2日目の夜
「見つかるわけないよな」
くたくたの体を質素なベッドに預ける。
通話やLINEなど全ての通信を拒否られた栞音を、向かっているはずの東京で、手がかりなしで探す。無謀とは分かっていたが、やはり無謀だった。
「さすがに疲れましたね」
隣のベッドに腰を下ろし、満腹になったお腹をさすりドーベルは言う。
俺たちはビジネスホテルの一室にいる…わかっている。皆まで言うな。なぜシング部屋2つではなく、ツインルームなのか。
「久しぶりに、安心できる人の気配を感じながら眠れられるのですね」
元飼い犬としてドーベルの純粋な言葉だった。
飼い主の家を出てからずーっと孤独だった彼女に1人で寝ろとはいえず、シングルベッドが2つあるツインルームを頼むことにした。
シャワーやルームキーの使い方も心配なので…とも言っておこう。
と言うのも、神奈川から東京に向か時、電車に乗ったのだが…
「うわぁ、思いっきり走れそうですね」
ホームに降りて、線路を初めて見た感想だった…。
食事作法は飼い主を見て|(天気の良い日はテラスで食べていたらしい)見よう見まねで大丈夫だったが、たまに不安になる。
「それにしても使えるんだな、カード」
宿泊施設で受け付けする時、親の同意書代わりに使うと良いよんと言われたカード。試しに使ってみた。
「…………」
フロントが数十秒ほど無言の空間と化したが、無事に部屋を借りることができた。
因みにドーベルの名前は俺が書き、苗字は同じにした。聞かれることはなかったが、もし関係を聞かれたら『従兄弟』としておけばツインルームも納得してくれるだろう。
「ふぁ……」
あくびが出る。
このままでは明日に人類は滅亡してしまう。栞音も見つからない今、何とか対策を練らなければならないのは、それは分かっている。分かっているのだが
眠い。
歩き疲れた上に、腹も満たされているので眠くなるのは当たり前。シャワーは明日で良いのかなと、まどろみ始めた時、事は起きた。
「岳春」
顔の横にドーベルの左腕があった。ベッドに仰向けで寝ている俺の上に、四つんばいになっているドーベルの体があったのだ。




