電話
「こんなものかな」
鍋に蓋をした所でタイミング良くスマホが着信を告げる。
画面を見ると『オヤジ』と出ていた。
「もしもし」
「おう、岳春よ。達者でやっているかね」
声は陽気で酒くささがここまで伝わってくる。
「3日後に人類滅亡すると言っておきながら、何、飲んでいるんだよ」
「3日後に滅亡するから、飲むに決まっているじゃないか」
こいつ……
「言っておくが、人類滅亡を阻止するためにやれることは全てやり尽くした。もう打つ手はないから、こうやって高級旅館で大宴会するしかないんだよ」
おいおいおいおい
「因みに明日は母さんさんとラブラブデートだ」
「電話、切る」
「まあまて、そうひがむな、あぁ、ひがまないか。栞音君と一つ屋根の下」
電話を切るためスマホを放した。
「栞音君の事は頼んだぞ。彼女こそが、もしかしたら人類滅亡を阻止できる勇者、滅亡に勇める者なのだから」
耳を疑う発言に、スマホを戻すしかなかった。
「は? 勇者って、栞音の事なのか?だったら。あの子は?」
「……え?次? すまんな、カラオケの番が回ってきたから、切るぞ、くれぐれも頼んだ」
そして一方的に切られた。
「…………」
スマホを放り投げたい気分だが、高級精密機器なので普通にしまってから、新しく入ってきた新情報を整理する。
「勇者、滅亡を阻止できるかもしれないのは栞音の方だったなんて」
その真実に浮かんでくる問いはママさんの存在だった。
青い綺麗な目をした黒髪の幼女は何者なんだ?
もちろん栞音の存在もだ。たまに研究所に行って行っているとはいえ、栞音は普通の女子高生だ。子供の頃から飽きるほど見ている俺でも、栞音が人類滅亡を阻止できる特殊な力なんて感じとることはできなかった。
「問いただしてみるか、いや、無理か」
観覧車で栞音に聞いた時、曖昧に返されている。
『ママさんを勇者なのか?』と聞いたらたら、しばらく考えてから『ある意味で勇者』と返してきた。
ママさんはストレートに『勇者』ではない事になる。
「勇者って、そもそも何なんだ。何をするんだ」
3日後に魔王でも降臨するのか?
「全ては3日後。3日になったら、わかる」
3日後、何が起こるのか わからないが、それまでは観光するしかないようだ。
「………」
『人類滅亡』という言葉が少しずつ現実味を帯びている気がする。
それを忘れるため、いや逃れるため視線を時計に向ける。
「栞音のやつ、遅いなぁ、コンビニ遠いのか?それとも込んでるのか」
しぃんとした空間が嫌になりテレビ見るつけると、発射台に取り付けられたロケット、次世代型宇宙船が映っていた。
「……は、天候が良くなり次第、打ち上げを決行すると発表しました」
宇宙の話を聞くと
、3日後の滅亡説が色あせて見える。
「人類滅亡も何も、他の星に行けばいいんじゃね」
呟いた所で、耳は幼なじみ達が戻ってくる音を告げた。




