表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ヨヨの奇妙な転生

作者: kouto


 坂の上に建つ俺の家、その二階にあるのが俺の部屋だ。

 この夜須賀よすが 陽一郎よういちろう。毎朝、自分の部屋から外の景色を眺めることを日課にしている。

 今日の天気は太陽がさんさんと輝き、窓を開ければおだやかな風が俺の肌を通り抜ける。

 んんぅ~、いつもながら心地良い。やはり朝を迎える時は裸に限る。

 俺はそんな事を考えながら自分の街を一望していた。

「ん? あれは……」

 視力10.0はある俺の目は家から出て真っ直ぐ50メートル、公園の手前を横断する四つ足の小さな影をとらえた。

 まちがいない白いにゃんこちゃんだ。朝から良い物が見れた。きっと今日の運勢はどのテレビでも最高と褒めたたえるに違いない。


 その時、俺の耳に最悪な音が聞こえて来やがった。このすがすがしく晴れやかな朝を一瞬にしてぶちこわした音。それはトラックのエンジン音。

「チッ!」

 俺は思わず舌打ちしながら音がする方を睨む。

「ぬうぅ!」

 俺は驚愕した。

 そのトラックは通常の物とは違う。一般道を尋常じゃねえ速さで走ってやがった。具体的に言うと時速80キロは出してやがる。

「な、なにいいぃぃ!!」

 この時、視力10.0の俺の目はさらなる驚愕の事実を目撃してしまった。高速で走るトラックの運転席。そこにいたのは目を閉じた男だ。そして。

「頭がスイングしてるううう!」

 運転席の男は目を閉じながら頭を前後にカックンカックン振りやがる。まちがいねえ、あの運転手、居眠り運転だ。

「はっ!」

 あのトラックの進行先、それは公園前の道路!

「にゃんこちゃあああん!!」

 俺はバリーンという音ともに二階から飛び降りた。窓を開けていたが焦りのあまりガラスのある方につっこんじまった。だが、今はそんなことどうでもいい!

 トラックは時速80キロ、つまり秒速22.2メートル、公園までの距離は200メートル! トラックがたどり着くまで約9秒!

 対する俺から公園までの距離はちょうど50メートル、俺の足を持ってすれば高校生男子の平均約7.5秒より早い7秒でたどり着く。間に合う! 確実に!

 いくぞ!

 俺は足を一歩踏み出した。


「な、なにいいい!?」

 一歩踏み出した先、そこにはガラスの破片があ! 裸足だった俺の足に突き刺さるうう!

 誰だああ! こんなところにガラスをぶちまけたのは俺だったああ!

 まずいいい、この状況はまずい。この足では50メートルを7秒どころか10秒で走ることも困難! トラックが来る前に、にゃんこちゃんを助けることは不可能!

 何か、何か方法は無いのかあああ?!

「はっ!」

 俺の視界に入った物、それは母さんのママチャリ。なんという僥倖(ぎょうこう)

 俺はママチャリに飛び乗り、スタンドを倒してペダルを踏んだ、が。

「ペダルが動かねええ!」

 ま、まさか。俺は自転車の後輪を見る。そこには盗難防止用のチェーンが巻かれている。

 なぜだああ! いつもは『めんどくさいからいいよね。テヘッ』とか言っている母さんがなぜだあああ!

「うおおお!?」

 俺の体が自転車と共に傾く。スタンドを倒したものの自転車が動かないせいで、バランスが! 駄目だああ! 地面に激突するうう!

 ガッシャーン!!


「う、くっ」

 自転車の下敷きになる俺、まずい! 自転車の件で3秒は使っちまった。にゃんこまであと6秒、いや自転車から這い出ることを考えればあと5秒しかない。

 なにか、なにか無いのか! 50メートルを5秒で移動する、その方法は?!

 くそおおお! どうなっているんだああ! 今日の俺の運勢は最高どころか最低じゃないかああ! テレビィィ!

 落ち着けぇ……、今はテレビを恨んでいる時じゃあない。冷静になって考えろ。ここは坂の上で、公園は坂の下、直線。そう、転がる物があればいいんだ。転がるものが!

 この家の近所で転がるものを持っている家があるはずだ!

 右前方のダイエット好きのおばちゃんが住む家、む、おばちゃんがダイエットで使っているバランスボールが家の前に。捨てるつもりか? だが、バランスボールでは俺の体を運べない。

 では左前方、孫の面倒大好きな老人が住むあの家、む、あそこにあるのは……。

「スケートボードだああ!!」

 0.3秒で解決方法を見つけた俺は自転車から這い出ると、痛む足裏を我慢しながらスケートボードまで走り出す。

 走りながらスケートボードを手に取り、走った勢いを利用してスケートボードに腹這いで乗った。

「待っていろおおお! にゃんこちゃあああ!!」俺は坂道を滑り始めた。


 ……おっと、忘れていたぜ。全裸の俺は体の重心を変え、スケートボードを道路の端に寄せる。そして道路の端からはみ出した葉っぱを一枚掴むとそれを股間に当てた。

 こうでもしなければ公然猥褻になってしまうからな。

 そして大事な事がもう一つ、俺のやっている行為は危険だから良い子は真似するな。

 ふう、これで安心だ。残す不安はにゃんこちゃんだけ。


「うおおおおお!!」

 スケートボードに腹這いで乗る悪い子な俺は坂をほとんど下り終え、にゃんこちゃんまであともう少しだった。だがそれはトラックの魔の手もあと少しだという事だ。

 にゃんこちゃんはそれに気がついたのだろう。俺の姿を見ると体を斜めにして毛を逆立てる。

だれも近寄るんじゃねぇ。そう物語るにゃんこちゃんの姿。それはトラックの魔の手から俺を守ろうとしているのだ。

 だが俺はにゃんこちゃんの瞳が語る真実を見逃さなかった。

 助けて欲しい。誰か来て。

 そう物語っていた。

「今、俺が助ける!」


 ガタッ!

「むうっ!?」

 スケートボードの右の前輪が傾く。車と同じスピードで走るスケートボード、道路にあった些細な小石でもバランスを崩す事はたやすい。

 バランスを崩した今、このままスケートボードで走るのは難しい。にゃんこちゃんまであと少し。

 ここまで良くがんばってくれた、ありがとうよスケートボード!


 俺はスケートボードから発射するように飛び出す。そしてにゃんこちゃんに両腕を伸ばす。

 にゃんこちゃんの胴体をつかみ、拾い上げた。飛び出した勢いでそのまま車道から公園の方へ。

 その時! 俺はある違和感に気づいた。あるはずの物が無い。それは葉っぱ! 今、俺の股間はその姿を露わになっていた。

 まずい! このままではにゃんこちゃん救った公然猥褻人としてニュースのトップを飾ることになっちまう!

 こうなれば最終手段! 俺は両脚を交差させ、太ももで股間を隠す。この状態ではまともに動く事はできない。だが、にゃんこちゃんを救った今、どうにかなるだろう。

 そのにゃんこちゃんはと言うと不安だったのだろう俺の体に爪を突き刺すようにして離さない。


 ふと、トラックの方から影が差した。俺はそちらを見る。

「なにいいぃぃぃ!!」

 トラックが俺の目の前にいやがった。その距離は俺の鼻先からわずか1センチ。その光景は俺の血液をフルスロットルで流れさせ、脳を活性化させる。

 こ、このトラック直前でカーブをしやがった。

 ハッ!

 トラックの左の前輪にあるもの、間違いない! それはさっきまで俺と一緒にいたはずの葉っぱ!

 まさか、葉っぱによってトラックがカーブした!

 な、なぜだあああ、葉っぱあああああ!

 なぜ猫を殺すことだけを考えるそのトラックに手を貸すんだああああ!

 俺は葉っぱに視線で訴える。

 何っ!

 俺は葉っぱの真意に気がついた。

 悲しげにトラックの前輪にひっつく葉っぱの姿は物語っていた。


 運命。


 そう物語っていた。この猫はトラックにひかれて死ぬ。そういう運命なのだ、と。

 俺はトラックに視線を移す。猫を殺すことだけを考えた機械。無表情なそのトラックの姿に俺はそう思いこんでいた。

 だが、それは違った。

 どこか物憂げなトラックの姿、こいつもまたにゃんこちゃんを殺したいわけじゃない。でも運命だから。


 ……そんな理不尽な事があってたまるか! もしそれが運命なのだというなら俺が変えてやる。この命に賭けて!

 来いよ、トラック! だがな! この命に代えてもにゃんこちゃんだけは守る!

「うおおおおおお!!」

 俺はにゃんこちゃんを抱き抱えトラックに背を向ける。

「グゥブロッハァッ!」

 トラックは俺に体当たりする。情けないことに俺の体は思いっきり吹っ飛ばされ地面に転がる。

 一瞬にして体がぼろぼろになる。道路を赤く染めた俺の体、あちこちの骨がイかれちまった。だが、幸運にも腕に抱いていたにゃんこちゃんは無傷のようだ。

 俺の体をぼろぼろにしたトラックは止まらない。にゃんこちゃんにとどめを刺そうと再度こちらへ体当たりを仕掛けようとする。

 この夜須賀(よすが) 陽一郎(よういちろう)。これほどの強敵は重力以来、未だ勝てた事はない。


 もう駄目かもしれないな。

 霞む視界、俺はそっと目を閉じようとして、思いっきり見開いた!

 俺の前にあるものそれはスケートボード!


 あきらめるな、おまえは一人じゃない。


 スケートボードは俺の目の前で雄大に立っていた。


 強大なトラック、裏切る葉っぱ、言うことの聞かない体、前輪にぶつかるとめちゃ痛い小石。……運命は強い。個人の力ではどうにもならないだろう。だが、もう一度言おう。おまえは……ウヴェロッパァ!


「スケートボードおおおお!」

 トラックにぶつかって遠くに飛んじまいやがった。


 ふ、次は俺の番か。

 ……トラック、てめえは俺より遙かに強い。

 だがな! この夜須賀(よすが) 陽一郎(よういちろう)。ただでやられるわけにはいかねえ!

「食らいなぁ!」

 俺は全身、全ての力を右手に込めトラックのバンパーを殴った。

 すさまじき衝撃!

「ぬああぁぁぁ!」

 その衝撃は俺の右手から右肩まで突き抜ける!

 右手はひしゃげ、右肩の間接が外れる。俺の右腕が動くことはもうないだろう。

 だが、俺の渾身の力を込めたパンチ。そいつをまともに食らったトラック、奴もまた動きを止める。

「やっ、ぱ。今日は、ツいてる、ぜ」

 呼吸するたびに砕けたあばらの骨が心臓に突き刺さり、うまく息をすることすら出来ない。

 さらに言えば全身全霊のパンチ、それを放った俺はすでに体に力を込めることはできない。立ち上がることはおろか、抱くことすらもうできないのだ。

 俺は腕から抜け出したにゃんこちゃんの元気な鳴き声を聞きながら意識が薄れていった。




 まぶしい光とともに俺は目が覚める。俺の視界に映ったのはむき出しの木材が見える天井だった。

 俺の部屋の天井は明かりを消すと夏の大三角形が見える宇宙のポスターが張られている。誰かの家に連れてこられたのだろうか。

 地面が柔らかい、布団の上だろうか。俺は上半身を起こそうと床に手をつける。

 体が重い。上半身どころか首まで上がらない。どうやらまだ上手く体に力が入らないようだ。

 だが、不思議な事に傷だらけのはずの体が全く痛くない。

 傷はどうなったのか、俺は自分の手を見る。だがそこにあったのは自分の手とはまるで別の物……。

 なんだこりゃあああ!!

「あーーー!!」

 俺の耳に赤ん坊の鳴き声が響いた。


「ノタシウド、ヨークリッド?」

 うおおおおお!? 優しい声だった。しかし、その声の主はでかい黒髪の女だった。俺の4倍以上はあるでかい女だ!

 ……いや、違う。俺は現状をすぐに把握した。俺が小さくなったのだ! 正確に言えば赤ん坊になっている。

 そしてこの女、この女の喋っている言葉は分からない。だが、おそらくこの体になった事と関係があるのだろう。

 俺がそんな考え事をしているとこの女は俺の股間に巻かれていたおむつを脱がす。

「シラモオイナジャノネ」

 女は脱がしたおむつをまた着せた。どうやら俺がお漏らしをしたと思ったようだ。

 ここで俺は互いに意志の疎通が出来ないことが分かった。そしてそれはこの女が俺の事を何も知らずに俺の世話をしている事を表している。

 うおっ!

 女は俺を抱き抱えると胸をさらけ出した。

「カナオガタイスノ?」

 どうやら今度は俺が腹を空かせていると思ったらしい。確かにお腹の調子を意識しはじめたら空腹を感じる。


 だが、俺は吸わん。

 俺は女の胸から顔を逸らす。

 体は違えど夜須賀 陽一郎、夜須賀家の一人息子だ。赤の他人の乳など吸わん。

「イサナンメゴ、タナアノチモキガテクナラカワ」

 今まで優しく声を掛けていた女が悲しそうな声を出す。今度は何だ、何を言おうとした?

 俺は女の顔を見ようと振り向いた。


 な、なにいいいいい!

 女の頬を流れる一筋のそれはまさしく涙。この女、泣いてやがる。

「ヤオハハクカッシヨネ」

 そう言って女は泣きながら俺に微笑みかける。

 ここで俺は当たり前でとんでもないことに気づいた。たとえ体が違くとも俺は間違いなく夜須賀 陽一郎だ。だがこの女にとっては違う。大切な、そうおそらくは自分の子供なのだ。

 その子供から母親として認められなかったら? もし、自分の子供に何かがあったら? 考えるまでもない悲しみに暮れるのは当然の事だ。


 ……俺は夜須賀 陽一郎だ。だが、この体は紛れもなくお前の子供。いいだろう、このおままごと! とことんつきあってやろうじゃないか!

 俺は女の胸にしゃぶりつき、乳吸いを始めた。

「……タッカヨ」

 女は涙を拭って笑った。



2、3年前くらいに作って続き書こうとしてたけど、未だ続きができないのでこれで終わり、投稿です

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ