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3日勇者  作者: 楠木あいら
day3
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闇中の宝石

 周囲にあった闇が消えた。


 俺は見覚えのある空間、さっきまでいた民泊の部屋に立っていた。

 でも何だろう? 違和感がある。


「動いた?」


 足を動かしていないのに、目の前の光景が変わる。

 自分はママさんのお腹の中にいて、ママさんが見ているものが俺にも見えている。と分かるのに時間がかかった。


 まるでVRのようだ。

 ママさんが窓を開けてベランダの手すりに飛び上がると俺自信も飛び上がった感覚になる。


「ちょっとまて、ベランダって…」


 頭から民泊データを急いで呼び出す。栞音と一緒に上がった階段は3回分。


「って3階、落ちたらって…落ちる!」


 体がぐらりと揺れて落下…しなかった。

 ママさんは視線を上にあげて闇空にうごめく何かを見つめる。


『ありがとう、私の子供たち』


 両腕を伸ばすママさんの両手に2匹の大きな鳥、30センチぐらいある。それがヨタカという夜行性の鳥だと分かったのは、ママさんの声が届いたからだった。

 ママさんに座られた時、重さを感じなかったから鳥2匹でも運べるのだろうな。

 2匹の周りにも蠢く何かがいる。他の鳥たちもいるようだ。


『真っ暗なんだら、無理はしちゃだめよ。ぶつかったりしてケガしたら、ママは悲しいわ』


 ママの声に鳥たちが一斉に様々に鳴く。

 耳から入ってくる声の意味は分からないが、胸の辺りから鳥たちの言葉の意味が感じ取れた。


『大丈夫』だとか『ママが悲しむことはしないから安心して』とか『ママの近くにいたいの』など、大好きなママさんに不安させず甘えるような返事ばかりだった。


『仕方ない、子供達ね。でも、ママは嬉しいわ』


 ママさんは闇空を蠢く鳥たちを見てから、視線を前に向ける。

 建物の明かりが点々とする都会の闇に


『ママさん、これからどこに行くの?』


 ママさんの声が聞けたという事は、こちら側から話せるのでは?と思い口を動かして聞いてみた。


『うふふ。とても良い場所を見つけたの』


 ママさんの返事は帰ってきた。蠢く鳥たちに声の反応はなかったから、俺だけに直接届いているのかもしれない。


 とても良い場所。移動している間に答えはわかった。


「スカイツリー」


 この国で1番高い塔。

 言い方が遠回りだったのは、ママさんが建物名を知らないからだったのかもしれない。

 遠くで見ると淡い優しい光に見えたが、間近まで接近するにつれて眩しくなる。


『みんな、そろそろ離れた方が良いわ。

 カジュマル。頼むわね』

『まかして、ママ』


 懐かしい名前と声を聞いた。

 それと同時に何かがスカイツリーから伸びてきた。

 ヨタカが離したママさんの手と腰にガジュマルの蔓が巻き付き上に引っ張り上げる。

 物凄い勢いで

 

「逆バンジー!」

『あはははは、たのしー』


 遊園地のアトラクションを楽しむようにママさんは笑った。


『岳春が持っていたカジュマルの一部を、翼を持った子供達が先に運んでくれたの』

『鳥たちだけではママをここまで運べないから。ママの役に立てるなら、お安い御用だよ』


 俺と会話した時には1度も聞いたこともないテンションの高い声を出し、ママさんの役に立てた事を心の底から喜んでいた。


『ママ、着いたよ。蔓は巻き付いているけれども風に気をつけてね』


 引っ張り上げる力が弱まり、塔の上に着いたようだ。

 足元は少し明るい。塔の先端ではなくエレベーターで行ける展望台、いや、その上にある天望回廊だろう。


『まあ、まあまあまあま、何てキレイな景色なんでしょう』


 栞音と中でガラス越しに見たが、外で見る景色は、また格別だった。

 天望回廊から見下ろす建物は米粒よりも小さく、そこから更に小さな明かりが点となって発している。その天が無数に、地平線の彼方まで広がっている。


『人間は、闇に抵抗する明かり、光を作り出して、朝でも夜でも自由に行動するようにできた。何て賢い子なんでしょう。


 きらきらとキレイな光。

 でも、もう見納めなのね』


 足元の明かりが消えた。

 前にネットで調べた事がある。

 スカイツリーは季節に関係なく24時に消灯すると。


『始めましょう。

 終わりの時を』


 今宵は満月。

 足元の明かりが消えても明るいのは、満月の夜がスカイツリー上空でママさんを照らしているから。


『開放』


 ママさんは両腕を広げた。

 胸の辺りが淡く緑色に光り、そこから一つの芽が出た。

 発芽の早送りを見るかのように、手の平ほどの二葉が開き、真ん中から新たなる本葉が伸び出てくる。

 お終いの植物は成長を進め、その重みに支えきれなくなったママさんの体は、ペタンと座り込んだ。

 天望回廊に触れた手足やお尻から沢山の白く細い糸のようなものが、一斉に伸び出し、柔らかい土のようにコンクリートに入り込む。

 それが根となり、人間が作り出した高い塔は、あっという間に変貌した。





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