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天然の治療師は今日も育成中  作者: 礼依ミズホ


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商業ギルドにて 3

登録ありがとうございます。執筆の励みになります。

 「結論から言うと、増改築は事前に王宮へ連絡すれば問題ないそうだ。」

「おお、よかったじゃねぇか。」

「まあね。私はグラントと違って日頃の行いが良いからさ。んふふ。」


私は思わずグラントを煽るように含み笑いをしてしまった。


「何だとぉ!」


グラントが私の挑発に乗り、机をバンッと両手で叩いて勢いよく椅子から立ち上がった。全く、私より年上なのに大人気がなく、すぐに挑発されやすいのも相変わらずである。


「はいはい。」


エリナがパンパンと手を叩きながら言う。


「マスターは身に覚えがあり過ぎるでしょうから、エルデさんに何をおっしゃられても無駄ですよ。」


一言で身に覚えがあり過ぎたらしいグラントが一気におとなしくなり、静かに椅子に座り直した。すぐに撃沈するのも相変わらずである。


「そ、それでだ。エルデ、増築は誰に頼むか決まってるのか?」


気を取り直したグラントが私に聞いてきた。


「うーん、実際そこまでは考えてなかったんだよ。俺自身こんなにあっさり王宮から増築の許可が下りると思ってなかったから、正直かなり驚いている。今、現実問題として生活面で色々不便だから、増築は可能な限り早く始めて欲しいんだけど、増築のために店を休みにする日数は最小限に抑えたいんだよね。我儘って言われてしまえばそうなんだけど、グラントにおすすめの工房とか職人とか、いい伝手はある?」

「そうだなぁ。まぁ立場上、俺にもそれなりに伝手はあるっちゃあるが・・・そもそも、エルデの魔法屋って誰が建てたんだよ。建てた奴が誰かによって、増築を頼む相手が変わってくる。王都の建物って、建てた奴によって流派の違いがあるらしいからな。」

「流派かぁ・・・。俺もそこまで建築関係には詳しくないからなぁ。魔法屋の建物は、私がまだ研究所にいた時に、魔法の練習がてら自分で建てたんだよ。勿論ロイにも手伝ってもらったけどね。」

「何っ!そいつぁ凄えな。さすが学院トップクラスの連中はやることが違うねぇ。で、今回も自分達で増築するのか?」

「グラントだって学院のトップクラスだったのに、何言ってるんだよ。まぁ今回の増築は、できたら自分達でやらずに本職の人にお願いしたいなぁ。」

「分かった。」


グラントはエルデに向かって頷くと、エリナへ向き直って指示を出した。


「おいエリナ、モリスをここへ呼んできてくれないか。」

「マスター。マスターは今ここでエルデさんと打ち合わせ中ですが、モリスさんをこちらまでお連れしてもよろしいのですか?」

「ああ、全く問題ない。仕事仕事、モリスにエルデ絡みで急ぎの仕事を頼む予定だから、見つけ次第ここへ連れて来てくれ。」

「分かりました。それでは私はモリスさんを呼んで参ります。エルデ様、一旦失礼致しますわ。」


エリナはこちらに向かって一礼すると、モリスと言う人物を探しに部屋を出て行った。


 「何から何まで済まないねぇ、グラント。本当に助かるよ。」

「気にすんなよ。せっかく学院時代の友達が久しぶりに俺を頼ってくれてんだ。友達なのに遠慮すんなって。」

「そう?ご無沙汰も甚だしいほど久しぶりに押し掛けたのに、友達の伝手を最大限に利用させてもらって悪いなぁと私は思っているけど?」

「そんな水臭いこと言うなって。俺自身も、俺の友達は凄いんだぞって、久しぶりにエリナに自慢できたからスッキリしたぜ。」

「そうなの?私は何癖もある商人達を束ねる商業ギルドのマスターをやってるだけでも、グラントは十分凄いと思ってるけど?」

「そうか?エルデに改めてそう言ってもらえると嬉しいな。わっはっは。」


グラントはくつろいだ様子で豪快に笑った。私も、グラントのそんな笑顔につられて頬が緩んだ。


 しばらくグラントと雑談をしていると、エリナが小柄でぽっちゃりとした男性を連れて戻って来た。エリナと一緒に来た男性は息も上がっていて滝の様な汗をかいているのに、エリナは涼しい顔をしている。この違いは何だろう?


「マスター、モリスさんをお連れ致しました。」

「エリナ、ありがとう。随分早かったな。モリスも仕事中だったのに、急に呼び出して悪いな。現場から、わざわざここまで飛んで来てくれたんだろう?」


エリナは何も言わずにモリスの分も加えて新しくお茶を淹れていた。カップから湯気がほとんど立っていないのは、汗をかいているモリスを気遣ってぬるめのお茶を淹れたからだろう。


「いやいや。マスターが急に呼んでくれる時は、俺の書入れ時ってことさ。俺をご指名で呼んでくれるんだから、旨い仕事に違いねぇ。」


モリスという男は相当急いで来てくれたらしい。息を整えながらそう言うと、首から下げたタオルで禿げ頭から流れ落ちる汗をしきりに拭いていた。その様子はあたかもタオルで自分の頭を撫でまわしているようにも見える。


「そうだな、モリス。まあこっちへ座って茶でも飲めよ。」


モリスは私の隣に座り、出してもらった茶を勢いよく啜って飲んだ。エリナはモリスが席に着いたのを見届けてから、先程まで彼女が座っていたグラントの隣へ座った。


「モリスに急ぎの仕事を頼みたいんだが、モリスは明日って空いてるか?」

「マスターの持ってくる仕事は相変わらず急だなぁ。んー、明日一日だけなら、今手掛けているところは俺が行かなくても大丈夫だから、店の者に伝えておけば何とかなる、というか何とかするよ。」


グラントはモリスの返答に満足してニヤリと笑った。


「そりゃいいな。おい、エルデ。お前の店(おまえんとこ)こいつに任せてもいいか?」

「良いも悪いも、グラントが良いと思うなら私は構わないよ。」

「なら決まりだな。モリス、こちらは『魔法屋ノーティス』のエルデだ。今回は急ぎでここの増築を頼みたい。」

「おお、あの魔法屋さんか。何だ、マスターは魔法屋さんと知り合いだったのか?」

「俺の同級生だよ。エルデ、こいつは『モリス建築』のモリスだ。エルデはモリスに会うのは初めてか?」


グラントの問いかけに私は頷いた。


「ああ、初めてだ。モリスさん、はじめまして。魔法屋ノーティスのエルデです。グラントは学院の友人なんですよ。」

「マスターの友達に、そんな凄い人がいるとは思わなかったなぁ。しかもマスターが魔法屋の店主と学院の同級生・・・学院たぁ、人は見た目によらないんだねぇ。」


モリスはグラントと私の顔を順番にじっくり眺めると、しみじみ呟いた。


「おいモリス。相変わらずお前は一言多いな。仕事が欲しかったら余計な事は黙ってろよ。」

「ひいぃぃっ。」


グラントの口調にモリスが脅えている。私は可哀想なモリスを助けることにした。


「グラント。ほら、威嚇しない。顔が怖いよ。グラントはただでさえ強面なんだから、モリスさんを怖がらせたら駄目だろう。私とグラントの見た目なら初対面で友達同士だと言われて、不思議に思われても仕方がないだろう。」

「そうか?」

「ええ、マスター。残念ながらそうですわね。」


エリナも賛同してくれた。


「そ、そうか。モリス、悪かったな。」


グラントはモリスに謝ると、咳払いをして仕切り直す。


「エルデ。モリス建築は従来の工法に魔法を融合させるという、モリスが編み出した独自の工法で建物を建ててるんだ。普通に建てるよりも頑丈で工期も短いって評判なんだぜ。しかも魔法を使っているから、魔法屋(エルデんところ)の増築にピッタリだろ。」


確かに、うちの店の増築ならば魔法を使える人に頼んだ方が良いだろう。建物自体も結界を張る上で魔法と親和性が高い方がいい。


「モリスさん、こちらがお願いしたい建物の図面なんですが、増築はどれくらいの期間で終わりそうですか?」


私はテーブルの上に広げてある魔法屋の図面をモリスに見せた。


「どれどれ・・・。ん?グラント、この建物って誰の仕事?」

「聞いて驚け、誰だと思う?」


グラントは良い笑顔でモリスに含み笑いを返す。グラントは私をちらりと見ると、私に答えろと言わんばかりに顎をしゃくった。


魔法屋(これ)ですか?私とロイで魔法の練習がてら建てたんですよ。」

「何と!魔法で建物を建てることができるという話は聞いたことはあったが、実際に魔法を使って建てた人を拝むのは初めてだよ。しかも二人だけで建てちまったとは凄いねぇ。道理で図面の細かいところが普通の建築屋が書いたものとは違うんだねぇ。納得したよ。」


モリスはしげしげと図面を見ながらうんうんと肯いている。


「そうですね。この図面は私がこんな感じの建物を建てようと適当に書いたものなので、建築を本業とされる方から見たら細かいところがかなり違うと思います。私は学院で魔法を使って建物を作る方法は学びましたが、建物の図面を書く方法は学んでいません。出来たら今回の増築に合わせて、うちの店の図面も建築屋さんが書いているような様式に引き直してもらえると有難いんですが。」

「うーん、となると一度建物全部を見せてもらわないとダメかな。ああ、増築は外側から見るだけで作業できるから大丈夫だぞ。増築が終わってから、図面を引き直すのに建物の中を全部見せてもらえると助かる。」

「それは大丈夫ですよ。増築の作業自体は建物を外から見るだけで大丈夫なんですか?」

「ああ、今回の増築のほとんどがこちら側の壁に部屋をつけ足すだけだろ。ここの壁に組み合わされている素材と魔力の流れを見れば大丈夫。建物を建てるのに使う魔法は大体決まっているからね。この程度の広さなら一日あれば十分だよ。」

次回でこの話は一旦区切りがつく予定です。

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