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3日勇者  作者: 楠木あいら
day2
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後始末

 ドアの向こうにいる川更(かわさら)は、ガスマスクを装備して しゃがみ、ドアを不満げに見上げる。


「小型カメラ、持ってこれば良かった。これじゃあ効果が分からない」


 岳春が気づく余裕はなかったが、足元にあるアタッシュケースからガムテープを取り出し、ガスの噴射直後にドア下を目張りをしていた。


「ホテルには空気の循環環境を良くするため隙間がある。

 素人はドア前にバリケードを置くか、鍵に細工をすれば、安全と思ってやがる」


 川更は立ち上がり、腕時計で時間の経過を確認した。


「同士討ちガスの効果は7分。30分 たてば完全に消滅し、機械による検出もされなくなる。

 …便利だと思えません? 船笹さん」


 ガスマスクの狭い視界では、ポケット中にある種に向けられないが、心の視線は元上司を見つめていた。


「元々は、海の向こうで君臨するマフィアからの依頼で作ったらしいですよ。納品しようとする直前で、対抗組織に潰されたみたいですけど」


 川更は上着をめくり脇にあるホルスターから白銀色の銃を取り出す。


「この見事な装飾が施された銃と一緒に」


 川更はドアに銃口を向け打つマネをした。


「ど素人らしく、非常ベルにビビって出てくれたら、この銃で狙えたのに、残念ですよ。

 立てこもるから、理性を失って同士討ちする ガスカード。代理とはいえ、勇者らしく派手に活躍したかったなぁ。

 まあ、仕方ない。得体のしれないバイオ武器や異常スキル相手じゃあね……」


 川更は無言の視線を感じた。彼の脳内ではペットボトルサイズの元上司が仁王立ちになり、睨みつけている。


「こんな卑怯な手段で勇者になったと思っているの? あり得ない。 なーんて おっしゃってるようですね。

 良いんですよ、勝てば。

 人類滅亡をもくろむ得体の知れないバイオ武器を持った連中に、真っ正面から立ち向って、どれだけ犠牲を出したと思っているんですか?

 苦渋の選択ですよ」


 鋭い視線が和らいだ。


「しかし、悪い奴をたおして勇者になったけれども。上の連中は、人類滅亡事態認めていないから、誰にも喜ばれないんですよね。

 それどころか、人類滅亡阻止したら、いつも通りの生活に戻るだけ。

 残業、休出。空気を読みながらの作り笑い生活。景気と物価は上がっても給料変わらず…あれ? さっき、同じような事を言ったような…まぁ、いいか。

 とにかく、誰得なのかわからない世界のために救って良かったんですかね」


 ふうとため息をついてから、川更は腕時計を見て、脳内にいる上司を消した。

 ガスマスクを外しイヤホン付きマイクで指示を出す。


「非常ベルを止めろ。

 各階、状況報告」


 全て『異常なし』だけの報告に川更は拍子抜けしたが、次の指示をだす。


「制御室、ロビー以外、各階2名を残して全員3階に集合。沈黙を確認した、確保対象たちのいる304号室を一気に制圧する」


 通路が無音になった所で、川更は目張りのガムテープを剥がすため、しゃがむ。


「!」


 非常ベルの音で耳は少し聞こえずらくなっているが、カチャリ という金属音、ドアのロック解除される音を聞き取れた。


 川更は慌てて後方に下がり白銀色の銃を構える。

 その顔は警戒ではなく笑っていた。


「そうこなくちゃ」


 川更の口から笑い声が漏れる。


「このまま、追わっちゃ、つまらないでしょ。

 人類滅亡という緊急事態、まだ、楽しませてもらっていないんだよ、こっちは」


 ゆっくりと開いていくドアに川更の笑い声が大きくなっていく。


「そう簡単に日常になってなるものか」


 状況報告後、3階に非常階段から向かう部下は人とは思えない笑い声と、1発の銃声を耳にした。

 急いで3階に到達したが、その先にある光景を報告できるものはいなかった。



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