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3日勇者  作者: 楠木あいら
day3
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消滅

 不意打ちのキスだったので、まぶたを閉じた栞音の涙に気づけた。


「栞音?」


 唇が離れた時、栞音が消えていった。


 目の前から透明になって見えなくなるのではなく、その体から栞音の形がいなくなっていく。

 波打つ髪がサラサラのストレートに変わり、見慣れすぎた幼なじみの顔がCG加工のように滑らかに成人女性に変わっていった。

 人とは思えない美しさを持つ、いや、人ではない美しさを持つEarth(ママさん)


「栞音は私の一部になっていったわ」


 衝撃の一言に、俺は時計を見た。まだ、終わりの時間まで1時間もある。


「終わりの時と関係なく栞音の体はもたなかったの。

 悲しくはないわ、だって、私の元に帰ってきたんですもの」


 イスから降りたママさんの足元に栞音が今まで身にまとっていた服がばさりと落ちた。

 プレゼントした白い花の髪留めも一緒に


(じゅみょう)を終えた全ての子供達は、私の所に帰ってくる。人間達が言う母なる大地へと」


 同時にワンピースがはらりと舞い降りてきた。純白、いや、淡く発光していた。あまりにも薄くて体のラインが見えてしまう。


「お終いの時間まで、まだ僅かに残っているわ」


 そのママさんが顔を近づける。椅子に座ったままなので、ママさんは前かがみになり胸元が視界に入り込んだ。


「栞音に果たせなかった想いを、私に向けても良いわよ」


 俺の首筋に柔らかい感触が触れて吸い付く。


 ママさんは全てを見ていた。


 栞音の頭をお腹に入れて、沈黙している間もずーっと

 栞音の視線で人間が作り出した世界と。人間である俺を。

 俺の行動や表情を見て、話した言葉を聞いて、そこから俺の思考を読み取っていた。


「………」


 ママさんの右手が後ろにあるキッチンカウンターのテーブルについた。

 体が近づき接触して、密着する。

 1人用の肘掛けのない椅子に向き合ったまま、ママさんは俺の上に座った。

 重さは感じないのに太股に挟まれて、脚の上に乗るお尻の感触に再び理性を失っていたかもしれない。


「………」


 だけど、俺は…

 栞音の消滅に涙を流す以外 何もできなかった。


「栞音が…」


 栞音が消えてしまった。

 いつも近くにいて、顔も声も行動パターンも読み取れた幼なじみが、もう2度と会えない。

 突然の出来事で訳が分からなかったが、1秒ごとに栞音の消滅を理解し『悲』の感情が全身を覆い尽くす。


「まあ、そんなにも悲しいのね。人間は何て優しい子なんでしょう。

 感情に簡単に左右されるなんて、人間は、こんなにももろいのね」


 ママさんの口から舌が出て、俺の止まらない涙を舐めとった。


「栞音が…」


 名前しか言えない俺をま さんは母親のように優しく抱きしめてくれた。


「優しくて、弱くて、可愛い私の子。

 その涙が枯れるまで、私のお腹で落ち着きなさい」


 ママさんの感触が消えた。

 いや、ママさんの体に吸い込まれていった。





 気がついた時、俺は温かい所にいた。


「土の匂いがする」


 倒れていたらしく、起き上がり、周囲を確認しようとするが、何も見えない。

 自分の手すら見えない闇の中にいるのに不安や恐怖も感じない。


『私のお腹で落ち着きなさい』


 ママさんの言葉を思い出した。


「ママさんの中?」


 あんな細いウエストの中に人間が入れるのか? と、疑問に思うが、ママさんは地球で、地球の中と考えれば納得がいくのかもしれない。


「…栞音」


 落ち着いた所で、頭は幼なじみを思い出す。


「………」



『栞音』という単語を頭に出すと、彼女と過ごした楽しい記憶が出て、悲しみで思考がストップするが、すぐに記憶が消えてしまった。


「涙が枯れた?

 いや、違う」


 いや、危険を察して本能的に感情を抑えているのかもしれない。


『落ち着いた? 可愛い私の子』


 そう思えたのは、地から優しく響くママさんの声だった。


『私の大好きな人間の岳春には、特別に見せてあげるわ。

 お終いの時を』



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