書斎にて 3
2019/7/16 改行を含め、一部表現を改めました。
私は額に手を当てて溜息をついた。相変わらずだな、ミリルは・・・全く。少々元気が良すぎる点を除けば店には欠かせない人材なんだが。
「はぁ・・・ミリル。朝から私を疲れさせないでくれよ。昨日はファルドの森でえらい目に遭ったんだ。」
「まぁ!エルデさんともあろうお方が、珍しいですわね。エルデさんの姿を見たら魔獣の方が勝手に逃げて行くと思っていたのは私の気のせいでしたか?」
「ああ・・・普段は魔獣に見つかるなんて、へまはしないさ。昨日は緊急事態で、ちょっと魔狼に絡まれてな。別に荷物も無事だったし、怪我もしていないから大丈夫だ。まあ、そんなことはどうでもいい。」
私はミリルからサーラへ視線を戻した。
「えぇと。サーラ、こちらはミリルだ。私の店で長いこと働いてくれている女性だ。店へは王都の家から通いで来てもらっている。」
「そう・・・なんですね。」
サーラはミリルの方へ体をゆっくり向けた。私はサーラから再びミリルへ視線を戻し、ミリルにサーラを紹介する。
「ミリル、こちらはサーラだ。急な話だが、今日からここに住み込みで働くことになった。ミリルには色々と面倒をかけると思うが、宜しく頼むよ。」
「サーラさん、ですね。はじめまして。この店でエルデさんのお世話になっているミリルと申します。分からないことがあったら何でも聞いて下さいね。」
ミリルが先程の大騒ぎとは打って変わってにこやかに挨拶を済ませると優雅にお辞儀をした。
「は、はい・・・よ、よろしくお願いします・・・。」
サーラは目の前でお辞儀をする女性が先程エルデに向かって言いたい放題だったミリルと同一人物であることに驚いたようで、まじまじとミリルを見つめていた。しばらく見ていてもやはり同じ人物らしいと確認すると、サーラはミリルに向かって慌ててお辞儀をした。私は、サーラも初日から可哀想に・・・と思いつつ、そんな二人の挨拶を微笑ましく眺めていた。
「さて、挨拶はその辺にしておいて。ミリル、悪いけど急ぎでサーラの衣類を洗濯して、すぐに着用できる状態にしてくれないか。」
「随分と、お急ぎなんですねぇ。」
「そりゃそうだ。ミリル、君には洗濯が終わったらサーラと一緒に王都へ買い物に行って来て欲しいからね。」
「お買い物ですか?お買い物ならエルデさんにだって、できるでしょう?」
ミリルは責めるような目つきで私を見た。通勤で今来たばかりの道を仕事で戻るのがそんなに嫌なのか。
「ミリル。確かに普通の買い物なら私だって自分で行くさ。大人だからね。今日、君に買い物を頼みたいのは、サーラがここの日常生活で必要な物を王都へ買いに行って欲しいからだよ。こういうことに関しては、私よりもサーラと同じ女性である君の方が適任だと思うよ。」
「それとも、私がサーラと一緒に女性の服やら何やらを王都まで買いに行っている間、いつも通りロイと店番をしている方がいいかい?その場合は、私が王都を若い女性と二人きりで歩いている件で、いつもとは違うお客様が随分と増えそうだが。」
私はにこやかに微笑みながらミリルに言い放った。ふふん、今回は私の勝ちだな。
「ぐぬぬぬぬ・・・。流石に変人である私の雇い主が変態とか不審者とかに格上げされてしまうのは困りますわね。エルデさんに変な噂が立って、興味本位でお店に来る野次馬の相手をするなんて、それこそ時間の無駄ですわ。」
「それにエルデさんは奥様や恋人のような方もいらっしゃらないのですから、女性の日常生活に何が必要なのか詳しくご存じでいらっしゃらないと思いますもの。それこそご存知でしたら、ただの変態かよほどの女好きですわね。」
「ここで私がごねて無理矢理エルデさんに買い物に行かせても、エルデさんのことですから、絶対に、大事な何かを買い忘れてきて来そうですよね。結局、私が急いで王都へ買い足しに行かなければならないような気がします。はぁぁ~、仕方がないですね。今日は、私が行きますよ、今 日 は。」
ミリルが今回は分が悪いと諦めて大きな溜息をついた。がっかりしすぎて口から魂が出て来たか?相変わらず面白い奴だ。
「そうだね、そうしてくれると助かるよ。それなら、まずはサーラの服の洗濯を頼む。サーラが着替えられるようになるまで、どれ位の時間がかかる?」
「え~洗う物の量にもよりますって・・・。」
「あ、洗濯物は台所に置いた簡易ベッドの上にまとめて置いてあるよ。人参が入っていた麻袋の中だ。」
「分かりました、ちょっと見てきますね。」
ミリルはバタバタと走って台所へ行き、程なくして書斎へ戻って来た。
「そうですねぇ・・・あの程度の量なら30分位で大丈夫かと。」
「それでは、可能な限り急いでくれ。もちろん、お湯も魔法も使いたい放題で構わない。君に洗濯をしてもらっている間、私はサーラと仕事の話をするから、書斎には鍵をかけておくよ。私かサーラに用がある時は扉を強めにノックしてくれ。」
「分かりました。なるべく早く仕上げますね。それでは失礼します!」
ミリルはお辞儀もそこそこに再びバタバタと書斎を出て行った。相変わらず慌ただしい奴だ。あれで人妻だというのが信じられん。
「さて、ミリルがいない今のうちに仕事に関する話をしようか。お茶のお代わりはいるかい?」
と言いながら私は二人分のお茶を淹れ直した。
ミリルが人妻だという衝撃の事実。旦那の顔が見てみたい。




