不安な観覧車
栞音は幼なじみの視線からでも、可愛い方に入ると思う。
ふわふわした長い黒髪を2つに分けて、肩辺りの低い位置で結んでいる。リボンや髪ゴムはその日の気分によって変えてるらしく、今日はクッキー型の飾りがついる。去年の誕生日プレゼントにねだられて買うハメになったやつだ。
そんな幼なじみと観覧車に乗る。言葉だけにすれば『幼なじみからの急接近』みたいな絶好のシチュエーションである。
「すごい、みんな、ちっちゃく見える」
ただし『ママ』と呼ばなければならない謎の子も一緒で、さらに『人類滅亡』という言葉も含まれている状態。
「本当に大丈夫なんだろうな」
俺は窓外の様子を不安げに見回した。
謎の子や人類滅亡やら聞きたい事は山ほどあるが、観覧車の話が最優先となった。
観覧車の営業時間は11時で、学校の授業が始まろうとするこの時間は乗ることができない。なのに乗っている。
しかも乗り口付近で誘導してくれた人は、黒スーツにサングラスをまでした男で、明らかに観覧車の従業員ではなかった。
「話はつけてあるから、問題ないよ。ママ自ら『乗りたい』と言ったから、更に安心」
「何がどう安心なんだ? っていうより、この子が勇者……」
『勇者』という単語を声を落としたが、栞音の返答は普通音量だった。
観覧車が、第三者に聞こえない安全な密室だからかもしれないが。
「勇者?」
しかも『?』がついている。
「え? だってオヤジが横浜に勇者がいるから迎えに行ってくれって言われたんだ」
「勇者…………なるほど、おじさんはそうとらえているのね」
「どう言う事だ?」
俺の問いに栞音はあごに手を当て、しばらく考えてから返答してくれた。
「ある意味、勇者になるかなママは」
「え、何?ママの事?」
窓外の光景から、くりんとママさんが振り返る。
「ママはママで、勇者でもあるの」
「勇者」
へへっと笑い、横に座っている栞音にぴっとり寄り添う。
因みに俺の席は向かい合わせ。栞音と謎の子『ママさん』の親密度は高いようだ。
「えーっと栞音……」
更にわからなくなった俺に栞音はニコリと笑った
「人類はあと3日で滅亡するのよ」
と、宣言して。
「おいおいおい。まさか栞音まで人類滅亡すると思っているのか?」
「思っている、じゃなくて。本当になるのよ。まあ、突然、言われて信じるのが難しいものよね。今は、信じなくても良いよ。
3日間、私達と一緒に観光してくれれば、それで十分」
「………」
少し悲しげな顔をする幼なじみに胸が痛むが、信じる気にはなれなかった。
いや、もしかしたら信じたくないという考えに移行しているのかも知れない……と、心のどこかで感じとったが、首を降って不安を消し飛ばす。
今は、何か壮大なドッキリだと考えることにした。一般人だから、ドッキリなんてありえないから『人類滅亡』と言われた人間はどう行動するのかの研究か、動画サイトにでも痛い投稿するために、どこかでカメラを回していると考えよう。
「……そうするよ」
学校まで休まされた俺は、この3日間、幼なじみと謎の子と一緒に過ごさないとならないのは、逃れられないようである。
俺は、栞音に気づかれないように、ため息を吐き出し、窓外の絶景を楽しむことにした。