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3日勇者  作者: 楠木あいら
day3
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瞬く間

「言っておくけど0時になる前に、この体を燃やしたり、高い所から落として破壊するのも無駄だからね。

 ママが大好きな全ての生物が阻止するから。

 生物たちは、ママの体を借りている私の指示に従ってくれるけれども、同時に監視しているからね。0時ちょうどに起動できるように」

「そんな事はしない。そんなしたから、栞音が大変な事になる」

「…。そうだね」


 隣にいる栞音は頭を俺の腕に触れ、展望台から見える小さくなった建物を眺めた。



 あの後、お終いを説明した栞音に返せる言葉もなく、行き場を失った感情を制御できず…水晶のような涙を浮かべた栞音を長いこと抱きしめた。


 人類滅亡を阻止しても、栞音は生きられない。


 いや、もう、阻止する方法もないのかもしれない。その前に考えようとする気力がわかない。


「たけちゃん、VRやろう。水族館、プラネタリウム。夜景も見たい」

「もちろん」


 残された時間を楽しく過ごそうと、やっきになってもいた。

 結局、オヤジたち、いや、大人たちと同じ事をしている。自分はあんな風にはならないと見下していたはずなのに。


「……」


 視線が空に向かう。

 まだ…頭の片隅で阻止できないのかと、もがく部分が残っているが、視線を元に戻した。





「栞音」


 展望台を降りて、店内をぶらついた時、雑貨屋で足を止めた。

 白い花飾りと真珠のついた髪留めを財布から購入する。


「黒よりも、こっちの方が似合っているよ」


 最後の1日を表しているのだろう、栞音から『喪』の言葉をとりたかった。

 俺自身『最後の1日』という言葉を忘れたいのもあるが。


「ありがとう、たけちゃん」


 何よりも栞音の笑う顔が見たかった。


「言っておくけど、オヤジから貰った金じゃなくて、弁当で稼いだ金だからな」

「それ、わざわざいる?」

「いるだろ。栞音が寝言を言っている朝早く起きてだな……」



 そうして、恋人のような、友達のような、いつもの日常のような、特別なのに変わらない時間が過ぎていった。


「……」


 時計は見ないようにしていたが、空は冷酷に時を告げる。

 青い空が薄くなって淡いオレンジになり、赤く染まって、闇になる。


「夜景タイムだね」


 腕を引っ張り、専用エレベーターに向かおうとするが、視線は下を向いていた。

 栞音も時の終わりを感じてる。




 再び来た展望台。

 闇の地に輝く光の花畑はきれいというより、この世のものとは思えなかった。


『もう2度と…』


 そう思ってしまう自分を否定して、脳内に出かかった言葉を消した。


「きれいだね、ずっとみてたい」


 栞音の言葉が重く響いた。

 残された時間が減っていく事に、不安が1秒ずつ増してくる。

 お終いが近付いてくる。


「たけちゃん」


 栞音が腕をつかんだ。


「お腹すいたね。たけちゃんのご飯が食べたいな」


 栞音の言葉は、まだ、時間は残っている。と、言っているように思えた。

 『最後の晩餐』という単語と共に


「作る場所はどうする? 家に戻るか」

「ううん。研究所の所長が、昨日の奴らとかが何かしているかもしれないから、家は戻らない方が良いって言ってた。

 だから民泊の方。何があるかわからないから、昨日の部屋と都内にも週末まで借りてあるから」


 スマホの地図アプリを見ながら、向島(むこうじま)という、スカイツリーが近くにある部屋に向かう。

 栞音がリクエストしたオムライスの材料を近くのスーパーで買ってから。


 一昨日のと似たような部屋に着いてドアの鍵を閉めた瞬間、背中に柔らかい感触がした。


「2人っきりだね」


 カウントダウンは進み、栞音との残された時間は、もう残り少ない。

 もう先はないんだから…

 栞音とは幼なじみだけれども…

 いや、幼なじみだからこそ

 栞音とは幼なじみ以外に思ったことはあるのか? 本当の意味で

 この関係が楽しいから、曖昧に先延ばししていただけで、本当は…


 様々な言葉が頭と心の中で生まれ、自問自答が続いた。


「………」


 だが、振り向いた時、全ての言葉が吹っ飛んだ。

 少し上気した頬に、青色になってしまったけれども、青真っ直ぐに見つめる目と、花びらのような魅惑的な唇に吸い込まれてしまう。


「栞音…」


 俺から『理性』という言葉が消えた。



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