黒髪の少女
朝。
という事はあと2日で が滅亡することになるが……スズメの声が聞こえる平和な朝を迎えていた。
「ふぁ……」
あくびをして枕横にあるスマホから時間を確認。平日なら、目覚まし時計がたたき起こす時間だった。
「目覚ましなくても起きられるんだな」
起動を開始した俺の頭は、人類滅亡は本当なのか作り話なのか、という言葉だった。
「………………」
正直、考えたくなかった。
というより『人類滅亡』を拒否したいという考えが強く働いていた。
オヤジ達の壮大なドッキリで、このまま ゆるい観光で終わって欲しいと考えてしまう。
『それって滅亡すると思っているからか……』
そうたどり着きそうになった頭は思考を強制終了し、別の話題を提供した。
「それにしても……何もなかったな。一つ屋根の下……」
目が覚めたら幼なじみが隣で寝てた……なんて……いくら妹にしか見ていないとはいえ、もしかして、万が一がなくもないかもしれないと少しだけ期待を寄せてたのだが。
「これが現実」
手足をいくら移動させても毛布とシーツを移動するだけで、ひと肌に触れる事はなかった。
これが幼なじみの現実というものだ。小学生以上の展開なんてありゃしない。
「そうなんだけれども……」
寝返りを打ち和室スペースを見ると、すやすや眠る栞音とママさん……
……………あれ?
ママさん。頭が大きくなっている。隣にいる栞音と変わらない。頭だけじゃない。布団に隠れているが、体も大きいというか成長しているような。
「…………………………」
2人が起きそうにないので、近くで観察することにした。
夜這いではない|(正確には朝這い)好奇心っていうか、ママさんの変化を確認するためである。
「失礼します|(小声) 」
和室スペースにおそるおそる入り、四つん這いで2人が寝ている布団に近づいた。
「………」
やっぱり一晩で成長している。
小学校低学年ぐらいだったのに今は少女と大人の間、俺らと同じぐらいまで成長していた。たった一晩で。
眠っているので青い目は確認できないが、かなりの美少女。
有名アーティストによる精巧な美術品、と言った方が良いかもしれない。
「ふぁ……」
まぶたがぱっちりと開き青い目が俺を捕らえる。
「え、あ、ごめん。ママさんが成長してるなぁと思って……確認するためだけだから」
とっさの言い訳をしたものの、寝起きの耳には入ってなかったようだ。
ママさんは目が覚めたら俺がいた。としか判断してないと思う。
「たけはる。おはよー」
ガバッと起き上がったママさん は小さな子のように抱きついてくれた……のだが。
めくれた布団の中から見えたボディに布はなかった。つまり、一糸まとわない。裸。
「わっ、ママさん。待った。待って、服を」
慌てる声に栞音が目を覚ます。彼女が目にしたのは、全裸の美少女が幼なじみに抱きつかれているという、非常にマズイ光景だった。
「た……たけちゃんの変態」
枕を思いっきり叩きつけられるというオチで2日目が始まった。
「一晩で成長してたら、誰だって、近づいて見ようと思うのは仕方ないだろ」
言い訳をしながら、カウンターキッチンで朝ご飯にとりかかる。
多めに作ったハズなのだが肉じゃがが残ることはなかった。念のために買った肉や玉子で何を作ろうかと考えながら、みそ汁に取りかかる。
「と言うより、何でママさんに服を着せなかったんだよ」
2人は和室スペース着替えているので、背を向けながら、文句を言う。
何か忙しい朝でやりとりする夫婦の会話みたいだ。
「仕方ないでしょ。ママの体にくい込んで痛くなるじゃないの」
「…………。それってママさんが大きくなるのを知ってたのか?」
「もちろん」
着替え終了宣言で『振り返ってよし』の許可を得たので視線を向けると、見慣れた栞音の横に、見慣れた栞音の服を着る美少女の姿のせいで反論の言葉を失った。
目を奪われてしまう綺麗な青い目に、踝まである長い黒髪が白いワンピースの上をさらりと揺れる。
「たけちゃん、見惚れ過ぎ。ママが綺麗なのはわかるけど」
何か言葉を放ちたかったが、呆れる栞音と、予約炊きした炊飯器が炊き上がりのメロディーを歌い、空気を切り替えてくれた。
「えと、朝ご飯、もうちょっと待ってて」
「はいはい。わかってるわよ」
栞音の機嫌が明らかに悪い。寝起きの光景と今の見惚れたせいだろう。
ただの幼なじみなのに。『もしかして、妬いているのか?』と問いたくなるが、これを過去に聞いたら1週間、口を聞いてくれなかった事がある。
これからの観光を楽しく過ごしたいので、機嫌をとることにした。効果があるか心配。
「朝メシ、玉子があるから、特別オムライスにしようか」
「ほんと? たけちゃん、大好き」
簡単に戻ってくれた。
オムライス一つで。それぐらいの『ヤキモチ』だったと思うと、ほっとするのと、残念なのと、ちょっと複雑である。
「たけちゃん特製の特別オムライス。ママ、朝ごはんはスペシャルだよ」
「スペシャル」
ママさんの口調は幼女のままのようだ。
特別オムライス。特別なのは、チキンライスのなかなかにチーズを入れただけなのだが、チーズが好きな栞音には、特別感があるらしい。
「ただ、ケチャップがないから、栞音、ちょっとコンビニまで買いに行ってくれないか?」
「おっけー。ママ、行こう」
ご機嫌な栞音は元気よく立ち上がったが、ママさんに動きはなかった。
「行かない。たけはる と一緒にいる」
「え。ママ、行こうよ」
「行かない」
「ママ?」
「栞音。ママさん、疲れているんじゃないのか? 無理強いしないで1人で行ってこい」
「…………。そうだね、わかった。その代わり、大急ぎで行ってくる。
たけちゃん、ママに手を出したら、ただじゃ済まさないからね」
栞音の返答に反応せず『車に気をつけろよ』と、言葉を返す。
とはいえ、しばらくママさんと二人っきりになる。
チャンスには間違いない。