は内容の改竄や盗難防止のためギルド職員の立ち合いが必要となりますが、それでもよろしいですか?」

「ああ。俺が家で管理すると書類自体がどこかへ紛れ込んで無くしそうだから、ギルドでしっかり管理してもらった方が助かる。」

「左様でございましたか。それでは、ギルド(こちら)でお預かりさせて頂きますね。」


 エリナとモリスが話をしている間に、契約書を書き上げてしまおうとペンを取って契約書を書こうとした時―――


「エルデさん、少し待ってもらってもいいですか。」


モリスが慌てて話し出した。私はすんでの所で契約書からペンを離し、ペンを持ったままモリスの方を見た。


「えっ?!モリスさん、何か不都合でも?」

「不都合ではないんだが・・・。明日の増築の仕事はモリス建築(うち)で勿論きちんとさせてもらう。そのための契約は結ぶつもりなんだが、魔法を使う工法は、通常の工法を用いた場合とかかる費用と異なる場合が多くてね。その辺りを説明して、エルデさんが納得してもらってから契約して貰わないと、俺がエルデさんを騙したみたいになるだろう?」


いい加減な商人や職人だとその辺りの詳しい説明をせずに契約を結ぼうとするが、モリスは契約を結ぶ前にちゃんと説明してくれるらしい。モリスは良心的だなと思ったが、グラントが私に紹介してくれる時点で、そうでない職人は対象外なのだろう。


「それは知りませんでした。モリスさん、説明をお願いしてもよろしいですか?」


私はペンを戻すとモリスに向き直った。


「ああ。まず、魔法を用いる工法では、俺の消費した魔力も『材料』の一つとして費用を請求させてもらっている。この説明だけでも『魔力なんて目に見えない物の為に、金を請求するなんてどういうことだ。』って文句を言う人も多いんだが、エルデさんはどう思うかい?」

「そうですね。一つモリスさんに質問してもいいですか?モリスさんが消費した魔力の量は実際どのようにして見積っているのですか?」

「自分の魔力が枯渇しそうな時と一日の作業終了時に、魔力ポーションを飲んで朝の作業前の魔力と同じ位に魔力を回復させる。それで、作業が終わるまでに使った魔力ポーションの量からその分の金額を請求している。」

「成程。人間の魔力は時間の経過とともに少しずつ回復しますが、魔力が枯渇した状態が長時間続くのは身体に良くありません。魔力が枯渇する前に魔力ポーションを飲んで、魔力を回復させるのは必要な処置ですね。」

「ああ、やっぱり魔法屋さんは魔法について分かってるだけあって、話が早くて助かるよ。魔力について説明しても、すぐに理解してくれる人は少なくてねぇ。王宮の仕事で説明しても、担当する文官が魔法が使えないと、よく分からないから駄目だ、の一点張りで苦労するんだよ。」


モリスは少しほっとした様子で頭の汗を拭いた。私は話を続けることにした。


「それでは、朝の作業前と同じくらいの魔力に戻ったという判断はどのようにされているのですか?」

「朝の作業前の魔力に戻ったかどうかは経験上、俺自身の体感で判断している。魔力が枯渇しそうな時は目眩がして身体がふらつくし、魔力ポーションを飲んで元々自分が持っている魔力以上に魔力を回復させようとすると、二日酔いみたいに気持ちが悪くなってしまうんでね。疲れが取れてすっきりしたと感じた所で魔力ポーションを飲むのを止めているねぇ。」

「ああ、モリスさんは経験的に魔力酔いが起きないぎりぎりの所まで、ポーションで魔力を回復させているんですね。分かりました。」

「本当は魔力が見て分かる道具があるといいんだがな。魔法屋さんにもそんな商品ないだろう?」

「ええ。うちは魔力を込めた商品を扱っていますが、現時点ではそのような商品(まどうぐ)はありませんね。」


 ふむ、魔力を測る魔道具を今度試しに作ってみるか。と私は思った。


「ところでモリスさん、魔法屋(うちのみせ)では魔力ポーションを作って販売しています。うちの商品である魔力ポーションをモリスさんの魔力回復用に無償で提供した場合は、どうなりますか。」

「魔力回復ポーションを現物支給してもらった扱いにするから、その分の費用は勿論請求しない。それから、作業中に俺以外の人物から魔力を提供してもらった場合も、魔力を現物支給してもらったという扱いになる。」

「では、魔力ポーションと魔力を提供した分だけ費用は安く済むと。」

「ああ、そうだね。」


流石グラントが紹介してくれるだけあって、きちんとしているな。


「念のためお伺いしておきたいのですが、モリスさんがいつもお飲みになられている魔力ポーションは何色ですか?」

「ええと・・・中級だったかなぁ?色は青色だよ。」

「青色なら中級ですね。魔力ポーションはこちらで用意しておきますので、ポーションはお持ちにならなくても大丈夫ですよ。」

「おお、荷物が減るのは有難いねぇ。ポーションの瓶は割れやすいから、馬車で持って行くときには気を遣うんだよ。」


そうか、携帯用に使う小型のポーション類を入れる容器は割れにくい物に変えたほうが良さそうだ。思いがけない所で、実際に使っている人の意見が聞けたのは有難い。


「モリスさん、参考までに通常の工法で増築した場合の見積もりを出して頂けますか。」

「現場を見てないから、ざっくりとした見積もりしか出せないけど、それでもいいのかい?」

「ええ、費用の目安が分かるだけで十分です。こちらも魔力と魔力ポーションを提供する予定ですので、見積もりの金額よりは確実に安く済むと思います。」

「それなら、魔法屋の建物の色や見た目、大まかな素材を教えてもらってもいいかい?」

「そんな大まかな情報で材料が大体わかるんですか?」

「ああ。大体王国近辺で手に入る材料なら大体分かるさ。グラント、王国近辺で手に入る材料の見本帳みたいなのはあるかい?」

「ああ、あるよ。資材総覧でいいか?エリナ、資材総覧をモリスに見せてやってくれるか。素材見本付きの方ね。」


エリナから手渡された資材総覧をモリスと一緒に見る。色目と手触りから私は魔法屋の床はこれ、壁はこれ、と使われている材料に目星をつけていった。


 モリスが概算で見積書を作ってくれている間に、私は魔法屋の増築に関する契約書を二枚書き終えた。

隣に座っているモリスにそれを渡すと、モリスも必要な所にサラサラと書き込んでいく。


「マスター、これでいいか?」


モリスがグラントに契約書を二枚とも渡すと、グラントはちらっと眺めただけで二枚とも契約書をエリナにさっと渡してしまった。


「おいグラント、お前本当にそれ見たのかよ。」


エルデがすかさずグラントに突っ込んだ。


「ああ。俺が見て大丈夫だったから、すぐにエリナん所へ回したんだよ。俺が書類を保管しようとすると、大事な書類程どこへしまったか忘れて紛失する(なくす)か、使い物にならない位ぐちゃぐちゃになることが多いからな。」

「そうですわね、マスターに書類を預けるとろくなことがありません。適材適所ですわ。」


グラントとエリナがにっこり笑って答えた。流石商業ギルドのトップ二人の息はピッタリである。

次回は魔法屋でお留守番中の二人の話です。

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