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3日勇者  作者: 楠木あいら
day3
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都内の冒険

 夏休みの冒険場所は東京の池袋を指している。

 東京の上にある県民にとって、池袋は行きつけの都で、初めて行ったのは小1の夏休み。栞音と栞音のおばさんに連れてってもらった。


「…どっちだっけ?久しぶりだと迷うな」


 電車に乗って池袋駅に着いたのだが、出口に迷う。地元駅と違い、電車を降りて階段上がったらすぐ改札口ではないのだ。


「えーっと東口は?」


 柱や頭上の看板を頼りに進む。 

 多すぎる人に迷路のような地下通路を目の当たりにした時『アリの巣みたい』と栞音がぼやいたのを思い出した。


 池袋が冒険場所と呼ぶようになったのは、小3の夏休み。どっちの親も研究所にこもりっぱなしで、暇を持て余した俺と栞音は2人で池袋に出かけた。

 親に内緒なので費用は自腹。おこづかいと、偶然見つけた親のへそくりの一部を借りて (高校生になってこっそり返した)電車に乗る。

 子供達だけで遠くに出かける事は冒険で、あの時感じた わくわく感は生涯忘れる事はないだろう。


「………」


 アリの巣みたいな地下通路から東口に出る。

 外の広い空間は解放を感じるが、周りを大きな建物が取り囲む都会の光景だった。


「やっぱ東京は違うよな」


 地元はそれほど田舎ではないと思っていた考えを簡単に覆してくれる。

 そして、相変わらず多すぎる人。あの時は、呆然と見つめる事しか出来なかった。


『すごい人…』

『迷ったら大変だな、2度と家に帰れないかも』


 栞音と顔を見合わせ、手を繋いで目の前の交差点を渡ったのは、覚えている。


「とはいえ、さんざんだった」


 小学生なのでスマホという便利ツールは持っていない。なので駅から離れた目的地に着くには、前日までに家のパソコンから行き方を調べるしかなかった。

 印刷、手書きの地図でも書いておけば良かったものの『2人で行くから大丈夫』だと楽観的に考えてしまった。

 案の定、迷った。 (地下通路の出口を真逆に出たのが原因)

 周りの人に聞いたりして、何とかたどり着けたが、あれは奇跡的に着けたとしか思えない。


 そして次の年。しっかり調べ、プリントアウトしたから、迷う事はなかった。


 だが、道中にあるゲーセンに引き寄せられて散財し、電車代がギリギリでジュースしか買えなかったという苦い思い出になったが。


「いも虫のブサカワキモいぬいぐるみのクレーンゲームだったな。何でほしかったんだろう?」


 頭はクローゼットの奥に押しこんだぬいぐるみを思い出し、視線は思い出のゲーセンに映画館、音楽が流れる巨大ディスプレイ、ひしめき合う看板に向かう。

 子供じゃ入れない大人の店は未知なる空間に思えた。まあ、まだ、入れないが。


「……」


 『日の当たる町』の入り口は、地下に向かう長いエスカレーター。周辺に栞音の姿は見当たらないので、とりあえず乗る。

 展示イベントの垂れ幕に自然と目が向かうが、下っていくうちに、1人の少女に向かう。


「たけちゃーん」


 周りを気にして小声だが、ぶんぶんぶんと手を振る幼なじみは、笑顔で待っていた。


「……」


 昔の記憶を思い出してたので、冒険を共にした仲間に再会した喜びが混み上がる。

 だが、同時に昨日の出来事も甦ってきた。

 笑顔を返したつもりだが、果たしていつもの笑顔になっていたのだろうか。


「じゃ、行こう」


 栞音はそれ以上 何も言わず到着した俺の腕をつかむと、奥へと引っ張る。


「何年ぶりだろうね」

「俺も来るまで思い出してた」


 少し軸のズレた返答。

 栞音の本当の体は もうなくて、ママさんの体を借りている。

 借りているはずなのに、再会した少女を栞音と呼べた。

 何年も見慣れた幼なじみの外見をしていたからだが、その目はアースブルー色をしていた。

 栞音だが、栞音でなくなっている。その事実に動揺を隠せない。


「小3から4、5年だっけ。まともに行けたの5年生の時だけだったね」


 軸のズレた返答に栞音はその会話を拾ってくれた。

 そして体について問われないように、何事もなかったかのように話を続ける。


「親と一緒に来ていた広元(ひろもと)に会ったから、そうともいえないだろ」


 俺も、会話がズレないようにしていた。

 聞かなければならないのは、わかっているが、今はまだ、思い出話で現実逃避したい。


「学校で騒がれると大変だって事になって、後で口止め料としてアイスをおごったね。

 ほら、たけちゃんはそっち」


 長いエスカレーターを降りると長め通路があって、歩行エスカレーターが両端に設置されていた。

 ゆっくりで歩いてるのと速度はかわらず、それを知ってから栞音はエスカレーター、俺は歩いていくのがルールになっていて、今も、いや、今だからこそ、そのルールに縛られたかった。


「お腹、空いたね。どこかで食べようよ」

「あぁ、そうだな」


 どこかと言っても入る店はわかっていた。


 親に内緒で行く特別施設、小学生では限りがあり、建物内にあるコンビニでおにぎりを買うのが限界。

 地元にはないファーストフードの店を眺めながら『今度はここに入ろうね』と、約束していた。


 栞音はそれを叶えようとしている。問わなくても、分かった。



 あの時の夢は、あっさりと叶い。そしてあっさりと終えようとした。

 あと何本もないポテトと2口で終わるコーラ。

 思い出話にひたっていたが、行ったのはたった3回なので、会話のネタも尽きつつある。


「………」


 俺たちは現実に戻らなければならなかった。


 明日で人類は滅亡するという現実に。



 ちなみに失敗話は、楠木の実話だったりします。

 地図の読めない奴なので、スマホのGPSを使っても迷います…

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