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3日勇者  作者: 楠木あいら
day3
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カウント ゼロ

 ここから先の景色は、明らかにママさんの体の中から見る景色ではなかった。

 ママさんの体が種となり発芽した以上、取り込まれた俺の体も栄養分となって、成長を続ける植物の一部になっているだろう。

 自分の体がどうなっているのか分からないが、意識はあるので、生きてはいるようだ。


 何よりも目に…いや、脳に直接入り込んでくる映像が、映画のように様々なアングルで切り替わる。



 俺は お終いの瞬間 を鑑賞する事となった。



『飛んでる?』


 スカイツリーの天望回廊からを落ちることなく移動し、少し離れた所で止まる。

 天望回廊上にあるママさんの体が見えるが、もう人の形はなく、スカイツリーから伸びる巨大な蔓が丸い月に襲いかかる勢いで伸び上がっていく。

 お終いの種から出てきた根が、スカイツリーの中に入り込み、スカイツリーのスタイリッシュなボディがぼこぼこに変形し白くなった。

 空中にいるはずなのに映像は地上、建物の内部まで見えて、お終いの根が地上に到達する。

 根が地に着いた時、スカイツリーを浸食した根が緑色に変色した。そして膨れ上がり、そこから無数の茎と葉を広げる。


 茎はしだいに茶色くなり、スカイツリーはお終いの樹木に変わり果ててしまった。


 地に着いた根も一気に広がった。横へ地中へ

 どこかにある地下鉄が、白い根が占拠した。電車もホームも関係なく全てが白くて細い無数の根だけになった。

 地下鉄の階段を根で覆いながら地上に進む。

 地上に出てきた白い根は緑色の蔓に変化し、人間の作り出した建物に侵略を進めた。

 舗装した歩道をでこぼこの蔓にしながら進み、近くの雑居ビルに伸び上がる。

 雑居ビルをせ占領すると、隣接するビルやコンビニへ。

 24時間営業のコンビニには店員や客がいた。

 皆、動くことなく、植物の侵略に顔を歪める事もなく、あっという間に蔓に触れて、茶色い小さな固まり『種』となって一瞬前まで床だった蔓に転がる。

 転がって地中に沈んでいった。


 それは住宅地でも起きていた。


 口を開いて大イビキをかく中年男のベッドが蔓に変わり、男も種に。

 ただその足元にいた飼い犬に変化はなく。主のいなくなった空間を悲痛に吠え続けていた。


『………』


 一つの建物を覆い、それから町を国を、全てを植物が埋め尽くす。



 足元にある光景から、照明という名の光と、人間の作り出した世界が消えた。



『…お終いなんだな』


 俺は昼間、栞音と一緒に過ごした池袋の駅前にいた。

 大型の商業施設がぐるりと取り囲み、様々な色の照明で明るかったのに。明かり途絶えた今、建物は全て蔓となり、今はもう高くて沢山の大きな物体でしかなかない。

 何よりも音がなかった。

 深夜であろうと人が途絶えることはない都市。車やサイレン、人の声、靴音。それらが大なり小なり、騒がしかったはずなのに、風のない今は無音だった。


『今は人間が作った建物の形を蔓が覆っているけれども、夜が明けるまでに地中に沈み土だけになるわ。

 そして朝日が土、私の肌に触れた時、私の体に帰ってきた人間の種が一斉に芽を出すの』


 横に、芽を出す前の美しい成人女性の形をしたママさんが立っていた。


『色とりどりの花を咲かせてくれるから、とてもキレイよ』

『なのに、なぜ泣いているのですか?』


 嬉しそうに語るママさんの目から光の雫があふれ、頬を伝って蔓の上に落ちていった。



『人類滅亡は、ママさんの決定した事なのに?』

『そうね』


 ママさんは涙をぬぐう。


『私の大好きな人間という名の子供達。でも、ママの事を置いて遠くに行ってしまう悪い子。他の(だれ)になんて渡したくない。だから私のお腹に帰らせた。


 でも、他の子たちと違い、1番、ママの事を必要としてくれたの。

 ママの体から様々な物を生み出し発展してくれた。

 空に届きそうなほど高い建物や、遠い所でもあっという間に運んでくれる乗り物。美味しい食べ物や体調を回復する薬。それらを創る機械。皆、ママの体から作り出してくれた。1番可愛い子供達だったわ。


 人間の次はどの子がママの1番になってくれるのかしらね。

 もう、人間のようなママの心を ときめかしてくれる子は、いないのかもしれない』

『…。それでも滅ぼすのですね』


 ママさんは元建物を見上げた。


『えぇ。私だけの可愛い子供ですもの』


 ママさんの視線が俺に向かう。


『さあ、あなたも お眠り、岳春(たけはる)


 ママさんが手を伸ばし、俺の額にかざす。

 その手が近づき額に触れる前、俺は口を開いていた。


『ママさんは、幸せでしたか?』

『ふふ、なぁに。可笑しな事を聞くのね』

『ママさんに聞いておきたかったんです。人間がのさばっていた間、幸せだったのか。

 俺たち人間のせいで、ママさんの体はボロボロになってしまった。けれども、人間を1番と言ってくれた。

 その間、あなたは幸せでしたか?』

『そうね…。

 ママを必要として発展してくれた嬉しい事と、苦しい事。引いてみたら、嬉しい方が残るから、幸せになるかしらね。うん、幸せだったわ』


 ママさんの笑顔に俺も笑みを浮かべていた。


『ママさんが、幸せと言ってくれたら、嬉しいです。

 ほっとして、次の人生いや植物生が進めますよ。

 できれば、この先の人生を色々と確かめたかったけど。人間が作り出した世界とルールの中だけでの話ですが。

 自分が持っていた力、料理の腕、どこまで通用するのか、試してみたかった……勝手すぎてすみません』

『………』


 かざしていた手が離れたと思ったら全身に柔らかくて温かい感触がした。

 ママさんが抱きしめてくれたようだが、体に力が入らない。

 眠くなってきた。


『………』


 人の姿をした地球は、岳春を地面に置いた。

 種に変形しない人間を。


『だめよ、カジュマル。そのままにしてね』


 岳春の周りに蔓が伸び上がり包み込もうとしたが、優しい声で静止させた。


『………………………………』


 そして、月が移動するほど長い間、人間を見続けてから、両腕を広げた。


『聞こえるかしら、私から生まれた全ての可愛い子供たち』


 周囲から ざわっと音がした。


『まあ、皆、いたのね』


 一体どこに潜んでいたと驚くほど、ありとあらゆる生物が地球(ママ)を取り囲んでいた。

 翼や羽根があるものは、空を飛び交い、建物から様々な生き物が顔を出し、一気に騒がしくなったが、地球(ママ)が口を開くとぴたりと静かになった。


『みんな、ママのワガママを聞いてくれるかしら』






『たけちゃん、ママはボロボロになった体を修復するって言ってたよ』


 聞き慣れた声がした。


『あとね、人間に1度だけチャンスを与えるって』


 姿を見ることなく、声は消えた。


「………」


 それから、しばらくして閉じたままの瞼に、光を感じた。

 光という事は、新しい朝が来たという事になる。

 それから犬の声して、完全に目が覚めた。


「ここは? ……これって…」


 どうやら、俺は勇者になったようだ。





おわり



  何はともあれ、書き上がってほっとしています。


 ラスト、人間びいきな展開になったのは、楠木が人間だからです。

 人間ではなかったら、話は変わっていたでしょう。


 地球環境、本当に何とかしたいのならば、あの人の言葉通りだと、思っています。

 とは言え、今ある命を粗末にする気はないので、今できる事をしていくしかないでしょう。

 それが人間が考えた上でのエコ対策であっても。



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