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3日勇者  作者: 楠木あいら
day3
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魔王と勇者

「栞音、大丈夫なのか?だって、今もそんな状態なんだろ」


 本題から逃げるためと言われても否定できないが、栞音の体が心配になった。


「ママの体に入った時は大変だったけれども、今は大丈夫。ママが無痛に変えてくれたみたい」

「ママさん? ママさんの声が聞こえるのか?」

「ううん。私がママの体に入ってから、1度も聞いていない。

 ママは何も言わず、見守っているよ」


 栞音は地面を見て寂しげに微笑んだ。



 会話が途切れ、気まずい時間が流れる。

 僅かだったポテトもあと1本となり、コーラも溶けた氷だけになったが、栞音の問いに答えられる言葉はなかった。

 本当に人間をこのまま好き放題にさせても良いのか? とまで考えてしまう。それを選択したら、自分の生命を無にするというのに。


「魔王と勇者」


 そんな俺を見かねてか、ただ沈黙を壊したかっただけなのか、栞音が変な事を言った。


「へ?」

「滅亡させるつもりでいる、人間にとっては私は魔王だけれども。ママや人間以外の生物にとっては勇者。

 たけちゃんはその反対」

「そうだな…」


 曖昧な返事になってしまったが、栞音は話を続ける。


「お互い、魔王で勇者。

そう。なら、戦ってみる?

 もし、勝てたなら、考え直しても良いよ。

人類滅亡」

「は?え? 阻止できるのか?」

「勝てたらね。

 この前、返ってきた中間の歴史で」


 ふふんと腕組みをして、魔王になったかのように、栞音は余裕の笑みを見せた。


「その前に、人類の運命をテストで争うのか?」

「だって剣を持ってバトルするわけにはいかないし。その前に通報されるよ」

「そうだけれど…」


 ここで補足。

 栞音はよく学校に休んで研究所に行くので、赤点が多い。サポートになれるように勉強しているせいか、俺の成績はちょっとだけ良い。

 ただし、歴史を除いて。 (人類は未来に向かって進むのに、過去にこだわってどうすると思う)

 そして栞音は歴史だけはできた。


「で、たけちゃん、何点だった?」

「ろ、65点」

「…。さて、冗談はさておき、そろそろ出ようか」


 栞音はトレイを持って立ち上がった。


「冗談で逃げるな」

「いいの、どうせ明日はないんだから、勉強できなくて」

「やけになるなよ、そこの魔王」


 因みに65点は平均点。


「まあ、さっきのは、じょーだん、じょーだん」

「は?え?何だよそれ」


 あっさり人類滅亡をかけたバトルを冗談にされて、怒りを感じたが、向こうは逆ギレしていた。


「だって、勝てると思ってたんだもん。

 歴史苦手な たけちゃんなら勝てるから、完全に諦めさせられると思ったの」

「平均点以下で勝てると思ってたのか?」

「成績が良すぎる たけちゃんが悪いの」


 むきーっと小学生のようにほおを膨らませ、そっぽを向いたが、悲しげな顔に変わり、振り戻った。


「ごめん。本当は滅亡、阻止できないよ。

 だってこの体は、終わりの始まり。

 滅亡の起爆装置になるから」




 悲しげな栞音の左右に結ばれている髪留めが目にとまる。

 栞音に再会してから、ずっと目に入っていたが、今になって心の中にまで入り込んできた。

 黒いリボン


「ママが人間の形になった時に、教えてくれたの」


 ファーストフードを出た俺たちは、商業施設隣の公園に行った。

 公園といっても遊具はなく、木々が周囲を囲い公園というより公共の休憩場所と言った方が良いのかも知れない。

 たまにコスプレのイベントが行われているらしいが、今日は静かだ。


「今日の24時ちょうどになると、この体からお終い種が芽を出すの。

 お終いの植物は、地中に根を広げて、一気に地上に伸び上がっていく。

 眠りについた人間と、人間の作り出した全ての物をエネルギーとし、植物に変えていく」

「………」


 言葉を返せない俺を悲しげに見つめ、栞音は残りの説明を続ける。


「この国を植物に変え、海中内に根を伸ばして、他の島や大陸に向かう。

 日が昇る頃には、もう人間は1人もいなくなるって」


 栞音は笑った。

 『悲』の感情のない、純粋な笑顔に


「だから、もう、お終いなんだよ」



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